シュウがレウス司教に与えられた任務の中には、『裏方としてパーティーの和が乱れることのないようにしつつ、勇者ライルの地位向上のために尽力する』というのがあった。
要するに自身の存在をアピールしないようにしつつ、勇者パーティーの雑用として頑張れよということなのだが、(真意はどうあれ)サーラとアリエスがライル以上にシュウを慕っているという今の状態・・・そしてそれを当然ながらライルが是としていないこともレウスの意向に沿っていないとシュウは気が付く。
シュウがライルより上に立ち、和を乱していることになるからだ。
ひどく理不尽ではあるが、シュウは今、パーティークラッシュの元凶だと見られかねない位置にいるのである。
このままライルの怒りを冷ますことが出来ず、レウスに言いつけられたら「任務失敗」と認定され、断罪されることになりかねない。
「あわわわわわわ・・・」
シュウはすぐにどうにかしなければならないと思った。
悩みから少しでも楽になりたくてライルに相談したのに、まさか新たに爆弾級の悩みを抱えるはめになるとはとげんなりしつつ・・・
「ライル。思うにですが・・・サーラやアリエスは、実際のところは私にではなく貴方に気があるのでは?」
シュウはライルに機嫌を直してもらうために、(あまりに)くだらないと思いつつ口を開いた。
「は?今の流れでどうしてそうなるんだよ!」
ダンッッッ
シュウの言葉を聞き、ライルは苛立ってテーブルを叩く。
周囲で聞いていたギャラリー達も「そりゃ無理があるだろ」と口にした。
指摘はごもっとも。
今の流れでシュウの言葉を鵜呑みにするのはあり得ない。だが、それでもシュウは強引にでもライルに新たな解釈を与え、歪になれど流れを変えていかなければならないのだ。そうでなければ後に歩むことになるのは、変態貴族の性奴隷への道だけである。
シュウは内心半泣きになりながらも、あくまで表面上は落ち着き払った態度で話し出す。
「サーラとアリエスですが・・・ライルから見て二人のことを気のある異性に積極的になれるタイプだと思いますか?」
「は・・・?そんなの・・・んん・・・?」
反論しようとして、ライルは言葉を濁す。
サーラとアリエスは、今でこそしっかりと馴染んでいるが、パーティーに入った最初の頃はライルやシュウに対して引っ込み気味で、会話もろくに出来ない状態だったのをライルは思い出した。寡黙なアイラより少し話す、といった程度である。
基本的に二人ともシャイな性格で、同性とは普通に話せるが異性とはうまく話せないタイプなのだとライルは理解したが、スれたレーナや無口のアイラとは違った刺激があり、これもまたライルを二人に夢中にさせた要因だった。
今でもパーティー外の男とは積極的に話せる様子はなかったが、ライルは同じパーティーだからとだいぶ打ち解けた感はある・・・が、今でも見えない壁を感じられていた。
「シュウさんに気があるから、積極的になってるんでしょ」
「それは違います」
もっともなライルの指摘を、シュウは間髪入れず否定する。
「私のことなど眼中にない。だから彼女達は自然体でいられるんですよ。男として見られていないのです」
さぁここからだぞ、とシュウは目を光らせる。
ゴリゴリに力業でライルを騙し・・・ではなく、新しい解釈を与える必要があるのだ。
「考えてもみてください。同じパーティーにいながら、イケメンで強くて名声もある勇者ライルを差し置いて、開いているのか閉じているのかわからないような細目モブ顔の変態糞神官を好きになるような女性なんていると思いますか?」
あえてこれでもかというほど遜って言うシュウに、ライルは少し考える素振りを見せてから。
「・・・まぁ、そうだけどさ」
「おいすんなり肯定するな(怒)」と言いたい気持ちと、良し!流されてきたなという喜びがせめぎあいながらも、シュウは笑みを浮かべて続けた。
「私のことは男ではなく、モブとして見られている。だから彼女達は気兼ねなくしていられるのです。逆に、ライルのことは男として意識しているからこそ、シャイな彼女達も気兼ねしてしまうのではないでしょうか?」
「そ、そうかな・・・?」
プライドが高く自意識過剰なライルは、シュウの話を真っ向から否定できない。いや、したくない、考えられないといった思考になっていた。何しろこれを否定すれば、モブ顔認定しているシュウに負けたことを認めてしまうことになるからだ。
「ライルにアプローチしたくても中々できない。だから、一応は男である私で少しずつ慣れて、そしていずれ・・・ということも考えられます。いや、そうに違いない」
ギャラリー達は聞き耳を立てながら「いやそうはならんやろ」と呆れ顔。
だが、ライルだけは「そっか~あの二人も中々不器用だなぁ~」と満更でもなさそうにニマニマ笑みを浮かべていた。
シュウも「そういえばあの二人、ライルのことをチラチラ見てますよ」とちょこちょこ付け加えるのを忘れない。
自意識過剰で変にプラス思考になったライルは、表向きだけではなく、本気でシュウの言い分を飲み込んでいた。
(アホで良かった)
シュウはライルが一応の納得の姿勢を見せたことで、ホッと胸を撫でおろした。
結局シュウの悩みは解決しなかったが、それでも突如わいてきた大ピンチを乗り越えることが出来たのである。
ギャラリー達はツッコミたくて仕方がなかったが、シュウに丸め込まれニコニコと笑みを浮かべているライルを見ていっそ哀れに思い、誰一人として彼に何も言わなかった。
ちなみに、このときにシュウ達がついていたテーブルは『勇者が力いっぱい何度も叩いても、何故かビクともしなかった異様に頑丈なテーブル』として、パーティーの盾役の冒険者達にとってのご神体のようなものになったという。
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「・・・・・・って、んなわけあるかーーっ!」
その夜、ライルは一人になるとフッと我に返って怒り叫んだ。