翌日以降、ライルはひとまず気を取り直し、シュウとの酒場の一件はなかったかのように振舞った。
心機一転。これからは勇者らしい勇者として、負け組にならないようにやっていこうと気合充実で再出発を果たしたライルだが、これは必ずしも彼にとって良い結果につながったわけではなかった。酒場での一件は悪い意味でもライルの意識を変えてしまった。
意識が変わったことによって、これまで気が付かなかったことに気が付くようになってしまったのである。
まず、サーラとアリエスのことだ。
(気のせいじゃない・・・)
サーラ達のシュウを見る目が、明らかに自分に向けるそれとは違う。
熱っぽい視線を向け、艶のある声をかけ、見ているだけでシュウに好意を寄せているのがわかる・・・気がした。
シュウのことも用もないのにチラチラ見ているし、やたらスキンシップも多い。
話しかける回数だってライルに対するそれとは十倍以上違う。
もうはっきりした。サーラ達は間違いなくシュウに好意を寄せ、そしてアピールしている。
てか気づけよシュウさんよ!と思った。
(出し抜かれたか)
だが、ライルはのんきにそんな風に考える。
シュウが一歩リードしてしまったが、これからサーラ達攻略のために本格的に踏み出したからには、これまでのようにはいかない。二人の気持ちを取り戻してみせるし、出来るだろうというつもりでいた。
しかし、そんなライルはサーラ達のこと以外にも気付いてしまったことがあった。
出し抜いたとかそういうものではない、何か決定的なものに。
-----
例えば、ライル達がギルドで引き受けた依頼を終えて帰路についていたとき・・・
道中、魔物に襲われていた貴族令嬢の乗った馬車に遭遇した。
ライルは令嬢のみならずメンバーの女性陣にまで良いとこみせようと、他のメンバーが一切手を出す暇もないくらい素早く全ての魔物を単身で切り伏せた。下心があるとはいえ、間違いなくキマってはいた。偉業である。
「あぁ、助かりました・・・!」
貴族令嬢は感極まったのか、それともすぐにでも救世主に縋ってより安心したいのか、ライル達に向かって小走りになってやってくる。
「もう大丈夫ですよ」
ニコリと、ライルは会心の営業スマイルを見せ、令嬢を受け止めるべく両手を広げる。
・・・が、
スルー
令嬢はまるでそこに何もないかのように、ライルの横を素通りしてしまう。
そして行き着く先が・・・
「助かりました!私、本当にもうダメかと思いましたのっ!」
だきっ
令嬢は脇目も降らずシュウに向かって駆けていき、力いっぱい抱き着いたのだった。
「えっ!?わ、私に!!?」
まさか自分のところへ飛び込んでくるとは思わなかったシュウは、まさかの出来事に大いに戸惑う。
「いやそうはならんでしょ!!」
ライルはそう叫ぼうとしたが・・・すんでのところで理性がそれを押しとどめた。
(なぜだ!?なぜ僕じゃなくてシュウさんのところに行くんだ!!?)
煩悩だらけのライルも問題だが、とはいえ彼の戸惑いと怒りも最もである。
どう見ても抱き着くならライルであるし、そうでなくても素通りすることはないはずだった。
だが、同じようなことが二度、三度と続いた。
何故かライルが良いと思った女は、ライルを無視するかシュウのところへ意識がいってしまうのである。つまりはライルは相手にされなかった。
(な・・・なぜだ・・・僕は勇者のはずだ。どうしてこうなるんだ・・・?)
何か呪われているに違いない。
ライルはそう思い、教会(ムカつくのでシュウには言わなかった)、医者、果ては占い師などの元に行って自分の境遇を伝え、何かおかしいところがあるはずだと訴える。
大体皆「こいつ何言ってんだ?」と言いたげな顔をしながらあしらったのだが、だがあるとき一人の占い師がバカにせず、むしろ哀れみを滲ませた顔で言った。
「それはね、運命ってやつなんですよ」
「運命?」
「世の中には、持って生まれた運・・・それだけで女にモテて困る、なんて人がいるんです。それが多分、そのシュウって男なんでしょう」
「運・・・!」
占い師の言葉に、ライルは妙に納得した。そう、とにかくシュウは運がよく、反対にライルは運が悪いと思っていたからだ。ライルにどこか原因があるかなど考えてもいなかったし、プライドの高い彼はそこに結論が行くはずもない。
「そんな運に味方されている男を出し抜くなんて、できませんよね・・・?」
ライルの縋るような視線を向けながらの質問に、占い師は渋面して答えた。
「難しいでしょう。運とはそういうものですから。並大抵の方法では、運命を打ち破ることなど出来ません」
「・・・!」
占い師の言葉に、ライルの中で何かが弾けた。
無言で立ち上がり、見料をテーブルに置くと、踵を返して占いの館を出る。
「ですが私の持っているこの幸運グッズを買えば、あるいは因果律を打ち破って運をつかむことも出来るかもしれません・・・あれ?お客さん?」
占い師の言葉には続きがあり、幸運グッズを売りつけるセールストークがあったのだが、それがライルの耳に入ることはなかった。
ライルの頭の中にこれまであった様々なことが思い起こされる。
考えてみれば、何故か自分は女運がなく、シュウにばかり女が寄る・・・そんな出来事ばかりだったと。
実際サーラ達の件が極端なだけで、貴族令嬢の時のような事例は何度もあった。
普通に考えれば説明がつかないことだが、シュウに対して並みならぬ運気がついているというのなら納得が出来る。
そうであるのなら、確かに占い師が言うように並大抵の方法ではシュウから女を引きはがすことは出来ないだろう。
しかし・・・
(並大抵の方法・・・?ふん、シュウさんが運を味方にするというのなら、僕は常識を外れた方法でそれを打ち破ってやろうじゃないか・・・!)
占い師の言葉をきっかけに何かを決意したライル。
そんな彼の顔には、邪悪な笑みが浮かんでいた。