時は少し戻り、視点はシュウに。
身分の差を乗り越え、エリーザにプロポーズしようと決意したシュウの元に、一人の客が訪れた。
エリーザの父、侯爵だった。
「単刀直入に言う。娘を忘れ、すぐに別れて欲しい」
金貨の詰まった袋をドサリとシュウの足元に落としながら、侯爵は言った。
(手切れ金か・・・)
シュウは足元に落ちた袋を一瞥だけし、受け取ろうとはしなかった。
元より、高位貴族である両親から了解を得られるとは思わなかった。駆け落ち婚に近い形になるだろうとは覚悟していたのだから、それほど大きなショックはない。ただ確認が出来ただけ、そういう認識だった。
「君がエリーザと深い仲であることは知っている。だが、その事実含めて丸ごと全て忘れてくれ。あれは侯爵家として必要な存在であるし、これからも侯爵家の娘として生きていく。既に縁談も調えてある。娘の幸せを願うならば、身を引いてほしい」
侯爵の言葉には、有無を言わせぬ迫力がある。
「お断りします」
だが、シュウは首を縦には振らなかった。
聖神教会では、エリーザの生家の侯爵家程度の圧力など通じないことはシュウは知っていた。だから侯爵を最悪敵に回したところで問題ない。そう思い強い態度に出ていたのだ。
侯爵はシュウの返事にビキビキと青筋を浮かべながら、それでもどうにか口元に笑みを浮かべて言う。
「大した威勢だ。だが、エリーザ自体がそう望んでいないことを、君は強要するのかね?彼女は侯爵家の娘として、然るべき相手に嫁ぐことを望んでいる」
「何を・・・」
シュウは、エリーザと二人でいるときの言葉を思い出す。家族のためと思い、社交界に参加しているが、自分には合わない世界だと言っていた。
そんなエリーザが貴族との婚姻を望むなど、信じられなかった。
「見せてあげよう。本当のエリーザの姿を」
侯爵に促され、シュウは運命の場・・・エリーザが参加したお茶会のあった伯爵家に来た。
そこで見てしまったのだ。エリーザが侯爵家である自分の身分と、相応の相手との婚姻を望んでいる旨の発言をしたところを。
「・・・そんな」
シュウは裏切られたというより、どこかで気付いていた事実を突き付けられたような気分だった。
やはり、エリーザと自分は身分が釣り合っていないということに。ひと時でもエリーザと自分が結婚できると考えていたことに、シュウはどうしようもなく気恥ずかしくなった。
「どうだ?これで思い知ったか?君と娘が違う世界の人間だということを・・・」
シュウは侯爵の言葉を全部聞き終える前に、奇声に近い鳴き声を上げながら走り去っていった。
「な、なんだあれは・・・キモ」
唖然としながらも、侯爵は自分の思い通りに事が運んでほくそ笑んだ。
侯爵はエリーザ達を破局させるため、ずっと計画を練っていたのだ。
この伯爵家でのお茶会も、そのために用意された舞台である。令嬢達の中にも侯爵の仕込みの入った者がおり、エリーザへの会話の内容を誘導していた。
エリーザは、高位貴族令嬢としてちやほやされ続けたことでつい調子に乗ってしまい失言を聞かれてしまったが、それすらが計算の上だったのである。
この読みを仕事に生かせれば侯爵家が没落しかかることも無かったのだが、世の中しょうもないことにリソースを割いてしまう人間もいるものなのだ。
ちなみに、この一件がむしろ引き金となって侯爵家は自滅することになるのだが、そのことに侯爵はまだ気付くはずもない。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
シュウは部屋に戻り、ちゃっかり回収した侯爵からの手切れ金を手に取った。
「忘れる!エリーザのことを忘れてやる!」
シュウが思いついたエリーザを忘れる方法・・・それは、娼館で酒に溺れながら女を抱く。これである。
上書きしたかった。体に残るエリーザの肌の感触を、別の誰かのもので忘れ去りたいと考えていたのだ。
「ふふ・・・金が手に入ったんだ。一度くらいは良いだろう・・・貴族令嬢様とは釣り合わない、薄汚れた私には丁度良い・・・」
虚ろな目で、シュウは娼館へ行った。
リクエストは、年上系で、胸が大きいタイプの女性。エリーザの正反対のタイプの女性を抱いて上書きしようと思ったのだ。
「な、何これしゅごいぃぃぃぃ!?」
これがいけなかった。
運が良いのか悪いのか、当たりの嬢を引き当ててしまったシュウは、その日経験した凄まじいプレイの虜になって風俗沼にハマってしまうことになる。ついでに巨乳属性もついてしまったという。
この後、シュウはタイミング良くレウス司教に目を着けられ、そしてレーナの婚約内定者となるのだが、シュウがそれを承諾した決め手は「レーナの胸が大きかったから」だったという。