こうして再び時は動き出す---
シュウとフローラが結ばれた宿屋を飛び出し、狂暴な巨大白馬ホワイトキングを駆りながら、教会からの追手である騎士団の包囲網をやすやすと突破・・・そしてそのまま帝都外へ--
フローラが描いていた理想の逃走ルートは、突如として目の前に現れた勇者ライルという『壁』の出現によって阻まれることとなった。
「逃避行はここまでだ」
そう言ってライルは剣を鞘から抜く。
駆け落ちするシュウ達を、見送りに来てくれたという線はここで消え、ピリッとした空気が充満する。
遭遇した場所は、催し物の際に使ったりする大きめの噴水広場である。
レウスがライルを使ってフローラを捕まえるために、わざわざ選んだ場所だった。
ここなら捕り物の際に多少激しくしても、他の場所よりは周辺への影響が及びづらいだろうと考えてのことだった。
(やられた。誘導されたんだ・・・)
フローラは眉を寄せながら、そう思った。
冷静でいるつもりではあったが、シュウと結ばれることの出来たことと、駆け落ちをしているという事実に少なからずテンションが上がり、やはりどこか冷静になり切れていなかったのだなと反省する。もういくらかでも冷静さを保てていれば、自分達が誘導されていたことに気付けただろうと。
「ライル・・・」
シュウはライルの出現に少し驚いた表情を見せたが、それでもすぐに納得したように苦笑いを浮かべた。
「なるほど。レウス司教の大事なフローラに手をつけてしまったからには・・・貴方が出てきますよね・・・」
勢いで逃げ切ってしまいたかったが・・・と、シュウが呟いた直後だった。
「ッッ!!」
ここでフローラはホワイトキングを急転換させる。
逆方向に逃げ出し、ライルから距離を取ろうとしたのだ。戦ってどうにか出来る相手ではない。逃げるしか選択肢はないのだ。
・・・だが、フローラの考えたそれは叶わなかった。
「セイント・ウォール!!」
アリエスが呪文を唱えると、わずかに光を帯びた透明な壁がシュウ達の眼前に現れた。
セイント・ウォール・・・あらゆる攻撃をはじき返す、巨大な魔法の壁である。
この魔法の壁が、シュウ達の眼前だけでなくいくつも連続で構築され、最後にはシュウ達とライル達だけを取り囲む巨大なリングを形成した。
シュウ達は、一瞬にしてこのライル達と戦うためのリングに閉じ込められてしまったのだ。
『おおおおおおおおおおっ!!』
一般人達が歓声を上げる。
自分達の目のまえで、何か大変なことが始まろうとしていることにお祭り騒ぎである。
セイント・ウォールに阻まれてはいるが、ほぼ透明なので視界が奪われることはなく、簡易的な闘技場みたいなものだからギャラリーするには絶好の条件だった。
「くっ・・・」
盛り上がるギャラリー達とは違い、絶望的な気分になっているシュウとフローラ。
特にシュウはライルの自分を見ている目を見て一つのことを察した。
(あれ・・・ライルが相手を殺すときの目なんだけど・・・)
これまで幾度となく見て来たライルの目。
その目を向けられたものは、ほぼ全てライルの剣の錆となったことをシュウは記憶している。
そこまで本気か。本気で止めるつもりか・・・
シュウは納得したように頷きかけて
「いや、普通殺すまでいかなくて良くないですか!?」
我に返って叫んだ。
ライルの得物は模造刀なんかではなく聖剣アスカロン。真剣も真剣。シュウなど一瞬で真っ二つになる伝説の剣である。
それを普通にシュウに向けようとしているし、目も殺す気まんまん。
確かにフローラを奪われるのはレウスにとって痛手だし、なんとしても防ぎたい。そのために手駒の中で最強であるライルを派遣するのはわかる。
けど、ライルはシュウに対して手心を加えてくれても良いのではないか?
せめて全身打撲で済むように・・・とか。
チラッ
「・・・フッ」
シュウの視線を受けて、ライルが鼻で笑って見返す。
(あっ、ダメだこれ)
それを見てシュウは思った。本気でライルはシュウは殺す気だと。
ライルがしたのは、敵対した高位魔族が挑発的な言葉を吐いたときなんかに、「バカめ。どうせお前はすぐに死ぬんだよ」と言わんばかりに、相手に対する憐憫と嘲りを込めてする癖だった。そして、実際にその微笑を向けた相手は例外なく殺してきたのだ。
「あわわわわわわわ・・・」
本気だ!
シュウは教会からの追手に命を狙われるのは覚悟していたが、まさか圧倒的強者であるライルがいきなり刺客になるとまでは考えていなかった。イミワカンナイ!心の準備が出来ていない!
シュウは考えた。どうにかしてこの場をやり過ごす方法を。
数秒して、どうにか一つだけ可能性を見出せる策を思いつくと、シュウはソッとフローラに耳打ちする。
「シュウ様・・・!」
話を聞いたフローラは、不安そうに名を呼ぶ。
シュウは安心させるようにフローラの頭を撫で、ホワイトキングを降りた。
「少し待っていてください」
そう言って笑いかけ、ライルに向き直るシュウ。
覚悟は(ある程度)決まった!さぁ、やるぞとシュウがキッとライルを正面から見据えると・・・
「!?」
ライルは目じりに涙を浮かべ、シュウのことを睨んでいた。それまでの少し余裕ぶった涼しい顔からの豹変に、シュウは戸惑う。
「いちゃいちゃしやがってぇぇぇ・・・!」
悪鬼羅刹のような顔をして、ギリギリと歯ぎしりして恨み言を吐くライルを見て、シュウはなんで異様なまでに殺気を向けられているのか、ようやく理解出来た気がした。