「最低だ・・・!」
ライルは手の平にこびりついた自身の白濁した男汁を見下ろしながら、愕然とした表情で呟いた。
酒場でシュウに聞かされた話を思い出し、結局自分が迫害されていることに時間差で気が付いたライルは、いつしか行き場のない怒りを何故か自慰という手段によって発散していたのだ。
シュウの体験談を思い出してその現場を想像して興奮し、そして何故か迫害されているという事実でまた更に興奮し、自分でもびっくりするくらい高ぶったライルは夜が明けるまで発散に勤しんでいた。
悲しいことに新記録なほど大量にどばーっと出た。すんごい捗った。
「なんでだよ!なんでだよ畜生っ!!」
仲間のことを想像して始めるだけならともかく、蚊帳の外で迫害されていることに興奮して捗らせてしまうという、まさに自身の言う通り最低の自分がいるという事実に憤慨するライルは、悔しさのあまり涙を滲ませる。
「おかしいよ・・・こんなのまるで変態じゃないか」
まるでじゃなくて紛れもない変態であるが、それをライルが認められるはずもない。
勇者として認定され、今世界で最も魔王討伐の期待が寄せられている男であるはずの自分が、何故にこうも惨めなことになっているのか。
自分に靡かないサーラ達が悪い?
「違う」
ライルは虚ろな目をしながら、抑揚のない声で呟いた。
「違う、違う、違う!ちーがーうーだーろーーっ!!」
沈んでいたかと思いきや、一気に感情が高ぶり、頭を振りながら叫びだす。
感じたこともないほどの強烈なストレスが、ライルを情緒不安定にさせていた。
ライルは考える。
こんなのは勇者ではない。勇者とはこうであるべきではない。
異性にモテ、相手選びに難儀するほどが普通(?)の勇者なのだ。それがどうして仲間に女をかっさらわれて興奮しなければならないのか。
自分は悪くない。サーラ達に嫌われるような問題を何か起こしたわけじゃない。とすると・・・
「あぁ・・・やっぱり悪いのはシュウか」
本来ライルに向くはず(?)の彼女らの好意を、知らずうちに横からかっさらったシュウが悪いのだとライルは結論づけた。
「モブの分際で勇者である僕を見下して、両手に女を侍らして、ずっとバカにしていたんだ!」
一度被害妄想に取り憑かれると止まらない。
そうでもしない限り、プライドの高いライルは自分の心を守れないからだ。
「さっさと追放するか・・・?それなら・・・いや・・・」
ライルは目障りなシュウを追放してしまおうかと考えた。
シュウを切っても大丈夫なほど『光の戦士達』は力をつけてきているし、何なら他所から一流冒険者をスカウトすることだって出来る。
だが、それはすぐに思い直した。
サーラとアリエスがシュウに懸想しているのなら、追放した瞬間に彼女達も一緒に離れていってしまうのではないかと考えたからだ。
似たような状況でライバルの男を短絡的に追放してしまったばかりに、そこから転がり落ちるようにパーティークラッシュしてしまった先輩冒険者の話をライルはいくつも知っている。
冒険者ギルドの統計では、冒険者パーティーの解散理由のランキング一位が『男女関係(もっぱら女)』と出ているのだ。ちなみに二位が『金問題』、三位は『なんとなく』である。
「女って怖いなぁ ホモになるしかないじゃん」
と、あえて女性をパーティーに入れない男性のみのパーティーを結成する者もいるくらい、女はパーティークラッシュの要因になりやすいとされている。
ライルはこれを思い出して慎重になった。
シュウを追放したら、サーラ達は損得を考えず感情に走るかもしれない。
シュウを追放するにしても、それは今すぐではない。きちんと下準備してからではないと、シュウを追い出してもパーティーが瓦解しては意味がないと。
ライルは今のパーティー(の女性陣)を気に入っているのだ。
それにただ追放しては自分が負けただけになる。
見返してやりたい。一発逆転でハーレムを築いて、シュウに自分が味わったそれと同じ屈辱を味わわせてから失意の底にいる状態で追放してやりたい。
「・・・はっ!?」
だが、ライルはここでハッと息をのむ。自分は今何を考えていたのだ?と。
「違う・・・僕は勇者だ。こんなことを考えるのが勇者であって良いはずがない」
腐りかけでも勇者。ライルには勇者としての矜持が一応はあった。
「サーラ達のことを知れたのは僥倖だ。これを踏まえたうえでやっていけば、きっと彼女達は僕に振り向いてくれる・・・そうさ。何しろ僕は勇者なんだ。正しくアプローチすれば、僕に靡かない女はいないはずなんだ」
歪んではいるが、それでも歪んだなりにモラルを取り戻したライル。
シュウについてもあれこれ考えるのはやめた。男として自分が負けていると惨めな思いをすることになるからだ。
「これからはもう惨めな思いをしないぞ・・・僕は勇者だ、僕はモテる。蚊帳の外にされて興奮するような負け組の変態になんかならないんだ!真向からハーレムを築いて、勇者らしく普通の酒池肉林でハッスルしてやる!!」
人に聞かれたら死ぬほど恥ずかしいようなことを自分に言い聞かせて、ライルはこの一件については蓋をすることにしたのだった。
「・・・最後、これで本当に最後だから、戒めの意味(?)も込めて最後にもう一度だけスッキリしとくか・・・」
ライルはおもむろにズボンを脱ぎ、再度蚊帳の外に置かれている状況を思い出し、自慰に励みだした。
もうダメかもしれない。