あるとき、手紙のガン無視していたエリーザの元へ客人が現れた。
それはエリーザの両親。
加齢のみならず窮状ゆえの心労のためか二人とも記憶より随分と老けて見えたが、それでもすぐに両親だとわかった。
「今更何よ」
不機嫌を隠そうともせず、腕組みをして仁王立ちになり睨みつけるエリーザ。
そんなエリーザに対し、侯爵は深く頭を下げた。
「すまなかったエリーザ」
「あの時の事はずっと後悔していた」
「親族達の意向で飲むしかなかった苦渋の決断だった」
「最近ようやく親族を説得できた」
「また家族としてやっていけないか」
両親の口から出てくるのは、実に都合の良い言葉ばかり。
エリーザは今更だと拒絶する。それでも両親達は平身低頭謝罪し、許しを乞う。けんもほろろにその日は追い返したエリーザだったが、両親は何度もエリーザの元を訪れた。
次第にその熱意が、エリーザを動かし、彼女は渋々ながらも両親の謝罪を受け入れた。関係改善についてはおいおいという条件をつけて。
だが、エリーザはツンデレなれど元は情の深い性格だった。
教会に押し付けられた身であっても、両親を憎み切れず愛に飢えていたのである。
そんなエリーザが両親との関係を改善するまでに、それほど時間はかからなかった。
「仲直りしたんですか。それは良かった」
シュウはエリーザにそのことを聞いて喜んだ。シュウはエリーザがどこかで両親を憎み切れずにいたことをどことなく察していたのだ。
「べ、別にそんなんじゃないわ!たまたまよ、たまたま!」
「どういうツンですか。たまたまで両親と和解するんですか・・・」
エリーザは両親と和解こそしたが、聖騎士を辞めるつもりはなかったし、シュウとの関係も続いていた。
あくまで両親と関係改善したのであって、貴族に戻るつもりはさらさらなかったのだ。元より壊滅的なまでに貴族に向かない性格のために追い出されたので、当然と言えば当然である。
貴族然とした生活など今更する気もないし、興味もない。結婚相手だって貴族ではなく、シュウとすると心に決めていた。それを口にしたことは一度もなかったが。
「それよりエリーザ。もうすぐエリーザは遠征に出てしまうのでしたよね?それまでお預けになる分、今のうちにしっかりとヤり溜めておきたいのですが・・・」
「はぁ?ほんとにシュウ君っておサルさんよね。あっきれた、粉が出るまで抜いてあげるから覚悟しなさい」
とはいえ、エリーザは既に平民のシュウとすっかり懇ろになり、これでもかというほどにハメ倒されている。貞淑を是とする貴族令嬢の世界に戻るには絶望的なまでに遅すぎた。
侯爵家としては、エリーザは既に意中の相手を見つけ、浅からぬ関係になっていたことは予想外だった。政略婚をもちかけようとしていた目論見が外れてそこは嘆いたが、考えを切り替えて別のことに彼女を利用する。
「え?剣の監修・・・ですか?」
「ええ。私が使ってる剣を模して、それをお父様が売り出すみたい」
「これがその売り物ですか?何の変哲もない剣ですが・・・本当にエリーザが監修したんですか?」
「一応、意見は言ったわ。でも私が使ってるのだって、ただの支給品で拘りなんて無いからどっちにしても大したものじゃないけど・・・」
侯爵家は、エリーザが強く美しい聖騎士として注目されていることに目をつけて剣の製造販売で儲けることにした。
エリーザが監修したというその剣は、値段の割に大した出来ではなかったが飛ぶように売れた。
『美しき剣姫が握る、至高なる一振り 噂の聖騎士エリーザ監修』
との謳い文句に、キリッと表情を引き締めて何故か腕組みをしているエリーザのブロマイドを添えた店内ポップで売り出された『エリーザソード』は、バカバカしいことに連日品切れとなる大ヒット作となる。
著名人の名さえあれば、中身がどうであれ購買意欲をそそられてしまう。大衆の性である。
「えぇ・・・(困惑)」
なんだかエリーザが詐欺の片棒を担いでいるようで、シュウは微妙な気分だった。
だが、当のエリーザはまんざらでもなさそうだ。確かに恥ずかしい一面はあるが、エリーザソードのヒットによって侯爵家の財政は急速に持ち直し、侯爵の機嫌も非常に良くなっていたからだ。
家族のために役に立てている・・・エリーザからすれば、それで満足だった。
どう見ても家族に名前を良い様に利用されているのだが、本人が満足なら言うまい・・・と
シュウは言葉を飲み込むしかなかった。
だが、侯爵家はそれだけで満足しなかった。
これがシュウ達の運命を狂わせていくことになる。