「違います!まやかしなどではなく、私は本当にシュウ様を愛しているのです!」
フローラが叫ぶが、ライルの言葉の後では説得力があるかは微妙なところだ。
「その愛は偽りのもの!今すぐに僕がシュウを斬ることで、貴方を侵しているまやかしから解き放ってみせよう!!」
フローラが愛を訴えたところで、それがまやかしのものであるという前提があるならば、ライルを止めることは出来ない。
フローラが自分達の愛とそれに対する逆境をでっちあげたように、ライルはフローラの愛そのものが偽りであるという話をでっち上げた。
勇者という立場であるライルの言葉は、内容が内容だけに確かに信ぴょう性があり、実際、場の空気は彼の言葉に流されようとしている。
「まぁ、簡単にうまくいくとは思ってませんでしたが・・・」
シュウは苦虫を嚙み潰したような顔をしてから、はぁと小さくため息をついた。
反対に作戦の成功を確信し、口角を上げるライル。
「待っていてくれフローラ・・・これが終われば、僕がすぐにベッドへ連れていって、君からシュウのことを消えさせるためにねっとりと愛して上書きしてあげるからね・・・」
思わずライルの本心が出て気持ち悪い呟きが口から洩れるが、それがギャラリー達に聞かれなかったのは幸いだった。ただ興奮から股間がギンギンに膨れ上がり、それを一部のギャラリーが気付いていること、そして傍にいる仲間達が呟きを聞いてドン引きしているというのはあるが。
「さぁ、シュウ!もう逃げ場はない。大人しく観念するんだ!!」
ライルが剣を振りかざし、ビシッと決めポーズを取る。
キマった・・・!ライルはそう思った。
そのときだった。
ゴスッ
何かがライルの頭に直撃する。
そこそこの重みがありそうな植木鉢だった。
「・・・は?」
頭から一筋を血を流しながら、ライルは土まみれになった頭部もそのままに、ぶつかって砕け、地面に散らばった植木鉢の欠片を茫然と見下ろした。
「い、今のは・・・痛かったぞ。痛かったぞーっ!!誰だこれ投げたのは!!」
流石に痛い思いをさせられては世間体スマイルを維持することが出来ず、怒りを露にギャラリー達を見回すライル。
プスッ
そんなライルの額に、今度は包丁が突き刺さる。
「ぎゃーーっ!!」
悲鳴を上げるライルだが、いつまでも痛がっていられない。
何故なら酒瓶、岩、野良猫、分厚い本などが次から次へとライルに向けて投げ込まれてきたからだ。
「ちょっと待って!痛っ・・・どうして僕に、痛っ!みんな落ち着い・・・痛っ!待っ・・・痛!・・・痛てぇっつってんだろ!!痛っ!あっ!やめて、そ、そこだけは・・・んぁっ!」
絶え間なく投げ込まれる物に痛めつけられ、何かがライルのクリティカルな部分に命中したことでついに身を屈めることになる。
シュウ達は呆気に取られ、それを茫然と「え、何事?」と眺めていた。
見るとライルに物をぶつけているのは、ギャラリー達の中にいる女性達だった。
「二人の邪魔するなって言ってんでしょーが!!ひっこめ!!」
誰かが怒りの声を上げ、それを皮切りに次々へと罵詈雑言が飛び出す。
「四の五のいいからさっさと二人を通しなさいよ!」
「お前なんてお呼びじゃねーんだよ!!」
「大根役者!」
「勃起してる変態!死ね!」
「変態!変態!変態!」
樽、ナイフ、斧、花瓶、思い思いに手に取ったものを投げ込み、ライルにぶつける女性達。
シュウ達とライル達だけのステージを作るために展開された魔法障壁の頭上を越え、ライルに命中するまでなのだから恐るべき投力である。
女性達のあまりの迫力に、先ほどまでライルに迎合しようとしていた男性達はすっかり怯え、自分達に矛先が向いてはならぬとピタりと口を閉ざした。
「い、一体何が・・・」
ライルが言っていたシュウ邪神官説はでっち上げではあったが、それなりに説得力はあった。しかし、今見るからに女性達は全くライルの言い分を信じている様子がない。これにはライルのみならずシュウ達も困惑した。
とはいえ、ライルには困惑している暇もない。
次々と投げ込まれる凶器に傷つきながら、ライルの心に次第に怒りが蓄積されていく。
「皆さん、話を聞いてくださ・・・ぶっ!」
話をしようとしたライルの顔面に、馬糞が命中したのがきっかけだった。
「い、いい加減にしろーーっ!!」
ついには勇者としての世間体も忘れ、怒りをぶちまけるライル。
いや、無理もない。無理もないが、勇者としてはそれでも耐えなければならない場面でキレてしまった。
「・・・無理もない」
そんなライルを見ながら、アイラは誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。