「あ、あの・・・大丈夫ですか・・・?」
ライルのあまりの惨状に、本来ピンチな側であるはずのシュウが心配になって思わず声をかける。
それがまたライルの神経を刺激した。
「うるさい!こうなったのも何もかもお前のせいだ!!」
「えぇ・・・(困惑)」
ライルは世間体のことなど忘れ、据わった目でシュウを睨みつける。
(やばい、今度こそ殺す気だ!)
シュウは察した。
ライルはヤケになっていて、もう外野の声もライルを制止する力にはなりはしないと。本当に自分を殺すまで、ライルが正気に戻ることはないと。
「・・・やれやれ、仕方がありませんね」
シュウは苦笑いを浮かべ、大げさに肩を窄める。心の焦燥を現わさず、あたかも余裕があるように振る舞った。
「・・・ほう、大人しく裁きを受け入れる気になったのかい?」
対してライルは微笑さえ浮かべず、低い声でそう言う。
裁き=死。元仲間なのに何の情もない。ひどくない?とシュウは言いたいのを堪え、それでも笑みを絶やすことなく言った。
「いいえ、何があっても抗わせていただきます。貴方を倒すまでには至らずとも、逃げることだけならそう難しいことではないでしょう」
「へぇ・・・っ!!」
ビキィっと、ライルの額に青筋が浮かび上がる。
プライドの高いライルは、格下と思っていたシュウに舐められてると思い、怒りのボルテージを一段階上げた。
「まぁ、流石に勇者パーティーフルメンバーでは、多勢に無勢でどうにもなりませんが」
チラリとレーナ達に目を向けながら、フッとシュウが笑えば、ライルはあっさりと挑発に乗った。
「僕一人で十分だ!一瞬で切り伏せてやる!!皆、手は出すなよ!!」
「ちょ、待てぃ!何を勝手に」「うるさい!!」
サーラが咎めるのを、ライルは一切聞く耳持つことなく遮った。
(ちょろい)
ライルが思う通りに流されてくれて、シュウは内心ほくそ笑む。
自分が操ってみせたと思ったギャラリーからは裏切られ、シュウからは舐められ、ライルは完全に自分を見失っていた。
プライドが高い男なので、そこを傷つけられるとあっさりとペースを持っていかれてしまう男なのである。そのライルの性格を付き合いの長いシュウは熟知していた。
『二人に道を開けろ!』
『ひっこめ!』
『変態勇者!!』
そういうしているうちにも、ギャラリー達(女性達)の罵詈雑言は容赦なく飛んでくる。
それがまたライルの怒りを増幅し、もはやパーティーメンバーの誰もが彼を宥めることなど不可能になっていた。
「随分人気がおありのそうですね」
「うるさいうるさいうるさい!」
耳につく罵詈雑言に、ライルは苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「私を斬るにしても、せめて皆にわかりやすくカッコよくキメないと立場がありませんね」
「・・・フンッ」
シュウの言葉にライルは逡巡してから、剣を下段に構えだす。
それを見てシュウは(よし!)と思った。
「これで本当に終わりだ、シュウ」
「そのようですね・・・」
腰を落とし、剣を構えるライル。
そしてそれに応ずるように構えるシュウ。
勝負のときが来ようとしていた。
ライルは頭から流血。額に包丁が刺さったりと、既に満身創痍に見えるが。
シン・・・と、いつやらギャラリーも黙り、再び場は静寂に包まれる。
「シュウ様・・・!」
そんなやり取りをしているシュウ達を見つめながら、フローラはギュっと拳を握りしめる。
絶体絶命の中であるが、シュウは着実に生還するための布石を打っていた。
しかし、フローラには今出来ることはない。ただ見ているだけなのがもどかしかった。
『シュウ様!何があってもここを乗り切りましょう・・・!』
フローラに出来ることは願うことだけ。
そして『時』が来るのを待つだけだ。
『・・・ところで、勇者ライルは何故股間を膨らませているの?男の人はこういったとき皆そうなの?だとすれば今、シュウ様も・・・?』
フローラの思考は微妙に逸れていった。