エリーザの父・侯爵は執務室にて家令からある調べものに関する報告を受けていた。
それはエリーザの恋人・シュウのことについてである。
「平民出身。両親は失踪。回復術や強化魔法など聖魔法の才能を見出され聖神教会本部での配属になるも、それ以上の出世は見込み無し・・・というか賭け事・飲酒が趣味である破戒僧であることが知れているために絶望的」
侯爵はふぅ、とため息をついて、たった今読み上げた報告書をパサリと机の上に置いた。
「何ら侯爵家に利益を与えぬ男だな」
侯爵の言葉には、深い失望の色が滲んでいた。
「こちら、先日のエリーザお嬢様との一日をまとめたものですが・・・」
「読んでみろ」
家令が書類を手渡そうとするのを制し、侯爵が読むように命令する。家令は読み上げた。
「朝・二人で宿舎を出発。まず連れ込み宿でスケベを。次にカフェで一服。競馬場へ赴き、しこたま負けてから、鬱憤を晴らすかのように連れ込み宿でスケベ。ビストロでこっそり飲酒しつつ昼食。午後はカジノで少しだけ賭け事を楽しみ、最後は締めに連れ込み宿でスケベしておりますね」
「スケベしてばかりではないか!それ以外は賭け事ばかり!想像以上の屑だな!?」
「お嬢様は楽しそうでしたが・・・」
「ならぬ。将来性は無し。外聞は悪すぎる!到底エリーザの婚約者としては認めるわけにはいかぬな」
シュウをエリーザの、侯爵家の娘の夫となることは認めない。元よりほとんど結論付けていたことだが、それを侯爵は明確にさせた。
「エリーザはやはりこちらで縁談を組み、嫁がせる。これより他にあるまい」
侯爵の言葉には、もはや有無を言わせぬ強い意思があった。
家令が恐縮そうに口を開く。
「しかし、お嬢様は既にシュウに何度もハメ倒された傷物・・・中古品です。今更まともな縁談などありましょうか・・・」
とかく貴族は処女厨文化。エリーザほど名の通っている令嬢でも、男性経験がある場合大きく商品価値は下がり嫁ぎ先は限られるようになる。
つまりはシュウと肉体関係のあるエリーザは、既に貴族令嬢として普通に売り出すには難しいということだ。
受け入れてくれるのは後妻として迎える家か、何かワケアリの家か、いずれにせよエリーザにとってまともな結婚にはなるとは言い難いものになる。
「ある。どうにか一つ、エリーザに良縁を結ばせてやることができそうだ。ゴードン伯爵の令息だ」
侯爵はニヤリと笑って言った。
「ゴードン伯爵・・・あの、様々な事業を手掛け、伯爵家なれど帝都でも屈指の影響力を持つゴードン家・・・なんと、そのような家がエリーザお嬢様を引き取ると?」
「うむ。令息が生娘よりもむしろ他人の手垢のついた女を好んでいてな。むしろ適度にこなれた女を自分色に染め直すのに憧れているという。幸いにもエリーザとの縁談に乗り気だ」
「変態ではありませんか。良縁じゃないではありませんか」
抗議する家令に、侯爵はダンッと机を叩いて黙らせた。
「黙れ!この話をまとめねば、侯爵家を守ることが出来ぬのだ!」
侯爵はエリーザを政略婚させ、利益を得なければならなかった。
最初エリーザソードで財政的に持ち直した頃はそこまでは考えてなかったが、剣の製造販売による収益を種にして新たな投資を行ったところ、お約束を回収するかのようにあっさりとコケた。
元は娘に頼り切った生活に恥を感じ、自力でも立て直そうとした末の投資だったが、侯爵には時流を読む力が無く失敗した。
失敗を補填しようと更なる投資をすればそれもコケた。それら全ては短期間のうちにわかりやすくコケている。ハズレを引き当てる才能だけは侯爵にあった。
とりあえず今はエリーザソードの後継品・エリーザソード2を売り出そうと開発をさせているが、すぐにはまだ開発も終わらぬし、何より生産するにも金が要る。もはやその金すら侯爵家には無かった。
「私とてエリーザの幸せは願いたい。だが、もはやこの縁談に縋らねば侯爵家は立ち行かぬ。なに、エリーザとてわかってくれる。貴族の娘だからな」
「しかし・・・お嬢様が承諾するでしょうか。シュウにかなり傾倒しているカキタレです。簡単に承諾するとは・・・」
渋る家令に、侯爵は笑みを浮かべて言った。
「問題無い。手は考えてある」
こうして、エリーザの知らぬところで、彼女の縁談が強引に進められつつあった。