ジードは倒され、女の前でカッコつけるどころか、自慢の聖剣がプライドごと折られたライルに、この上更に不幸が降りかかることになった。
そのきっかけは、セレスティア達と一緒に来ていた冒険者の一人である。
「こ、これは・・・っ!」
一人の若い冒険者の男が、いつの間にか倒れ伏したジードの近くにおり、地面に転がっている何かを見つけ声を上げていた。
大げさとも言える大声、そして「この状況で良くあんなところにいられるよな」と言われそうなほどの特等席に立っているその男は嫌でも良く目立ち、この場にいる全員の目を引いた。
その男は言う。
「これは『筋肉の芽』じゃないか!」
男は叫びながら地面から小さい何かを拾い上げる。
彼の手には、何か細かな複数の触手がウネウネ動く、気持ち悪い生き物のようなものがあった。
「き、筋肉の芽だと!?あの禁止物の!!?」
数人の冒険者が驚愕する。その打って響くようなリアクションもあって、冒険者達が騒然としだした。
筋肉の芽と拾い上げた男が、説明的に大声で叫ぶ。
「そう!人の体に憑りつき、その人間を筋肉のことしか考えられないようにコントロールする人工生物!非人道的なものとして、麻薬と同等の禁止物として多くの国で定められている、悪魔の呪物だ!!」
筋肉の芽。
男の言う通り、人間に憑りついて思考を筋肉一色にしてしまい、筋肉の修羅を作り出す悪魔の生物である。分類敵には魔物に近い。
まともな人間なら避けて当然の呪物だが、稀に筋肉を愛しすぎた変態が好んで体内に取り入れることもあった。人智を超えた変態である。
残念なことにそれがジードだったのだが、ことがこと故にそのことは極秘で、『新・光の戦士達』もその事実を誰も知らない。
「なっ・・・それがどうしてこんなところに・・・」
思わず声を洩らしたシュウに、男が言った。
「恐らく、この筋肉ダルマに憑りついていたんだ。この異常で気持ち悪くて臭そうな筋肉を育て上げていたのは、これに憑りつかれて正気を失っていたからじゃないか。体内にいたこの筋肉の芽が、体を貫かれたことによって外に押し出されたんだ」
そう言って、男は倒れているジードに目を向けた。
確かに、ジードは何かに憑りつかれていたかのような筋肉馬鹿である。憑りつかれての異常行動だったのだとしたら、これ以上ないくらいシュウには合点がいった。というか、そうでもなければ納得できない。
「あー・・・そういうこと」
残念なことに、ライルも納得してしまう。
が、ライルは呑気にそんなこと言っている場合ではなかった。その流れが斜め上だったからだ。
「問題は、この筋肉の芽がどこから来たのか。これは人工物で自然界には存在しない。そして禁止物故に簡単には手に入らない。だからこれは、ある程度権力や人脈を持った人物が、この筋肉ダルマを意図的に生物兵器としてコントロールするために手に入れ、そして憑りつかせたんだ」
男はそこまで言って、もったいぶるように一度言葉を切った。
そしてバッとライルの方を向いてから、再度口を開く。
「それを行える人物・・・それは、勇者であるライル、アンタだ!」
「「「な、なんだってー!?」」」
場は騒然とする。
勇者が禁止物に手を出し、しかも仲間を利用するという非人道的な行いをしたのだ。驚かないはずがない。
「・・・は?」
もっとも、一番驚いているのは完全に寝耳に水のライルであるが。
「ライル・・・そんなことを・・・」
「・・・でも、何かやりそうです。手段選ばなそうだし・・・」
「ハーレムのために仲間を追放するくらいだもの・・・それくらいはするわよね・・・」
元光の戦士達の女性陣は、皆納得してしまう。
「そういえば、ここのところの『光の戦士達』って何かヤバかったみたいだよな」
「戦闘力は異常に高いが、何か頭もイッちまってる感じだったらしい」
「なりふり構わないイカれた勇者か・・・筋肉の芽で戦力増強してもおかしくないな」
冒険者達も、ここ最近の『光の戦士達』の狂暴なエピソードと繋げてしまい、「筋肉の芽、ライルが用意した説」が一気に信ぴょう性を帯びてしまっていた。
「は・・・?え・・・?どういうことなの?」
疑惑の目・・・というか、周囲の誰もが確信を持ってライルに冷ややかな視線を向ける。
「ライル・・・あなたは、何ということを・・・」
シュウですら驚愕と、そして哀れみの目を向けた。
完全にライルはとばっちりである。だが、普段の行いが行いなのである意味でこれも仕方がないのだ。
「勇者ライル!これは許されることではないっ!俺はアンタを告発するっ!!」
筋肉の芽を持ったまま、男は自分に酔っているかのようにカッコつけたポージングをしながらライルに指を突き付けた。既にライル断罪の雰囲気が出来上がりつつある。
「ライル君。いろいろと風向きが悪いアル。ここは一旦退いたほうが良いアル」
チンキンが囁く。
「えっ?それ悪手じゃない?」
ここで逃げられば、やましいことがあると白状しているようなものだとライルは思った。
「普段の行いが行いだから、ここで何を言っても信用してもらえないアル。そしてシュウという男にも戦闘で勝てないかもしれないアル。断罪もされ、戦闘でも負けてしまえば、最悪も最悪アル。ここに残っても何も良いことは無いアル」
「有るのか無いのかどっちなんだ!ああ、くそ!なんて理不尽!」
ライルは半泣きになりながら、「今日はこのくらいで許してやる!」と叫びながら退散していった。フローラの横にいたチヨメもいつの間にか移動しており、ライル達と一緒に走っている。「チヨメがいれば多分戦闘くらいは勝てるんじゃない?」とライルの頭を過ったものがあったが、とりあえず逃げるので精いっぱいで考えることをやめていた。
「」
ちなみに、皆してジードのことはすっかり忘れてしまっている。体に大穴を空けて失禁し、痙攣、大量出血しているジードは決して普通の状態ではないのだが、今、この場にいる誰もがそれに構っている暇はないのだ。
「ダーリン・・・やっと会えた」
セレスティアが、頬を紅潮させながら瞳を潤ませ、熱い視線をシュウに向けている。
そう、セレスティア達の目的はシュウ。ジードになぞ構ってはいられないのだ。
「えっと・・・あなたとは帝都でお会いしましたね。一度だけ」
セレスティアの顔を見て、帝都でゴロツキから守ってあげたときのことをシュウは思い出した。ジードの話を思い起こすに、彼女がたった一度だけ会ったそのときをきっかけにして自分に惚れているという。
・・・こんな遠方にやってくるまで?たった一度の出会いで?
シュウは引き攣った表情で、じわじわと後退する。ヤバい女の臭いがする。シュウの勘が告げていた。
「シュウ。ようやくここまで来た。早く私のモノになってくれよ」
セレスティアに並ぶように、サーラが前に出る。
「シュウ先輩。もう逃げることは出来ませんよ。大人しくしてください」
今度はアリエス。呼び方がジードとかぶって嫌だなぁ、とシュウは思った。
「シュウ・・・もう待ちきれないわ。貴方をダルマにしてでも、私の脱処女に強力してもらうから」
レーナが最後に前に出る。言ってる内容は彼女が一番ヤバい。こんな女だと思わなかったなぁ、とシュウはげんなりした。
シュウの前に、美女だが過激な女が揃い踏み。誰もが目が怪しい光を帯びていておかしい。関わってはいけないと、シュウの全細胞が告げている。
ちなみに他の冒険者達は、シュウの実力をまざまざと見せつけられたので及び腰になっている。シュウ自身ですらドン引きするスーパープレイを目の前にして、それでもなおシュウを確保しようと突っ込むやつは命知らずである。
「シュウ様には指一本触れさせません!私でさえシュウ様とお預けが続いているんですから、なおのことッ!!」
一言余計なこと言いつつ、フローラがシュウの前に立ちふさがる。
一触即発の空気の中、それを打ち破る新たな乱入者が現れた。
『グォォォォォォン』
咆哮しながら空を飛ぶドラゴン・・・である。
冒険者達から悲鳴が上がった。
「は?」
シュウは間抜け面をしてドラゴンを眺める。空気読めよこのドラゴン、とシュウは思ったが、あるものが目に入って思考が停止した。
それは女だった。女がドラゴンの背に乗っている。
「シュウ君!」
ドラゴンに乗った女が叫んだ。
シュウの脳裏に、ある一人の女性の記憶が蘇る。
「・・・エリーザッ・・・」
シュウは、目を見張ってその名を口に出す。
聖神教会十三騎将『血しぶき大将エリーザ』。帝都からシュウを追ってきた女が、これ以上ない混沌としたタイミングで参戦したのだった。
本当、もうジードのことなんて誰もがどうでも良いと思っていた。それだけの超展開である。