『・・・というわけだ。この段取りでいけば、奴らの目論見は潰えるはずだ』
「なるほど、承知しました」
ライルは通信具でレウスと打ち合わせをしながら、レウスが遣わした使者の案内を受けて移動していた。
シュウとフローラは白馬に乗って移動中。
教会騎士達の妨害を物ともせずに突き進んでいるが、実のところ優秀な指揮官による手腕により、そのルートは功名に誘導されていた。
ライル達と鉢合わせする位置になるように設定されているのである。
『君ならやってくれると信じている。良い報告が聞けることを期待しているよ』
最初こそライルの乱心によりトラブってしまったが、とりあえずはフローラを取り逃がすという最悪の結末だけは避けられそうだと確信し、レウスは気を緩めた。
フローラをライルにくれてやることになって最初こそ損をしたと感じたが、結果としてライルは異様なまでにやる気を出しているし、今となってはこれで良かったかもしれないと思いなおす。
さてそろそろシュウと鉢合わせする頃かと思い、レウスが通信を切ろうかと考えていたときだった。
ライルが神妙な声色で言葉を発した。
「レウス司教。先ほど打ち合わせをしていた中で、考えていたことがあったのです」
『うん・・・?何かな?』
どこか計画に抜けがあったか?とレウスは思った。それならばすぐにでも考え直さなければならないが、ライルが次に発した言葉はまるで予想のつかないものであった。
「僕のパーティーのメンバーである法術師アリエスのことはご存じですか?」
『うん・・・?アリエスとな・・・?』
唐突にアリエスの名が出て、レウスは当惑した。
だが、アリエスのことはレウスも知っている。自分が投資しているパーティーのことだから、メンバー全員のことを把握しているのは当然だ。
『知っている。膨大な魔力を持つだけでなく、どのような大怪我でも数秒で治せるほどの高度な回復魔法を使うことが出来る法術師だろう。「奇跡の乙女」「癒しの天使」との異名まであったな。なんだか聖女であるフローラとキャラがかぶるなと思ったもんだが・・・彼女がどうしたのかね?』
「思ったのです。アリエスの高度な回復術にかかれば・・・もしかしたらフローラの処女膜が再生できるのではないかと」
『・・・は?』
え?何の話・・・?と、レウスは頭の中が真っ白になりかけた。
「確かに不浄なるシュウによってフローラの肉は穢されてしまいましたが、一応肉体的にはこれでリセットが可能だとします。後は心情的な問題だけですが、これについてはおおらかに受け止めるのが勇者としての度量というものでしょう」
思わず反射的に発しそうになった「お前こそが不浄だ」という言葉を、レウスはどうにか飲み込んだ。
この男は何を言っているのか?今がどういうときかわかっているのか?
言いたいことは氾濫する川の水量ほどあるが、ライルの機嫌を損ねたらフローラ捕縛作戦は失敗する。
だから、レウスはここはとりあえず慎重に話を聞き続けた。
「問題はタイミングなのです。最初にリセットして初エッチをやり直しするのか、それともまずは上書きするように抱き潰してからリセットさせるのか、どちらも捨てがたいと思うのですが・・・」
『いやいやいや、一体何を食ったらそんなことを思いつくような思考回路を持つ人間に育つのだ!?』
あまりにライルのキモさに、一瞬でレウスの我慢ゲージが振り切れてしまい素が出てしまう。、
「最初こそはシュウにフローラの処女を奪われて絶望しましたが・・・処女膜再生が出来るならば・・・既に精神的には経験済みなのに、体だけは未経験っていうのも『体は子供、頭脳は大人』みたいなエッチな響きがあって良いと思いませんか?」
『聞きたくない聞きたくない』
「そんなことを考えていたら、下品なんですが・・・フフ、勃起しちゃいましてね・・・」
『君は私と打ち合わせをしている最中、そんなことを考えていたのかね!!?』
あかん、やっぱコイツ駄目だ!と、レウスは嘆く。
だが、それまでどこか愉悦に浸っていたライルの声色がここでグッと低くなった。
「いやぁ・・・そんなくだらないことでも考えて気を紛らわせてないと、どうにもこうにも衝動が抑えられなくてですね・・・心の均衡を保つのに必死なんです」
ゾッとするほどの、圧の籠ったライルの言葉に、レウスは「ヒッ」と小さく悲鳴を上げる。
「司教の作戦、成功させてみせますよ。けど、溢れんばかりのシュウへの怒りが、僕の心を常に乱そうとするんです。こんな精神状態じゃ、うまくいく作戦もうまくいかない。気を紛らわせてないと、シュウの周りにいるだけのものですらまとめて破壊しそうなほどに、今は怒り狂ってるんですよ。はは・・・シュウを殺すことが出来ても、大暴れしすぎて世間体が悪くなったらダメでしょう?ははは・・・」
カラ元気のように笑うライルの声色には、殺気が籠っていた。
馬鹿みたいな・・・いや、馬鹿そのものの話題を上げていたのも、彼なりの感情のコントロールだったのかとレウスは気付く。
(こいつ・・・)
レウスは思った。
自分はとんでもない男を勇者と見込んで投資してしまったのではないかと。随分と見当違いなことをしてしまったのではないかと。
このライルという男に付き合って、最後に手元に来るのは栄光ではなく破滅なのではないか?
そんな気さえした。
『作戦の成功を・・・期待している・・・』
だが、レウスは今更ライルから手を引くことは出来ないと思った。
強い力と感情を制御できない、一緒にいるのは極めて危険な男かもしれない・・・だが、敵に回すのはもっと危険な男だと確信したからだ。
「ご心配なく。シュウは必ず止め、フローラは取り戻します」
ライルはそれだけ言って通信具を切った。
ちなみに、ライルの会話の内容は残念なことにアリエスにはしっかり聞こえており、当のアリエスは「ヴォエッ」となりそうな吐き気を堪えていた。