「シュ・・・シュウ・・・君・・・?」
エリーザは愕然とした。
どうしてこんな狙いすましたようなタイミングで、バッタリとシュウに出会うのか。
運命は残酷だ。エリーザは最も聞かれたくない話を、聞かれてしまったと神を呪った。(聖職者だけど)
「いや、おかしいでしょぉ!どうしてここにいるのよぉぉぉぉぉ!?」
運営は残酷だと最初は思ったが、よく考えたらおかしい。今、エリーザがいるのは高位貴族の屋敷である。普通ならどんな偶然が重なっても、ド平民であるシュウが絶対に来るはずのない場所であった。
(嘘・・・?何が、何が起きてるの・・・?いや、それよりも・・・)
エリーザは錯乱したが、すぐに冷静になろうとする。
だが、それを状況が許さなかった。
「エリーザ様?一体どうされたんですか?」
「え?ハッ・・・!」
貴族令嬢達が、突如として淑女にあるまじき大声を発したことに目を丸くしてしまっていることに、エリーザはようやく気が付いた。
侯爵家の人間として・・・というより普通の人間としてもあり得ないような醜態を晒してしまっていたのだ。
「えっと、いえ、その、普段見かけない知人がいらっしゃったので、少しご挨拶しようかと・・・」
令嬢達に誤魔化しにならないなりに誤魔化しを入れつつ、とりあえずシュウに最低限の説明をしようか・・・とエリーザが考え説明していた時だった。
「えっ・・・」
エリーザがチラリとシュウを見ると、シュウはブワッと大粒の涙を目から流していた。
「うっ、うううう・・・うわあああああああっ!!」
そして叫び声を上げながら、踵を返して一目散に走り去ってしまったのだ。
説明する暇もクソもなかった。
(まずい!まずいまずいまずい!)
サァッとエリーザの頭から血の気が引いた。
頭の中で、激しい警鐘が鳴り響いている。すぐにシュウに対し、聞かれたであろう令嬢達との会話でした発言が真意ではないと、誤解であると説明しなければ取り返しのつかないことになるという予感があった。
「シュウ君!」
すぐにシュウを追いかけようとするエリーザ。
だが、そんな彼女を足を止める声があった。
「一体どうされたのですか?エリーザ様」
「・・・ぐっ!?」
令嬢達が、怪訝な顔でエリーザを見つめている。
実はあの奇声を上げた奇怪な男が私の恋人なのです、すぐに誤解を解くために追いかけなければならないのです・・・などと言えるはずもなく、エリーザはどうしたものかと口を噤む。
が、どうしようもない。
いますぐシュウを追いかけては、令嬢達へ与える侯爵家のイメージが悪化してしまう。
ここはどうにか適当にやり過ごし、シュウには帰った後で説明しようとエリーザは考えた。
そしてこの時の決断を、エリーザはずっと後悔し続けることになる。
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「はぁはぁ・・・シュウ君のところに早く戻らないと・・・!」
エリーザはどうにかお茶会をやり過ごすと、ドレスを汗で濡らしながら必死で駆けてシュウの元へ走っていた。
だが、不幸というものは重なるものである。
「エリーザ!緊急招集だ!」
「え?」
教会の宿舎までどうにかやっとのことで戻ってきたエリーザを、聖騎士団の仲間が呼び止めた。
「これから遠征だ。ホモのゴブリンの大群が、男達を襲う被害が続出しているらしい。既に我が国の高官の子息も手籠めにされちまったってのと、騎士団長的にマジでキモいから救急で聖騎士団出動にて殲滅とのことだ」
「は!?何よそれ・・・」
「もうすぐ出るぞ。さっさと準備しろよ!」
仲間の聖騎士は、そう言って準備に取り掛かってしまう。
大変なことになった。少なくともエリーザにとっては、ホモのゴブリンの討伐よりシュウの誤解を解く方が最優先事項だ。
だが、それを状況と立場が許さない。
聖騎士団の緊急招集は絶対である。命令を拒否することは出来ず、退団届けも緊急事態が明けてからのみ受け付けられる。それでも無理に命令を拒否し騎士団を辞めようとすると、死んだほうがマシというレベルの拷問を受けるという、非常に厳しい罰を受けることになると決まっていた。
「くっ・・・このタイミングで・・・っ」
どうして・・・と、震えながら目に涙を浮かべて堪えるエリーザ。
しかし、流石に聖騎士団の決まりを破り、拷問を受けるだけの覚悟はなかった彼女は、唯々諾々と遠征に出るしかなかったのだった。
不幸は更に続き、遠征を終えるとそのまま帝都に帰ることなく、更に次の遠征が訪れた。
そうして数か月という期間をかけて帰ってきたエリーザに、厳しい現実が襲い掛かる。
シュウが教会からいなくなっていたのだ。