シュウがジードの鋼鉄の筋肉を拳で打ち抜いたその時・・・ライル達とは別にシュウを追ってきていたセレスティア達がちょうどそのタイミングで駆けつけてきていた。
「なっ・・・!これは・・・っ」
「シュウ!・・・えっ・・・?」
セレスティア達シュウ親衛隊(狂信者?)は、まずシュウの姿を認める。
次に、彼が相対しているジード。
彼女らは知っている。ジードがどれだけキモ・・・ではなく、強靭な肉体をしているか。その強靭な肉体を、シュウの拳が貫いている。この異常事態に誰もが見張って言葉を失っていた。
「あれは・・・『光の戦士達』の『筋肉帝ジード』ではないか!」
「まさかあれに勝つ男がいるとは・・・しかも素手・・・」
「おい・・・あの化け物を素手で倒せるようなヤツを、俺達は捕まえる気だったってことか・・・?」
「化け物を超えた化け物・・・っ!」
誰もが、セレスティア達までもが、シュウに畏怖の目を向ける。
「ワザマエ・・・ッ!」
チヨメが無表情ながら、どこか感心したようにシュウを見て頷きながらそう漏らす。
フローラは刃物を突き付けられながらも、シュウの勝利に微笑を浮かべていた。明らかなオーバーキルや超展開など、彼女にはどうでも良かった。勝てば良かろうなのだ。
「聞かせてもらいましたよ・・・ジード、あなたの
目を閉じ、どこか満足気に微笑を浮かべているサブングル。
何故かこの事態を好意的に受け止めている二人と違って、流石にライルは顔を青ざめさせて動転していた。
「ば・・・馬鹿な・・・っ!?あのジードが・・・?」
肉体自慢系の魔物と相対するときも、魔法攻撃など搦め手ではなく正面から肉体でぶつかり、そして力で粉砕していた男。見た目はキモいが、誰よりも狂人・・・ではなく強靭な肉体を持ち、そして最強である『光の戦士達』のメンバーの一人としてライルは確かな信頼を寄せていた。
そのジードが、まさかの肉体戦で敗北を喫している。それも、自分が「実力不足」を理由にパーティーを追放したシュウ相手に。このことが、ライルの心を大きく揺さぶっていた。
「ぬぅ・・・まさか、あれは『魔法拳』?いや、しかし、あれほどの強さは・・・」
腕組みしながら、チンキンはシリアス顔で独り言ちっている。
ライルほど気が動転してはいないが、それでも冷や汗を浮かべて顔色を悪くしていた。
セレスティア達も、あまりの事態に言葉を発せず、成り行きを見守っている。
しかし、今の事態に一番ビビッていたのは、当のシュウであった。
「はわわーーっ!?」
シュウはジードの体から腕を引き抜き、マジマジと自分の拳を見つめてから、突如として我に返ったかのように悲鳴を上げて飛びのいた。
「見事だ・・・シュウ先輩ッ」
ゴバッと吐血し、ジードがズシャリと音を立て地面に倒れ伏す。ジードは顔を青ざめさせ、口からは大量の血を吹きだしているが、満足そうに口元に笑みを浮かべている。
不滅なはずの己の肉体を文字通り破られたというのに、むしろジード自身の方がシュウ以上に冷静な感さえあった。
「なっ・・・ななななっ・・・何が・・・っ何が起きた・・・っ!?」
ジードに打ち勝ったシュウ。相手を怯ませるを通り越して、何故か自分が怯んでさえいるが、彼は何が起きているのか理解出来ていなかった。
(『魔法拳』・・・まさかここまで強力だった・・・?)
ライデンには通用しなかった『魔法拳』。ヤックは聖属性を持つ技故に、聖属性の効かない聖獣にはダメージが吸収されたと言っていた。だが、シュウはその理屈を理解しつつも、「実はそこまで魔法拳は強いわけじゃないのでは」と無意識のうちに失望していたのだ。
そこに来てこの常識を遥かに超えたオーバーキル。ビビらないわけがない。
(何が恐ろしいって・・・)
シュウは、ジードに打ち込んだ瞬間のことを思い出す。
鋼の肉体に打ち込んだはずの拳は、実のところそれほど硬いものにぶつかった感覚が感じられなかった。つまりシュウの魔法拳の貫通力は、まだより硬いものに勝るだけの余地を残しているということである。
(いや、まさかそんな・・・)
シュウが自分の手に入れた力の恐ろしさに震えていると、それまで見ているだけだったライルが激昂した。
「シュウさん・・・いや、シュウ!お前は、僕の仲間を手にかけた!その非道、勇者として・・・いや、一人の戦士として、僕は断じて許さない!!」
キッとシュウを睨みつけ、得物を抜いてライルは叫ぶ。
ジードを倒された怒りよりも、ちょうど良いタイミングでやってきている元『光の戦士達』のメンバー、サーラ達へのアピールがメインのためにやっているパフォーマンスである。
「えっ!?いや、まさか私はここまでのことになるとは思っていなくて・・・」
「問答無用!」
慌てて弁明をするシュウに、ライルは言葉を言い終えることを待たずに斬りかかる。
大事な戦力は失ったが、有耶無耶にうちに奇襲に成功。シュウはいつの間にか未知数の力を身に着けたようだが、剣が素手に後れを取ることはない。ライルはそう勝利を確信して、シュウに剣を振り下ろした。
手加減はない。カッコつけもない。あえて言うなら、サブングルの歌によるトランス状態もないシラフの状態だが、それでも問題なく一刀で屠れるはずであった。
「えっ」
が、剣を振り下ろしたライルは、思いがけない出来事に表情を硬直させることになる。
「は?」
シュウも硬直した。
「「「は・・・?」」」
ギャラリーしていた者達も唖然とする。
斬りかかったライルの剣が、折れたのだ。
正確には、シュウによる恐ろしく速いを手刀をもって、ライルの得物が折られた。
大昔、ゴッドハンドと呼ばれたドワーフの巨匠が魂を削って打ち、神々の祝福を受け、魔王を倒すだけの力を持つと言われていたライルの自慢の聖剣が、シュウの手刀に負けたのだ。これに驚かぬはずはない。
「アイエエエエェェェェェ!?」
目を見開き、鼻水を垂らしながらライルは折れた剣を見て絶叫する。
「は?は?は・・・?」
シュウは茫然と自分の手を見る。
防御も回避も間に合わない。そう思ったシュウが、奇声を発しながら無心で取った行動が「手刀による迎撃」だった。咄嗟とはいえ脳筋にもほどがある愚行だと思ったが、またも結果はシュウの想像し得ないものとなった。
シュウは、従来ならば信じられないほどの快挙を二度も起こした。
魔法拳は、シュウ本人も全く想像だにしえないほどに、彼の戦闘力を大幅に引き上げていたのだ。
「あれはもしや・・・東方に伝わるスラッシュ・カラテ・・・!?いかんライル君、相手の戦力が未知数アル!ここは退くアル!」
「・・・」
あまりの出来事に茫然としてしまっていて、ライルは元より戦意が消失してしまっている。
目が点になり、頭髪が真っ白になった上に風に乗ってパラリと抜け落ちるほどの衝撃を受けていた。
「シュウ様!今がチャンスです!シュウ様の
「えっ!?」
ライルへの嫌悪感がレッドゾーンを振り切っているフローラが、チャンスとばかりに叫んだ。
フローラの言葉で我に返ったライルが、ビクゥと露骨に反応して震え、シュウから高速で距離を取る。
「シュウ・・・しばらく見ないうちに、あんなに強くなっているなんて・・・流石アタシが認めた男・・・」
「先輩・・・もう見ているだけで胸が苦しくなります・・・」
「シュウ、もうライルなんてゴミ同然じゃない・・・どこまでも規格外の男だわ・・・」
「ダーリン・・・やっぱり、私の男はダーリン以外に考えられない・・・」
シュウ親衛隊の面々は、シュウの強さにすっかり見惚れてトリップしてしまっている。
ライルはカッコつけて良いところを見せてポイントを稼ぐどころか、聖剣を折られた上にシュウに更に惚れ直させるという踏んだり蹴ったりの状況だった。
だが、この後ライルに更なる不幸が降りかかることになろうとは、このとき誰も思ってもいなかった。