シュウとフローラはベッドから抜け出すと、衣服を身に纏い始めた。
定期的に部屋のドアがノックされ、部屋にシュウ達がいるかどうかの確認があるが、きちんと返事さえしておけば騎士達に入って来られることはないので、話をしながらでもゆっくりと着替えることが出来た。
(こんな状況でもなければ少しは楽しめるんだが・・・)
シュウは隣で昨晩閨を共にした美少女が着替えているシチュエーションに、ほんのちょっぴりだけ興奮を覚えていた。が、今のシリアスな状況がそんなシュウの湧いた頭に冷水を浴びせかける。
とても色気に浸っている場合ではないのだ。聖騎士団に拘束されれば、シュウは遠からず屠られることになることはわかりきっていた。この部屋を出て連れていかれたら、もうそこで人生の終わりなのである。
「あぁシュウ様。せっかく結ばれることが出来ましたのに、このような無粋な状況になってしまっているのが恨めしいです。本当ならばもっと、チェックアウトの時間ギリギリまで余韻に浸っていたかったのですが・・・」
フローラが残念そうに言う。
確かになとシュウは思ったが
「でも、何だか物語の愛の逃避行っぽくなってきて少しだけ楽しくも思いますね?」
そう続いたフローラの言葉には呆れて頷けなかった。
「ね?じゃありませんよ・・・どれだけシビアな状況だと思ってるんですか。大体これも全てフローラの
「ふふっ」
シュウの言葉にフローラはただ不敵に笑うのみだった。シュウは溜め息をついて、部屋のテーブルの上に宿泊代に少し上乗せしただけの金額を置く。
「それで・・・本当にやるんですか?」
シュウは着替えの終わったフローラに向き合い、そう訊ねた。
「ここまでなら、厳しく罰せられるのは私だけかもしれません。フローラにはまだ教会からしてみれば利用価値がある」
フローラはつい夕べに処女ではなくなり、聖紋も自ら消滅させた。聖女としては大幅に価値は下がっているが、彼女が身に着けた聖女となり得るだけの強力な聖力は健在である。今のフローラを囲ったところで本来見込んでいただけの恩恵はないが、教会からすればまだ使いようはいくらでもあった。
だからいかに大スキャンダルを起こしたとはいえ、力技で揉み消してでもフローラには固執するだけの価値がある。今ならまだ教会に戻っても悪いようにはならない・・・しかし
「ですが、これから先はそうも行きません。約束された安寧を失うことになります。熱に浮かされてこのまま突き進んでは」
シュウが口にした最終警告は、フローラの人差し指が口にあてがわれたことで最後まで言えなかった。
「シュウ様。私は言いました・・・シュウ様がいない教会にいる理由はないと。帝都にいる意味はないと。聖女でいる理由などないと。私がいたい場所は、シュウ様のいる場所。私がなりたいのは、シュウ様と常に共にある自分なのです」
そう言ってフローラはシュウの首に手を回し、背伸びをして口づけをした。
「教会の報復がありますよ。地獄へ行くことになるかもしれない」
シュウの言葉に、フローラは微笑を浮かべる。
「一応そうならないように手は回してありますが、それでももしそうなってしまうのなら、そのときは仕方がありません。私はシュウ様とともに地獄に参りましょう」
何を言っても柳に風なフローラを見て、シュウは溜め息をついた。
そして覚悟を決めたようにフローラを正面から見据えて今後はシュウの方から口づけをする。
「そうですか。ならばもうキャンセルは聞きませんよ。どこまでもついてきてもらいましょうか」
自分ですらもう何がどこへ落ち着くのかわからないけどね・・・
と、シュウは半分やけくそになりながら、大きく重いフローラの荷物を背負い、騎士達が待つ部屋の外へと出たのであった。