シュウとライルは向かい合う。
「・・・」
ライルは下段に剣を構え、腰を落として体を捻った。
『あ!あの構えは・・・!』
ライルの構えを見たギャラリーから、ちらほらと声が上がる。
『巨竜ですら一刀で両断するという、必殺剣だ!』
『聞いたことあるぜ。風のように一瞬で動いて、気が付いたら真っ二つらしい・・・』
『俺もクエストの最中に見たことある。斬竜刀一文字斬りだっけ?』
『いや、技名聞いたらライルストラッシュだとか・・・』
『え?俺は剣斗裸剛剣明剣活って聞いたことが・・・』
『ライル・プラチナムマーベラスビクトリーフィニッシュだったような・・・』
『それ、なげぇよ!』
『まぁ、名前はなんにせよ凄くてカッコイイ剣技だった』
冒険者の中ではそこそこ有名なライルの必殺剣・・・今、ライルがとっている構えは、その必殺剣のそれであった。
ライルが編み出した独自の剣技であり、確かに威力は凄まじくカッコイイのだが、あまりの傑作故にライル自身技の名前を決めかねていた。
人に聞かれればそのときどきで思い思いに名前を言うので、世間ではライルのその剣技には30通りくらいの名が出回っている。
ちなみに今でも技名は決まっていないが、シュウは名無しの剣・・・ということで仮で『無名剣』と名付けていた。
(やはり来たか、無名剣!)
シュウは神妙な表情をしながらも、内心はほくそ笑んでいた。
何故なら、シュウはライルが無名剣を使うように、あえて誘導していたからだ。
ライルは何故かギャラリーの女性陣から顰蹙を買っている。
世間体・・・特に女性からのイメージを大事にするライルからすれば、同じシュウを倒すにも女性陣の心を掴むような手法を選ぶだろうと考えられた。
そして選ぶだろうとされるのが、強力かつカッコイイ『無名剣』でのフィニッシュ。
シュウはライルを挑発し、あえてこれに誘導した。
一般人というギャラリーが周囲にいる以上、万が一にも巻き込まないためには使える攻撃手段は限られているので、なおのこと誘導できる確率は高いと思っていた。
無名剣は猛スピードで突進し、横なぎに一振りするという実にシンプルな技だ。だが、その一振りは「切れぬものはない」と言われるほどに鋭く強力で、発動前の構えから残心まで、全てが美しい。
特に美しさについては、ライルがこれでもかというほどに研究を重ねていた。
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ライル『シュウさん、今のどう?カッコ良くない?』
シュウ「あ~・・・魅せるならもう少し大振りでもいいかもしれません。実戦的にはマイナスですが・・・』
ライル『なら、構えももう少しこう大げさにしたほうがいいかな・・・?』
シュウ「そうですね。舞台劇の殺陣も大げさに動きますしね。実戦で考えるとナンセンスですが」
ライル『カッコよさと実戦向きどちらかと言われれば、前者を選ぶでしょ?』
シュウ「勇者としてはどうなんですかね・・・」
ライル『どうだ!決まった!これなら誰もが僕を見て見惚れることだろう?』
シュウ「あ~、そうですね。私が女だったら股を開いていたでしょう(適当)」
ライル『ふふ、そうだろうそうだろう』
シュウ「なんで今の返しで満足気なんですかね・・・」
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シュウはふっと、昔を思い出す。
バカバカしいが、楽しい思い出だった。
実戦的なものは二の次で、とにかくカッコよさを極めた無名剣。派手さはないが、極めに極めた剣舞のように研ぎ澄まされた美しさがある。
ライルの実力もあってか、結果として無名剣は冒険者間には「強力な必殺技」として認知されたが、それでもシュウは知っている。
無名剣は、カッコ良いだけで純粋な剣技としては欠陥があるということを。
舞台劇で映えるように特化させた剣技など、普通ならそうそう実戦で使い物にはならない。ライルの地力で剣技としての不完全さをある程度カバーしているだけなのだ。
とことん実戦的に研究していれば、今頃は比類なきほどに強力な剣技として名をはせたかもしれない・・・と考えると、シュウは複雑な気持ちになる。
だが、今ではそれがシュウにチャンスをもたらしている。ライルが無名剣を使うならば、遥か格下であるシュウにだって勝てる確率がいくらかあった。
何しろ無名剣はライルと二人で作り上げたような技。指摘しても、ライルによる「カッコよければ良い」の一言で切って捨てられた幾つもの欠陥があり、シュウはそれらを把握しているのだから。
「行くぞ、シュウ!せめて僕の剣で眠るが良い!!」
ご丁寧に、ライルは「行きますよ」と教えてくれている。
カッコつけすぎるライル故に、シュウには付け入る隙があった。
ライルの足が地から離れる。
勝負は一瞬・・・ それが今、始まろうとしていた。