ライルには秘策があった。
あまりに理から外れた手法であり、倫理観とプライドからライルは最後の最後までそれは使うまいと考えていたもの・・・
それは古に滅んだとされるユニークスキル、『魅了の魔眼』である。
魅了の魔眼とは目を通して意中の相手に魔力を流し込み、発動者に対して感情を錯覚させ、意図的に愛情を芽生えさせるという外道のスキルだ。
ライルはこの『魅了の魔眼』を使って、シュウに取られた(?)女を自分の虜にしようと考えた。
ライルは旅の途中で、ふとしたきっかけでこの『魅了の魔眼』の存在を知った。
冒険者稼業をしていると、ダンジョンなりなんなりで古代の魔術書を見つけることがたびたびあるのだが、あるとき『魅了の魔眼』の魔術書を見つけたのだ。
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「・・・これは『魅了の魔眼』の魔術書のようですね。人を強制的に魅了するスキルを得られるようにするための本です」
パーティーの中で唯一、古代文字の読解の心得がある賢者アイラの言葉に、当時ライルはハッと息を飲んだ。
「魅了の魔眼?欲しい!」と煩悩に生きるライルは思わず口にしそうになったが、勇者としての建前とプライドでそれをグッと堪えた。
「人の心を偽りの愛で乱すなど、なんて悍ましいスキルだ。滅んで正解のスキルだな」
苦々しい顔を浮かべながら、心にもないことを言って虚勢を張るライル。
「・・・では燃してしまいますか」
「えっ」
「・・・こういったものを残しておくと、後々災いを起こすことになる伏線になると昔から言われています」
「ま、待って!」
魔術書を言葉通り本当に躊躇いもなく燃やそうとするアイラを、ライルは思わず止めた。
「が、学術的な価値があるかもしれないだろ?とりあえず今のところは悪用されないように僕達の拠点で厳重に保管するってことでどうだろう!そうしよう!」
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あまりの必死な様子にパーティーメンバーは怪訝な目を向けていたが、気圧されてか大して反対されることもなく、ライルはどうにか魔術書を死守することに成功する。
とはいえ悍ましいなどと言った手前、冗談でも魔術書に興味を持っているところなど見られるわけにもいかないライルは、拠点のアイテム保管庫に泣く泣く魔術書を寝かせるはめになってしまっていた。
だが、もう見つかっても構うものかとライルは開き直った。
リスクを背負おうが死守した魔術書を解読し、スキルを手にしなければならないときが来たのだと思った。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
「よ、読めない!」
古代の魔術書なので当然書いてあるのは古代文字なのだが、古代語入門書片手に頑張れば読めるかと思いきやライルには全然読めなかった。
古代語はそもそも相応のスキルと頭脳が無ければ解読は難しい。だからアイラのような賢者か専門家に頼むしかないのだが、まさか仲間であり女性であるアイラに「魅了の魔眼を習得したいから読んでくれや」などとは言えるはずもない。
ライルは伝手を辿り、「『魅了の魔眼』の習得を問題視しない上に、口が堅く信用できる古代語翻訳家」を探し始めた。
口にするにも無理があるような人探しだが、金にものを言わせた結果・・・どうにか一人見つけることが出来た。
「やあやあワタシ、古代語習得してるネ!口も堅いし安心して良いアルヨ!古代魔術書の解読ならワタシに任せるアルネ!『魅了の魔眼』にもワタシ詳しいアルヨ!それとワタシの愛人にならないアルカ?」
ライルが紹介された男はイ・チンキンと名乗る初老の男だった。
超細目、なまず髭、弁髪といった見た目や発言内容、ついでに特定語尾と、とにかく怪しいところ満載だったが、ライルにはもう他に頼れる者がいない。
一か月後・・・
最初こそ不安だったが、それでもなんだかんだでチンキンに『魅了の魔眼』の魔術書を解読させ、そしてどうにか習得に漕ぎつける。
習得には必要だからとチンキンによる特別なおまじない、特殊なお香を焚く、高価な銅像に祈る、裸にさせられ穴が開くほど見つめられる、際どいところを触るオイルマッサージなど、怪しくてエッチな上に金のかかることばかりさせられたが、もうそんなことはどうでも良かった。
ライルの頭にあるのは『魅了の魔眼』を使って非モテの自分が生まれ変わること。
そして自分に屈辱を味わわせたシュウに同じ気持ちになってもらうこと。
時間も金もかけた上に、おっさんにオイルマッサージで体を弄られたりと貞操のリスクも背負ったのだ。もう後には引けなかった。
「『魅了の魔眼』が何故滅んだか・・・それは人を簡単に惑わすというあまりに恐ろしいスキル故に、やがて国が亡びる可能性を恐れて使い手が徹底的に弾圧されたアル。だから使用には気を付けるネ。もしバレたら大変アル。そのときはワタシの愛人になれば匿うアルヨ」
ライルがスキルを習得したとき、チンキンは魔術書を簡単に訳したものと一緒に、説明書にしてまとめてライルに手渡した。
ライルはざっくりと説明書に目を通しながら、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。
「あぁ、わかってるさ。僕はそんなヘマはしない。愛人はノーサンキューだ」
そう言いながら、ライルは悠々と歩を進めた。
目的は『光の戦士達』の拠点。
ライルは悍ましいスキルをすぐにでもパーティーメンバーの女性陣に試してみる気まんまんだった。
「シュウさん、今日限りで皆僕のものにしてしまうよ!シン・ライルここに誕生だ!」
期待に胸と股間を膨らませ、ライルは勇者らしからぬ愚行へと身を落とそうとしていた。