『仲間なんだろ!?見逃せ!それが友情ってもんだろ!』
『二人を祝福して、助けてあげてーっ!』
『やっぱり勇者勃起してるって・・・今ポジション直したし』
一般人達が細かい事情を顧みることなくシュウ達を見逃してやれよと叫び、ライル達は帝都自慢の勇者パーティーでありながら、すっかりアウェーの空気の中に包まれていた。
例えライル達に義のある捕り物であるとしても、この空気の中では振る舞いを間違えると後々まで悪評が尾を引きかねない。
ライルは世間体を気にする男だった。
だからシュウは自分達への対応に苦慮するだろうと読んでいる。何年も一緒にいてライルのことを理解しているシュウだからこそ、そう確信出来ていた。
だがレウスはいつの間にかシュウ達の駆け落ちをアシストするように外堀が埋められていることに気付き、一計を案じた。
ライルが世間体を気にすることがなく、十分に力を発揮できるように・・・そして、フローラを奪還した後、世間から「あれは横暴だった」などの非難がされないように、レウスは「フローラが仕掛けた茶番を茶番でひっくり返す」ことを決め、ライルと事前にしっかりと打ち合わせをした。
これはライルにしかできない、必殺技である。
「シュウ!言いたいことはそれだけか!?」
それまで黙っていたライルが突然叫びだしたことで、場には再び静寂が訪れた。
「何を言い出すんだ?」と、ギャラリー達はライルの発言を聞き漏らすまいと耳を傾ける。
ライルはそれを意識した上で、大げさに肩を窄め、ため息をついて言った。
「本当、残念だよシュウ。君が本当にフローラさんのことを愛し、駆け落ちをすると言うのなら、僕だって自分の立場のことは一旦隅に置いて、祝福して見逃すくらいのことはしたかもしれない・・・だが!」
ここでライルはビシッと剣をシュウに向けて突き付け、声高らかに叫ぶ。
「それが本当の愛ではないことを知っている!シュウ、お前は聖女フローラを魔法で愛を錯覚させる『魅了魔法』で惑わしているだろう!!そんな偽りの愛を、僕は祝福することなどできない!!」
ざわっ・・・っと、ギャラリー達がどよめいた。
『魅了魔法』という、聞きなれない言葉を聞いて当惑が広がる。
『魅了・・・魔法・・・?』
『なんだそりゃ・・・?』
ギャラリー達が困惑しているのを見て、ライルは内心ほくそ笑みながら続けた。
「禁忌とされ、今となっては知る者のいない『魅了魔法』。お前はそれで聖女フローラの心を惑わし、駆け落ちと称して無理矢理連れ去ろうとしていることはお見通しだ!既にこちらも証拠は揃えてある!!」
証拠など揃ってなどいないが、ライルはつらつらと述べる。
ライルは自分が仲間達に使っていた『魅了魔法』を、あたかもシュウが使っていたかのように嘘を言い、シュウ達の駆け落ちが純愛から来るものではない、ただの誘拐であるということをギャラリー達に印象付けさせた。
「・・・」
あまりの急展開に、シュウもフローラも困惑して絶句する。
それをいいことにライルはなおも続けた。
「シュウ。お前は長年神官として仕え、僕の仲間でもあった。だがそれは仮の姿!本当のお前は、聖女をたぶらかして魔王の元まで連れ去る邪神官であることも調べがついている!!」
「じゃ・・・邪神ちゃん・・・?」
「邪神官だ!邪神官シュウ!!すっかり騙されたが、お前は人類にあだなす敵として、この場で成敗する!!」
一度突き付けた剣を、わざわざもう一度オーバーなアクションで振りかざし、再度突き付ける動作をするライル。
まるで舞台劇の役者のようだが、実際のところ「僕にこれだけの演技の才能があったとは」などと、ライルは少しだけ自分に酔っていた。
シュウはシュウで「邪神官・・・少しカッコイイ」と不謹慎ながら僅かに頬を緩ませる。
「シュウ様!予想外のことになりました・・・」
「え!あ、そうですね・・・」
緊迫したフローラの声に、ハッと我に返るシュウ。
レウスの思惑、それはフローラ達の駆け落ちを、魔王の手先であるシュウによる誘拐という形に塗り替えるというものであった。
駆け落ちならば見逃してやれという意見でも出てきてしまうが、魔王の策略による聖女の誘拐となれば話は別になってくるからだ。
これを教会がただ言うだけでは説得力はまだ足りないかもしれない・・・が、勇者であるライルが言うと話は違ってくる。
『あの男・・・邪神ちゃんだってよ』
『邪神官な。邪神に仕える、悪魔の手先ってことか・・・』
『ずっと教会に潜んで、聖女を篭絡する機会を伺ってたってことか・・・?』
『だったら、ここで止めないといけないだろ!』
ギャラリー達の中で、ライルの言い分を信じる者達が現れる。
駆け落ちという茶番劇は、ライルのパワープレイによって塗り替えられ、フローラの思惑が大きく崩されようとしていた。
良し、うまくいった・・・とライルは考える。
全員が無理でも、ある程度流れが出来れば、後はどうともでもなる。レウスも証拠はいくらでも捏造すると約束したし、シュウをここで殺したところで非難の声はある程度抑えられるはずだ・・・と、ライルは内心ほくそ笑みながらも悲しそうな表情を作り、剣を構えた。
「シュウ!魔王の手先として騙していたとはいえ、元は僕の仲間だ。せめてひと思いに僕の手で終わらせてやる・・・!」