侯爵家の頼みで、ある時からエリーザは社交界に積極的に顔を出すことになった。
将来有望株な聖騎士というエリーザが侯爵家の一員としてパーティーに参加することで、侯爵家の評判が上がり社交界での影響力が増すから・・・というのが表向きの理由である。
家族の役に立てるならばと、あまり乗り気じゃないなりに言われるがままになったエリーザだが、侯爵の中では裏で別の理由があった。
「今夜も・・・ですか?」
「ええ。また呼ばれちゃって・・・」
社交のシーズンが到来し、侯爵の積極的な要請もあり、エリーザは連日連夜どこかしらの貴族のパーティーへ顔を出すことになった。
すると必然的にシュウとのデートの回数はめっきりと減り、共に夜を過ごすことがほとんどなくなった。
共に過ごす時間が減れば、すれ違いを生みやすくなる。これは侯爵の狙いの一つだ。
だが・・・
「どうだ?奴らの二人の時間を大幅に減らすことが出来ただろう?これが続けばそのうち・・・」
侯爵は家令にエリーザ達の動向を細かく調べさせていた。
二人の破局を願ってのことである。
「いえ、旦那様・・・どうやらパーティー前の短時間の間や、終えた深夜にスケベすることが増えただけのようです」
「ファッ!?どれだけスキモノなんだあいつらは!?」
「むしろ会えない時間が増えたことで、より短時間で濃密な時間を過ごそうと言わんばかりに燃え上がりすぎております。街の裏道でこっそりスケベしたり、橋の下でこっそりスケベしたり、もういつ憲兵に捕まってもおかしくない状態です。本当に聖職者なんでしょうか」
「ぐぬぬ・・・まさかそこまで盛りのついた猿になっていたとは・・・」
侯爵の狙いの一つは、シュウ達の常軌を逸した情欲の強さによって外れる。
会えない時間が二人を余計に燃えがらせ、「短い時間の間にどれだけ濃密で燃え上がるスケベが出来るか」のチキンレースに挑んでいる傾向にあり、むしろ収拾がつかないところにまで発展しようとしていた。
時間を削ることで二人の仲を引き裂くことが不可能どころか真逆に作用したことは侯爵も呆れる他無かったが、彼の狙いは他にもあった。
それはエリーザがパーティーに幾度となく顔を出すことで、彼女が高位貴族の令嬢であるという自覚を芽生えさせることだ。
エリーザは侯爵家の令嬢。貴族でなら上から二番目に当たる位の家なのだ。だから聖騎士団での注目度もあり、パーティーに出ればそれはもう引っ張りだこであった。
身内を教会に奉公に出す程度ならたまにはいたが、聖騎士団で名を上げた貴族令嬢など極めて異例なだけに誰もがエリーザの話を聞きたがった。
そうしてチヤホヤされる時間が長くなると、エリーザの中で選民意識が強まるようになっていく。
最初の頃はそうでもなかった。だが、パーティーに参加する回数が多く重なったこと、元より侯爵から「高位貴族の令嬢としての自覚を持て」と言われていたこともあり、意識が変わりつつあった。
特権階級の華やかな世界で賛美され続ければ、貴族の社交界にデビューしたばかりで慣れないエリーザの脳はドロドロに溶けて染まりやすくなり、あらゆる賛美の言葉を警戒せず飲み込むようになってしまう。
「流石、侯爵家の血を引き、聖騎士として名を馳せた選ばれた方」
「選ばれし方は一体どれほどの者と婚姻を結ぶことになるのでしょうな」
「貴方のような尊き方に選ばれる男は果報者でしょう。アッチの具合も良さそうだし・・・フヒヒ」
賛美、賛美、賛美(セクハラ)。
毎日のように社交で貴族から賛美され、気を良くするエリーザ。
「まぁ、それほどのことでも。侯爵家たるもの、当然の嗜みですわ」
「ワタクシは侯爵家として出来て当然のことをしているまでですわ」
「選ばれし家系ですもの。具合が良いのは当然ですわ~(錯乱)」
当初は謙遜ばかりしているしかなかったエリーザも、次第に受け答えに慣れていく中で、侯爵家を立てるように回答できるようになっていく。
家の名誉にも貢献出来ていると実感することも出来、彼女からすれば実に充実した日々を送ることが出来ていた。
だから気付かなかった。
自分の思想の変化に。じわじわと押し寄せる侯爵家の罠に。
シュウとの運命の破局の日が近づいていることに。