※この作品はR-18です。

追放の破戒僧は女難から逃げられない   作:ミステリードール

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脳筋の最後

『新・光の戦士達』は、シュウ包囲網のことはギルド情報で入手していた。

フローラを求めているライル、シュウとの肉体(で語り合う)関係を求めているジード・・・二人がシュウのことについて情報を入手すれば、この場にやってくるのは必然。

ライルの勇者の勘でもって、どこで待ち伏せれば得物がやってくるか当たりを付け、そして今、こうしてシュウ達の方から自分達の目の前にやってくるという、これ以上ない絶好の機会に恵まれることとなった。

 

 

「待ちくたびれたよシュウさん・・・そして、フローラちゃん」

 

 

ライルはニタァと笑うと、フローラへ視線を向けながら舌なめずりをした。

それを見てフローラだけでなく、シュウも背筋が凍る。

帝都での悶着からもいろいろとあったライルは、戦闘能力だけでなく他のいろいろな部分に磨きがかかっていた。その中の一つが変態度である。

 

 

「フローラちゃぁん・・・僕が今すぐシュウさんを排除して、君のことを僕色に染めて上げるからね・・・無理矢理犯して、その後で再生魔法で処女膜の再生からの初セックスだ・・・生まれ変わるんだ。僕達で紡ぐ新しい物語と一緒に・・・」

 

 

ずっとずっとシュウ達の待ち続けてここでキャンプしていたライルは、我慢に重ねた我慢によって、元より怪しかった思考がより怪しくなって取り返しのつかないレベルに到達していた。

『女性と交われば股間が爆発四散する』という帝都で結んだ制約のことはもちろん忘れている。

 

あまりのキモさに、フローラがブワッと滝汗を流しつつも、シュバッと一瞬でシュウの背中に隠れる。

今のライルは流石にシュウでもヤバいと思い、恐る恐るシュウは訊ねた。

 

 

「あの・・・しばらく見ないうちに随分とキャラ変したみたいですが・・・何かあったんですか・・・?なんかメンバーも随分変わったようですし・・・そういえば巷じゃ貴方がモデルになっている変なホモ本とか出てますし、キャラ付けとかどうなってます?なんか心配です」

 

 

訊ねながらも、チラリとシュウは『新・光の戦士達』の他のメンバーへと視線を巡らせる。

筋肉ダルマのジード、何故か上半身裸のチンキン、有名人なのかどこかで見たことのある顔のサブングル、そして無表情で置物のように突っ立っているチヨメ。

旧メンバーとはいろいろあって解散でもしたのか?随分と癖の有りそうなパーティーを結成したなぁ、きっといろいろなことがあったんだろうなぁ・・・と、これには思わずにはいられない。

ちなみにジードが変態なのはシュウも既に知っている。チンキンも恰好からして見るからに変態。なんだこれは?変態に更に変態が混じっている・・・そりゃライル自体も変態になるか、たまげたなぁと考えていたときだった。

 

 

「何かあったかって・・・?フフッ、そりゃいろいろとあったさ・・・」

 

 

プルプルと震えながら、ライルは虚ろな目でシュウを見据える。思わず寒気がするほどの、ほの暗い闇に引き込まれそうな目だった。

ライルの脳裏に帝都で受けた散々な思い出、そしてこれまでの道中の変態な仲間達との忘れたくても忘れられない強烈な出来事が頭を過る。

どうしてこんなことに・・・計画通りなら今頃女メンバーだけでウハウハのハーレムを築いていたはずだったのに・・・と、暗い気持ちになる。

 

・・・だがっ!

 

 

「これまでの地獄の日々も、今、こうして報われようとしている」

 

 

シュウを倒し、フローラを手に入れれば、これまでの苦労も報われる。ライルは得物に手をかけながら、強烈な殺気をシュウにぶつけた。

 

 

「ぬっ・・・これは・・・」

 

 

シュウは肌で感じた。ライルはこれまでのシュウが知っていたライルとは違う、と。

そう、ライルはシュウが最後に帝都で戦ったときは、まるで別人のように強くなっていた。

憎しみのトリガーにした『勇者の超形態』への覚醒、新メンバーによる無双によって培った実戦経験によるパワーアップ、そして何よりカッコつけ重視を止め、勝利を第一とした甘えを捨てた戦いへの意識が、ライルを以前よりも遥かに戦士として高みに磨き上げていた。

 

その以前とのライルとのレベルの違いを、シュウは本能で感じ取ったのだ。

 

 

「シュウさん・・・僕を今までの僕と思わないほうがいいよぉ?」

 

 

そう言いながら、ライルは得物を鞘から抜いて、いやらしく笑みを浮かべながらペロリと舐める。実に気持ち悪いが、不思議な迫力があった。

 

 

「はっきり言おう、シュウさん。今の『新・光の戦士達』は、以前のそれよりも遥かに強い。故に、君たちに勝ち目も逃げられる可能性も一切ない。大人しく降伏すれば、命までは奪わないで上げるよ」

 

 

ライルが瞳に怪しい光を灯して言う。

シュウは新メンバーを見渡して、ライルの言葉がハッタリではないことを確信した。

 

「あの筋肉ダルマ・・・」

 

ジードは・・・なんだか前に会ったときよりも筋肉量がマシで更に魔物化が進んでいるように見える。顔の大きさは据え置きなので、作画崩壊も甚だしい。戦闘力も高いのだろうが、見た目のキツさも凄い。

 

「いかがわしい恰好のホモっぽい男・・・」

 

そしてチンキン。こちらは顔を始めて見るが、上半身裸と恰好はふざけているが身のこなしは完成された格闘家のそれであると、シュウは同じ格闘家同士察した。体には脂肪が多めに見えるが、隠れ筋肉がかなりあると見た。

 

 

「あれはそうだ、間違いなくサブングル・・・サブちゃん!」

 

特に冒険者には超絶有名なサブングル・・・シュウは彼のことは良く知っていた。何なら実は少しファンだったから。

彼の歌が、冒険者の能力を大幅に向上させられるということは知っている。ライル達のために歌うとしたら、かなり手ごわいことになるなと警戒せずにはいられない。少なくともサインねだっている場合ではないだろう。

 

 

「もしかして・・・彼女は有名なチヨメ・・・?」

 

最後にチヨメ。シュウは彼女のことも超有名な斥候職・・・ニンジャの有名人として知っていた。

類まれな斥候としての実力と、そしてカラテという戦闘術によって極めて高い戦闘能力を持つというニンジャ。チヨメはそのニンジャの中でも、飛びぬけて有名な存在だった。

 

 

「なんてこと・・・いつの間にこんな濃すぎるパーティーに・・・」

 

 

シュウは愕然とした。

以前のライルや光の戦士達のメンバー達は、まだ隙があった。逃げに徹するならどうにか出来る余地があった。

だが、今のライルは、メンバーは、とても出し抜けるような気がしない。それだけ圧倒的な存在であると、勘が、細胞が告げていた。

 

 

「くっ・・・」

 

 

一体ライルに何があったのかはわからないが、とりあえず自分が絶体絶命の状況に置かれていることだけは理解したシュウは歯噛みする。

 

 

「先輩。さぁ、再び私と肉体で語り合おうではないか。私の胸筋が先輩に会った悦びに震えている」

 

 

ぬうっとジードが一歩近づく。フローラが「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げた。

 

 

「シュウ様・・・何だかあの人さらに気持ち悪くなってないですか?見た目も、中身も・・・」

 

 

「女子は黙っていろ!男と男の肉のぶつかり合いに、女が間に挟まるなっ!」

 

 

フローラの言葉が聞こえたのか、ジードが吠える。

あまりの嫌悪感にフローラは「あの人苦手ですぅ」と、すっかり震えがってしまった。ジードが得意な人などこの世にはいないのでは?と思いながら、シュウは気合負けすまいとジードを正面から睨みつける。

 

戦いは相手に飲まれたら負ける。

シュウは絶望的な状況にありながらも、決して弱気は見せまいとしていた。

 

 

「良いぞ先輩。その目だ。そそられる。私の筋肉も、ついでにチン肉も震えが止まらん。早く語り合いたい。触り合い弄り合いたい・・・っ!」

 

 

あかん、無理。コイツ本当に気持ち悪い。

シュウは早速心が折れて、あっさり弱気を見せそうになってしまった。

 

 

「私は先輩と語らうためにここまで来たのだ。これこそが生きている意味なのだ。さぁ、始めようぞ・・・」

 

「ん・・・?」

 

 

ジードの言葉に、シュウは違和感を覚えた。

 

(あれっ?この人、他に目的があったような気が・・・)

 

あっ、とシュウは違和感の正体を思い出し、とりあえず訊ねることにした。

 

 

「あの、あなたの目的は確かに私を倒すことでしょうけど、大元は意中の女性を手に入れたいからでしたよね・・・?ええと、確か名はセレスティアという・・・」

 

 

また女性絡みで不幸に巻き込まれているのかよ!な事案だったので、シュウはジードの本来の旅の目的のことをよく覚えていた。

たった一度会った女性のことで逆恨みにされてもなぁ~、とシュウにとって印象的なエピソードだったのである。

 

だが、シュウに指摘されたジードは、訝し気に目を細め、独り言ちる。

 

 

「セレスティア・・・?なんだそれは・・・?私の目的はこの筋肉の更なる昇華のための・・・」

 

 

ジードは本気で思い出せないのか、セレスティアの名を反芻してもピンと来ないようだった。

 

 

「は?忘れてる?その人のために私を襲ってくるくらいだったのに?あなたの想い人だったのでは?」

 

 

じゃあなんで自分は襲われてるんだ!と腹立たしくなったシュウは問う。ジードはしばらくセレスティアの名をブツブツと呼び返していたが、やがて呻きだして頭を抱えだした。

 

 

「ぐっ・・・なんだ一体・・・頭が、頭が割れるように痛いっ・・・!」

 

 

苦しみ出すジードを見て、チンキンが目を細めて言った。

 

 

「これは・・・成長し過ぎた筋肉が脳を侵食しているアル。彼は筋肉に飲み込まれ、憑りつかれてしまったアル。もはや筋肉の修羅アル」

 

 

「えっ?元々じゃない?」

 

 

冷静な顔で分析するチンキンに、流石にハッと彼に返って突っ込みを入れるライル。

 

 

「これはもう終わりのない筋肉への探求が引き起こした悲劇アル。キャラ付けに失敗したアル。彼はもう、生きる全てを筋肉に捧げるよう脳を侵食されてしまった。筋肉に生き、筋肉に死ぬしかないアル。彼の好きにさせてあげて欲しいアル」

 

「あっ・・・ふーん」

 

 

腕組みしながら何やら勝手に理解を示して頷きながら言うチンキンに、何だかよくわからなくて投げやりなリアクションをするライル。

そうこうしているうちに、頭痛が収まったのか、ジードはスッと立ち上がってシュウに向き直る。

 

 

「待たせたな先輩。俺はもう迷わぬ。筋肉の昇華のため、より筋肉の成長を促すため、俺は戦う」

 

 

妙にすっきりした顔で、ジードは言い切った。

こんな男に蔑ろにされてしまうなんて、セレスティアという女性はかわいそうだなぁとシュウは同情する。

が、そうしてばかりもいられない。

 

 

「それでは行くぞ、先輩」

 

ジードが構えを取ると、シュウも慌てて迎撃の姿勢に入る。

 

 

「シュウ様!」

 

 

以前と同じように魔法障壁を展開するアシストに入ろうと、すかさずフローラが魔力の練ろうとする。しかし

 

 

「無粋はおやめください」

 

「・・・ひっ!?」

 

いつの間にか音もなく近づいていたチヨメが、フローラの喉元に短刀を突き付けていた。

 

 

「今、ここは男と男が筋肉で語り合う場。ここに女子が挟まるは許しがたい大罪です」

 

 

早口で言うチヨメの短刀からは、本当に迷いの無い殺気がフローラには感じ取れた。邪魔をしようものなら本当に躊躇いなく刃は突き立てられると察したフローラは、顔を青ざめさせながら口を閉ざすしかなかった。

 

 

「ふっ・・・」

 

 

遠巻きにしていたサブングルは、ポロン・・・と小さな音を立てながら、ギターの弦にかけていた指を離した。

 

 

「一曲添えようかと思いましたが、今ここは筋肉が奏でるハーモニーのコンサート会場。ミュージシャンの端くれとして、邪魔な音を立てるべきではありませんね。聴かせていただきますよ・・・アナタの筋肉(リズム)を」

 

 

微笑を浮かべるサブングル。

今度はライルが「ハッ」と声を出して笑う。

 

 

「勇者である僕より目立つつもり?やれやれ、舞台を整えてやるからには貸し一つにしておくよ?」

 

 

尊大な態度で言うライル。

 

 

「今回は譲ってやるアル。その代わり後でチョコレートパフェを奢るアル」

 

 

ニヤリと笑うチンキン。

 

 

「皆・・・ありがとう」

 

 

メンバーに送り出されたような雰囲気に中、ジードは微笑を浮かべて礼を言った。何だか勝手に空気が出来上がっており、シュウは何とも居心地が悪い。

 

 

「先輩。さぁ、最後の語り合いをしようぞ!先輩を屠り、それを足がかりに私は全ての筋肉を超越するのだ!先輩の筋肉は私の血となり肉となり生き続ける!光栄に思え!」

 

 

グルグル目になって涎を垂らしながら叫ぶジード。短い時間の間に、彼の脳は一段階更に筋肉に侵食されつつあった。

 

 

「くっ・・・よくわからないが、やるしかないのか・・・」

 

 

フローラの援助も期待できない今、シュウは自身の体中に魔力を這わせる。『魔法拳』の用意である。

以前、シュウの打撃はジードの強固な筋肉に思うように通らなかった。今のジードの筋肉は更に成長を遂げており、前よりも打撃が通らないのはわかっている。

だから効果は未知数だが、魔法拳に頼るしか道がない。ライデンには効かなかったばかりだから、何とも不安ではあるが。

 

 

「はぁぁぁ・・・」

 

 

シュウの全身の魔力が纏う。せめてジードを吹き飛ばしたり、怯ませる程度でいい、効いてくれとシュウは願った。相手に隙が出来れば、フローラを連れて全力で逃げる。それが今、シュウが考えていた作戦だった。

 

 

「行くぞ!先輩!!」

 

 

ジードがシュウに向かって突進する。

以前とは比較にならぬほど速い踏み込みだった。が、シュウも冒険者に追われ続けた実戦経験と、魔法拳の効力で速度を上げている。対処は可能だった。

 

 

(いけるっ!)

 

 

シュウは速さで勝っていることを確信し、ジードの懐に飛び込み、拳を突き出した。

 

ボゴォォォォォォォォン

 

ジードの水月に入り込んだ拳が、そのままジードの体を貫通する。

 

 

「えっ」

 

 

そう、シュウの拳は、ジードの筋肉を貫通した。

めり込んだでもない、突き刺さるでも足りない、貫通したのだ。ジードの体に、シュウの拳が文字通りの大穴を空けたことになった。

 

怯ませるどころではない。明らかなオーバーキルだった。

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