シュウとエリーザの関係は、事実上の恋人ではありながら、名目上はきっちりと線引きのされていない曖昧なものであった。
だが、素直に言葉に出来ないエリーザ。その彼女の意を察して、寛大に受け止めるシュウ。この二人は相性が良いのか、特に問題も起こらず順調に愛を育んでいく。
シュウと結ばれたことで心身ともに満たされたエリーザは、聖騎士団に入るなりみるみるうちに目覚ましい成果を上げ、内外ともに名の知れた存在となっていった。
当時、聖騎士団の副団長に就任した天才女性剣士メリアの打ち出した超実力主義の方針もあって、若くても実力の抜きんでているエリーザは聖騎士団で目覚ましく名を上げ、影響力を強めていく。
かつてトゲトゲしていた彼女もだいぶ丸くなり、実家に捨てられた過去も忘却の彼方に忘れ去られようとする・・・そんなとき、運命を狂わせる転機が訪れる。
----エリーザの実家の侯爵家から、彼女に手紙があったのだ。
「・・・はっ、今さら」
最初に実家からの手紙を受け取った時、エリーザはそう吐き捨てた。
エリーザを教会に押し込めてから数年、侯爵家はただの一度もエリーザに接触などしてこなかったのである。
そんな侯爵家が今更のようにエリーザに接触してきた理由は、聖騎士団の中で頭角を現しつつある彼女を取り込もうという他ならなかった。そして手紙の内容からも、そんな侯爵家の意図が透けて見えたのである。
「なるほど、いや、まぁ、確かにこれは・・・」
エリーザの読んだ手紙を読めと言われて渡されたシュウは、一通り目を通して苦笑いを浮かべて言った。
ちなみに二人は今、互いに裸で連れ込み宿のベッドの中にいる。
事後に実家からの手紙を彼氏(セフレ?)と読むエリーザ、中々豪胆である。
「くだらない!」
エリーザは手紙をその場で剣で細切れにした。
「えええっ!?そこまで!!??」
シュウはエリーザの身の上を知っているが、まさか手紙を抜刀して切り刻むほどにヘイトが溜まっていたとは思っていなかった。
(しかし、この内容では仕方がないか・・・)
シュウは手紙の内容を思い起こし、小さく溜息をつく。
手紙には「エリーザが成長して喜ばしい」「侯爵家の者として鼻が高い」「禍根を水に流して、改めて侯爵家の家族として社交界に紹介したい」と言ったような上から目線で調子の良い内容が書かれていた。散々捨て置いておきながらこれなら、普通は誰でもキレてしまう。
(私のように、手紙すら来ないよりはマシなのか?それとも・・・)
シュウが自分の両親のことを思い起こし、自嘲気味に笑っているのを見たエリーザは、ガバッとシュウに覆いかぶさって言った。
「シュウ君。むかっ腹が立ったから、発散のためにもう一回シよ」
それはシュウへのエリーザなりの慰めもあり、また実家に対するモヤモヤとした感情を誤魔化すための誘いでもあった。
シュウも何となくエリーザの心遣いを察しながらも、あえて言葉にはせずその誘いに身を任せ、情欲に体を貪る。
エリーザの身長は低く、体つきはスレンダー。胸は平均以下。どれだけ突いても体を揺さぶってもほとんど揺れない。はっきり言えば後のシュウの好みからは外れた体つきである。
だが、このときのシュウは他に女を知らなかったし、知ろうともしなかった。だから何となく心のどこかで「ぬぅ、何かが足りない気がする」と最低なことを考えながらもエリーザの体に溺れていた。
エリーザの対する愛のためだけではない。両親に捨てられたという共通の境遇が、心身ともに互いに依存を深めていたのである。
それでもシュウは、深層心理には多少残っていたものがありつつも、基本的にはほとんど気にはしなくなっていた。不遇ではあったが、それがきっかけとして神官としてある程度身を立てられるようになったし、エリーザとの出会いもあった。それで良いじゃないかと割り切っていたのだ。
ただ、一方でエリーザは違った。
表面上はもう割り切ったように見えて、侯爵家に捨てられた事実がいまだ彼女の心に深い傷を残している。かつてトゲトゲしい性格になってしまったのもその傷が深すぎた故だった。もしもシュウがいなければ、今頃どうなっていたのかもわからない。
だからそれから数度届いた侯爵家からの手紙も、エリーザは目を通すだけ通してすぐにバラバラにしてしまい、返事は書かなかった。遅い、遅すぎるのだと。
あるとき、無視されているにも関わらず手紙を立て続けに送って来る侯爵家に疑問を持ち、エリーザは少しばかり調べた。
すると、侯爵家は最近投資に失敗し、その噂が出回ったことで影響力が低下、それに伴い領地運営も陰りが見えて来たことで、今では社交界で肩身の狭い思いをしていることがわかったのだ。
「・・・わかりやすっ」
エリーザには、侯爵家が今更ながら必死で自分に接触しようとすることの狙いが見えた。侯爵家の名誉の起死回生のために、エリーザの名声が欲しいのだと。
「バカにしないでよ!」
ダァンと、エリーザは侯爵家の調査票を激しく踏みつける。自分を捨てた侯爵家を、エリーザはもう実家だとは思っていなかった。都合よく自分を利用するときだけ家族として振る舞おうなど、なんて図々しいことかと。
自分には家族なんていやしない。家族となりえるとしたら、それはシュウくらいだろう。エリーザは本気でそう考えていた。そう思い込んでいた。
だが、手紙を無視し続けたある日・・・エリーザの元へ父である侯爵が訪れたことで、運命が変わっていく。