エリーザの周囲には、いつしか取り巻きの令嬢たちが集まるようになっていた。知名度の上がった侯爵家と深く縁を結びたいと下心あってのものだったが、割と同世代の令嬢と接する機会の少なかったエリーザにはこれが大きな刺激となってのめり込んでいった。
「今度お茶会に呼ばれているのよ」
と、楽しそうに語るエリーザを見て、教会内で聖騎士としては有名になっても友人の少ないエリーザには良いことだなとシュウは思っていた。
(しかし・・・)
少し、ほんの少しずつだが、シュウはエリーザが自分と違う世界へ行こうとしていることに焦燥感を覚えていた。
エリーザは元々高位貴族。シュウとは本来生きる世界が違う。たまたまねんごろになっている今の状況こそが異常なのである。
本当はシュウだってわかっていた。エリーザは聖騎士として生きるより、貴族令嬢として華やかで何不自由なく生きるほうが幸せなれるはずであると。このまま自分から離れるほうが幸せになれるはずであると。
だが、シュウはそれを割り切ることが出来ない。彼女を手放したくはなかった。シュウはエリーザを愛していたのだ。愛のために身を引く、という選択が出来るほどシュウは大人ではなかった。
やがて、シュウはある決意をする。エリーザを自分のものにするために。他の誰のものにもしないために。
それが結婚の申し込みだった。
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そして運命の日・・・
その日、エリーザはとある伯爵家のお茶会に呼ばれていた。
会場は伯爵邸の中庭のガゼボで、今回参加者は気心の知れた年の近い令嬢のみ。話題も自然と突っ込んだ内容のものになっていく。
その日のお題は、理想の男性についてであった。
令嬢がそれぞれに自分の婚約者や、憧れの男性について語る。
エリーザはこの話題は苦手だった。何故なら自分はシュウしか知らないから。そしてそのシュウとは既に何度もスケベしてしまっていて、貞淑を是とする貴族令嬢同士の話題に乗せづらいから。
いや、むしろ貴族ではない平民のシュウと深い関係であるなどと知れたなら、それは侯爵家の醜聞となってしまう。何があってもこれについて話すわけにはいかなかった。
しかし、あるとき話が唐突にエリーザにふられてしまう。
「そういえば、エリーザ様は一体どのような方と結婚なさるのかしら」
「ファッ!?」
唐突に話をふられたエリーザは、思わず大きい変な声を出してしまった。
「それはもうエリーザ様ですもの。きっと相応に立派な方となさるに違いありませんわ」
「同格どころか、公爵家との縁談だって十分あり得ますわ」
「中途半端な方など、選ばれるはずがありませんわ」
令嬢達は思い思いに言葉を重ねていく。
エリーザは少し焦った。正直にシュウのことを言えるはずがなく、どうすれば侯爵家の看板に泥を塗ることなくこの場を終わらせることが出来るかを考える。
すると、自然に口から言葉が出た。
「そうですわね。まぁ、最低でも私と家格の釣り合ったお相手と・・・ということになりますでしょうか」
「そうですわよね」
エリーザの言葉に、令嬢達は納得するように頷く。
「もし教会内からならそれなりに高位に就いた人・・・そうでないなら最低でも侯爵家。そうでなければ、とても私とは釣り合いが取れませんもの」
既に教会内で侯爵家と釣り合いの取れるとは程遠い男とすっかりねんごろになっている立場で、エリーザはあっさりとそんなことを言ってのける。最近調子に乗ってすっかり社交でハッタリ癖がついたせいか、本当に自然と口から出てしまった。
もちろん本心ではない。本当に家格で釣り合いの取れる人間を相手にするなど、エリーザには窮屈極まりない話だった。あくまで侯爵家の恥とならぬよう、振る舞っているだけなのである。
ただ最近はそういう演技も板について楽しくなってきた面もあるために、少しばかり調子に乗っていきすぎてしまうところもあった。
だから言ってしまった。
「中途半端な殿方など、私だってゴメンですわ。私に相応しいのは、家柄も才覚も侯爵家に相応しいレベルにある方でないと」
エリーザの言葉に、令嬢達がワッと湧き上がる。
「そうですわよね。流石エリーザ様ですわ」
「何と言っても時の人であるエリーザ様ですもの。相手もそれなりでないと」
令嬢達の言葉に、少し気を良くしたエリーザは満足げに微笑む・・・が、その微笑みが固まった。
「えっ・・・?」
中庭の木々の隙間から、一人の男が自分を見ていることに気が付いたからだ。
この場には絶対いるはずのない男、シュウだった。