「ちっ・・・やるしかねーか・・・」
サーラは一瞬だけ躊躇った後、肝を据えたような眼光でスコーンを睨みつけながら腰元に差してあった得物に手をかけた。
「えっ・・・黒鉄の壁って、帝国の騎士団ですよ?本当に・・・やるんですか?」
アリエスが青白い顔をしながら問う。問うてはいるが、彼女もまた覚悟を決めた表情を浮かべている。
「どのみち私たちは御尋ね者。ここで狼藉働いたところで変わらないわ。・・・と、いうか・・・ここで抵抗しないと最悪も最悪の状況になるじゃない」
レーナも魔法の杖を手に取り、鋭い殺気をスコーンに向ける。
スコーンのあまりに気持ち悪い衝撃発言が、サーラ達に覚悟を決めさせる一因となっていた。
迷いがないわけではなかったが、ここで捕えられればシュウを追うことが出来なくなるどころか、明後日の方向に拗らせたスコーンの慰み者になってしまう。それよりは反逆者として罪を重ねようが、ここで戦うしかないと決断した。
サーラ達が抵抗する姿勢を見せたのを確認したスコーンは、クックッと心底嬉しそうな喜びの笑い声をあげる。
「そうだ、抵抗するのである。抵抗しなければ捻じ伏せる喜びを得ることができん。君たちの抵抗を捻じ伏せたのちに拘束し、絶望と嫌悪に歪んだ表情をオカズにまずはオナニーをするのである。装備装着状態、半裸、トップレス、全裸と段階に分けて体中にぶっかけて何度か見抜きで楽しんだ後、いよいよ本番である。フフフ・・・」
うわぁ・・・と、周囲にいる者達がドン引きし、辺りの温度が一気に下がった。「ほぉ、良い趣味してるじゃねぇか」と一部の人間だけは感心していたが。
「あー、これ、戦わないとダメですね。もはや考えるまでもないですね」
僅かに迷ってはいたものの、スコーンの一言で完全に迷いの吹っ切れたアリエス。
「反逆者の汚名を受け入れてでも、アイツだけは絶対イヤ」
レーナは心底嫌そうに表情を歪める。
「音に聞こえし黒鉄の壁のスコーンか。いざ!」
剣を構えるサーラ。
これに対してスコーンは、低く笑って腕を組んだまま仁王立ち。余裕の構えである。
「元『光の戦士達』と黒鉄の壁の戦いか・・・スゲーものが見られそうだぜ」
「喉がヒリヒリしてきやがった・・・なんて重苦しい空気だ・・・!」
冒険者達は自分達は関係ないからと、サーラ達の戦いを傍観する姿勢だ。
それに混じって、フローラも呑気に構えていた。
「フッ、大変ですねアナタ達」
フローラはライバル達が丁度良く足止めを食らっているので、その隙に一人抜けだしてシュウのことを追いかけようと思っていた。
だが・・・
「犯してやるぞフローラ」
「ファッ!?」
唐突に、無関係を装っていたフローラに向けて、ギュンッと凄まじく振り向いたスコーンが言う。
フローラは、急に振られた変態発言に顎が外れそうなほど口をあんぐりとあけて茫然とした。
「フローラ。君も帝都を騒乱した罪で捕縛するのである。聞けば聖女である君もあろうことか不埒な男に操を捧げたというではないか。拙者がその不浄なる体を
「嫌ぁ!」
サーラ達とフローラ。
いかに帝国で名の知れた黒鉄の壁と言えど、元勇者パーティーと聖女を相手では分が悪かろう・・・ギャラリーしていた冒険者達はそう思っていた。
「全員、かかれ」
サーラ達と睨み合っていたスコーンが、片手を上げてそう言った時だった。
それまでスコーンの奇行に悔し涙を流し、ただただ棒立ちになっていた黒鉄の壁の騎士達が、一斉に動き出した。動機は不純極まりないとはいえ、団長であるスコーンが命じれば彼らは直ちに動く。
騎士達から発せられる圧倒的な殺気。
団長は変態でアレでも、騎士達の実力は本物だとサーラ達は肌で感じた。
「っっ!!」
手加減をしている余裕などない。瞬時にそう察したレーナは、最初から全力で応戦すべく魔法を使用した。
使った魔法は、またもダブルドラゴン。今度は両手に猛吹雪で構成されたドラゴンを放った。触れれば即座に凍る吹雪は、一瞬で騎士達の全身を氷漬けにし、歩みを止めさせる。
だがそれも一瞬だった。
バキバキバキ・・・
騎士達は、全身が凍ったにも関わらず動きを止めることはなく、力づくで体を覆う氷を破壊して進軍を開始する。
「なっ!?」
動きを止めるどころか、死人が出るのもやむなしとまで考えて魔法を放ったレーナは、騎士達が思いのほか平然としていることに驚愕した。
「ふむ、この甲冑は頑丈なのはいいが、少しばかり蒸し暑くて涼を欲していたところである。丁度良い」
氷をぺりぺりと手で払うように剥がしながら、スコーンは余裕の態度だった。レーナは、嫌悪感のあまりスコーンによく効くよう念入りに冷気をぶつけていたが、まるで意に介していない様子にドン引きする。
「我々の着ている甲冑は、帝国の技術をふんだんに取り入れられた最高傑作である。物理的なダメージはもちろん、対魔法対策も取り入れられており、生半可な攻撃では傷一つつくことはないのである」
ドンと、スコーンが誇らしげに胸を叩く。
他の騎士達も何事も無かったかのように進軍を開始し、レーナの魔法は本当にほとんど効果が無かったことを知らしめていた。
「・・・」
次に仕掛けたのは、アリエスだった。
彼女は無言のまま、両手でパンッと柏手を一つ打つ。次の瞬間・・・
ドンッ
騎士達が突如として、見えない何かに挟まれるように左右から凄まじい衝撃を受ける。
「ぬっ・・・」
見えない何かに圧力を加えられて動きを止められたスコーンは、少しばかり唸る。
が、その直後に突如として笑い出した。
「フハハハハッ!これは魔法障壁の応用であるな?既に報告に上がってきているのである」
アリエスが使ったのは、防御用である魔法障壁だ。魔法障壁を意のままに動かすことにより、押し付ける、圧死させるといった攻撃への転用である。
そう、かつてフローラがジードに対して使った方法を、偶然にもアリエスも思いついていたのだ。
「これは逃走の道中フローラが使ったと聞いた手法であるな。報告通り、アリエスはよくかぶるのである!」
「なんですって!?」
魔法障壁の転用は自分が編み出したオリジナルだと思っていたアリエスは、帝都と引き続いてまたもフローラとかぶったと聞いてショックを受けた。
「これに対する対策もとれているのである」
スコーンがそう言い、少しばかり力を込めるように唸りだすと、フンッと押し返すように魔法障壁を弾き返し、霧散させた。
「えっ」
他の騎士達もスコーンに続くように魔法障壁を無効化させ、アリエスは茫然とする。
「君らが使う聖属性の魔法障壁については、既に分析が済んでいるのである。甲冑の防御で耐えている間に、魔力を流して即座に中和して無効化する方法を我騎士団は全員会得しているのである」
スコーンのネタばらしを聞いて、アリエスは「嘘・・・」と口を半開きにして後ずさる。
黒鉄の壁は、サーラ達だけでなくシュウ達の情報も積極的に集めていた。その上で、道中彼らが使用した魔法などについてしっかり対策を施し、万全の準備をもってこの場に臨んでいた。
その入念な対策、高い能力、最高の装備品が加わっている黒鉄の壁は、まさに鉄壁の壁としてサーラ達を包囲しつつあるのだ。
「次はサーラか?何をする?手を見せてみよ・・・ん?」
余裕ぶったスコーンが、サーラに次の手を促そうとする・・・・が、サーラの姿がいつの間にか消えていた。
なんとサーラは「この流れならアタシの攻撃も対策されてるな」と判断し、他の二人が盛り上がっている最中にこっそり逃げ出していたのだ。
「あっ!いつの間にッ!?」
アリエスが気付いた頃には、既にサーラはこちらに背中を見せ、全力疾走で逃走を開始していた。
「これはやられた。この空気でまさか一人逃げ出すとは思わなかったのである」
やれやれとスコーンは首を横に振る。
が、彼の言葉にそこまで落胆の色は無かった。
「どうせ逃げきれないのである。後にとっておく楽しみだと思って、ここは一旦見逃してやるのである」
グフフ、と瞳に怪しい光と灯して、スコーンは残った女性陣に舐めまわすような視線を向ける。
「まずは代わりに君たちでこの溜まりに溜まった欲を発散するのである。さぁ、覚悟は決めたであるか?」
じりじりと不気味なオーラを放ちながらにじり寄るスコーン。
最強の騎士達に囲まれ、絶体絶命な女達。
その終末感漂う空気に、誰も口を開くことはなく、辺りは重い沈黙に包まれる。
セレスティアは「どうしよう、とりあえず自分は関係ないから見てようかな」と、蚊帳の外でじっと黙っていた。
「はぁ・・・仕方がありませんね」
沈黙が支配する中、フローラが溜め息混じりに口を開いた。
黒鉄の壁が乱入したことで一旦お預けになっていたが、今、フローラは再度誰もが怖気づくほどの怪し気なオーラを放っている。
何をやろうと言うのか。あまりのフローラの迫力に、スコーンですら冷や汗を一筋流していた。
「死んでしまったら申し訳ありませんね。こんな理不尽な状況に追い込んで、私を怒らせたのが悪いのですよ?」
内容の割に涼しい顔でそう言って、フローラは何やら手で印を切る。
この場にいる全ての人間にとって、とてつもなく恐ろしいことがこれから始まろうとしていた。