ライルはいつしか暗い暗い闇の中を歩いていた。
『ライルよ・・・まだここに来てはいかん』
「あれ・・・?死んだ爺ちゃん?どうしてここに・・・」
歩みを進めるライルを止めたのは、昔亡くなった彼の祖父。
唐突な祖父の出現に、何故だかライルは驚くのもそこそこに再び歩みを進めようとする。
『お前にはまだやるべきことがあるはずだ』
祖父の言葉でライルは再び歩みを止めた。
「やるべきこと・・・そうだ!ハーレムを始動しなくちゃ!!」
『いや、そっちじゃなくて魔王
「ありがとう爺ちゃん!俺、やるべきことを思い出したよ!!」
『おーい・・・』
-----
「はっ・・・!?」
ライルは股間に走った痛みのせいで、口から泡を吹き白目を向いて悶絶してから失神していたが、あの世に行きかけたところでようやく蘇生した。
何が起きた?
と考えを巡らし、そしてすぐに思い出す。
寝ていたと思っていたレーナから、思いっきり股間に蹴りを食らったのだ。
勇者として強靭な肉体を誇るライルとて、最大の弱点である股間を無防備な状態で蹴られればただでは済まない。
今だダメージの抜けきらぬ股間をいたわるように前かがみになりながら、ライルはキッとレーナを睨みつけた。
「レーナ!何をするんだ!」
流石にライルとて股間を蹴られれば相手が女でも怒る。例え結果として同意を得られそうな相手でも、寝ている相手に断りなく襲い掛かれば抵抗されても仕方がないはずだが、そんなことはライルにはお構いなしだった。
「どうして貴方がここに来るのよ!?」
怒ったライルに対し、当のレーナはライル以上の怒りをぶつけてきた。
普段は涼しい顔をしてマイペースを貫き、感情を揺らすところなど滅多に見せないレーナが激昂しているのを見て、ライルは怒りも忘れて唖然としてしまう。
「ど、どうして・・・って、だってシュウを追い出したら僕達は晴れて結ばれることが出来るからって・・・」
だから急に同意なく襲い掛かって良いわけではないが、ライルはレーナの迫力に怯えてビクビクしながら答える。
それを聞いてレーナは思い当たることがあるのか「あ~・・・」と声を漏らしながら、考える素振りを見せ、それまで怒っていた態度を一変させて気まずそうに目を伏せながら言った。
「ごめん、今日は気分じゃないの」
「え?」
気分じゃない?
必要以上にエッチな気分になるお香を焚いて、見る者を誘うようなドエロい下着を着ておいて、これ以上ないほどに情交を誘いこむような仕掛けをしておいて、気分じゃない?
ライルはトンチ勝負を挑まれた気分だった。
「お願い、今日は帰って?」
申し訳なさそうに手を合わせながら、床に寝そべったまま困惑するライルをゴロゴロ転がし、問答無用でレーナはライルを部屋から叩きだす。
「な・・・!?」
ライルは悶絶したまま、理不尽な扱いを受けたことに憤りを感じるも・・・
(そうか・・・僕が行くのが遅くなって待たせてしまったから、拗ねてしまっているんだね)
持前の斜め上のプラス思考で、どうにか納得?するのだった。
いまだ前かがみの情けない姿であるのに「フッ」とキザに笑ってみせると、ライルは気を取り直してサーラ達でも誘って飲みに行こうかと切り替える。
ところが
「ごめん、今夜はいろいろ忙しいんだ」
「すみません、今は苦痛を意に介する暇もないほどに忙しいんです」
サーラもアリエスも、何かするべきことがあるようで、部屋から一歩も出ることなく食事にすら誘うことが出来なかった。
おかしい・・・何かがおかしい・・・
今日はいろいろと記念日になるはずだったのに。
ライルは新たなモヤモヤを胸に結局一人寂しく過ごして床に着くのだが、翌朝このときのモヤモヤなど一瞬で消し飛ぶほどの大事件が起こることになるなどとは、思いもよらなかった。