「・・・はっ!?」
エリーザが駆るドラゴンに掴まれて運ばれているシュウは、ようやく我に返った。
既にフローラと共にいた元いた場所からは遠く離れており、シュウは今更のように焦りだす。
「くっ、まずい・・・すぐに戻らないと・・・っ!」
シュウは自分を掴んでいるドラゴンをどうにかしないと、と思いつつ、またも今更のようにとあることに気付く。
ヒョォォォォォォ・・・
今、自分は落ちれば即死の遥か空の上にいるということに。
いくらなんでも放心し過ぎである。
「あばばばばば・・・」
顔面を蒼白にして、シュウは震えだす。
それに気付いたのか、ドラゴンの上からエリーザが話しかけた。
「シュウ君、ちょっと落ち着かないかもしれないけど、少しの間だけ待っててね」
「・・・エリーザッ・・・」
エリーザの声を聞くだけで、反射的にグッと、シュウの心が締め付けられる。高所を飛んでいる状態にあることなど、一瞬で頭から抜け落ちた。
落ち着かない・・・そう、今のシュウはいろいろな意味で落ち着かなかった。
エリーザ。シュウの元恋人にして、忘れられないトラウマを与えた女。
彼女を目の前にして、シュウの動悸が激しくなる。
(あぁ、自分はまだ立ち直れていなかったのか・・・)
シュウは昔を思い返す。
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シュウは帝都からは遠い田舎の出身であり、複雑な家庭環境で育った。ある時、両親の蒸発をきっかけに聖神教会へ身を寄せることになり、それから信仰のためというよりは生活のために神官の道を歩むことになる。
魔力は低くても法術のセンスがあったシュウは、法術師として頭角を現し、異例とも言える速度で出世して帝都にある本部への移動となった。
エリーザはシュウとは違い、侯爵家の三女として生まれた。
しかし、生まれながらどうしようもないほどの腕白で、「将来は騎士か冒険者になりたい」と言って両親を困らせ、淑女教育もおざなりにしてしまう。
侯爵家として恥ずかしくない貴族令嬢として成長することは絶望的である、と・・・両親に半ば愛想をつかされたエリーザは、目の届かない僻地の教会へ預けられることになる。
エリーザも当初は荒れに荒れたが、その鬱憤を晴らすかのように剣に没頭し、やがて聖騎士の道を目指すようになる。
エリーザも剣士としての非凡なる才能があったため、腕前もメキメキと上達し、十代前半にして教会本部の聖騎士見習いとして移動することになった。
実家からは追い出されたが、教会内では順調な出世コースを歩んだエリーザ。
だが、親に見捨てられた心の穴が埋まることはなく、彼女は常に心に余裕のない攻撃的な性格になってしまい、教会内で真に心を許せる他人が見つからぬ孤独な日々が続いていた。
そんなエリーザとシュウは、10数年前・・・時を同じくして聖神教会本部へ移動となった際、そこで初めて出会う。
シュウは神官見習いとして、そしてエリーザは聖騎士の見習い。
ほとんど共通点が無かった二人が出会ったのは、お互いの不注意で廊下の角でぶつかるという、実にベタな出会い方だった。
「ちょっと!気をつけなさいよ!」
「申し訳ありません。お怪我はありませんか?」
「あっ・・・」
これもまたベタであるが、エリーザはこの時にシュウに一目惚れした。初恋だった。
閉じているのか開いているのかわからない細目だが、柔和でどこかホッとさせる顔。まるで怒りを感じない余裕ある態度。
そんなシュウは、ささくれ立ったエリーザの心を癒す、まさに「お兄様」と呼びたくなるような理想の男性像だったのだ。
それから二人の交流が始まる。
主に積極的に関わろうとするのはエリーザだったが、理想の男性であるシュウを相手にしても長年で構築された素直じゃない性格がたびたび災いした。
「あら?今日も一人で寂しくお昼は便所飯?仕方がないから、わ、私が一緒しても良いわよ」
「いや別に便所飯ではありませんが、ご一緒していただけるなら願ってもいません。よろしくお願いします」
「ま、まぁ、素直で良いわね・・・」
プライベートのときはほぼほぼ毎日顔を合わせながらも、どうしても高圧的に接してしまう拗らせツンデレのエリーザだったが、シュウもシュウとて複雑な家庭環境を持ち、幼いうちから社会に出ることになって処世術を身に着けてきたタフネス。難なくエリーザも扱いきってしまう。
どれだけ強い言葉をぶつけてしまっても、軽く流し決して距離を取らないシュウ。
エリーザは、どんどんそんなシュウに依存するようになっていった。