※この作品はR-18です。

追放の破戒僧は女難から逃げられない   作:ミステリードール

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燃料投下

「シュウ!私を置いていかないでくれ!!」

 

 

サーラが声を張り上げた。

凄まじい肺活量により声は空気を激しく振動させ周囲に大変な勢いで響き、近くにいたアリエスは目から☆を出して立ち眩みを起こした。

 

当然、その声はシュウの耳にも入る。

置いていかないでくれ・・・まるで愛の告白のような言葉に、シュウは少しだけ疑問を抱いて困惑したが、そこから更に続く言葉にはより仰天させられることになった。

 

 

「お前が好きなんだ!愛してるんだ!!私の元から離れないでくれ!!シュウ!!」

 

 

サーラは公衆の面前であるにも関わらず、超絶なる大声で愛の告白をした。

 

 

「え・・・?」

 

 

当然ながら唖然とするシュウ。

 

 

(サーラが自分を?え?本当に?)

 

 

やばい、すっげー気になる。場合が場合じゃなければ少しくらいは話をしたいところだとシュウは思った。

だが、今は流石にそんなことをするわけにはいかない。

 

 

「シュウ様。無視してください」

 

 

フローラはくだらないものを切って捨てるかのような目をしながら、シュウに向けて感情のこもらぬ声で言った。当然ホワイトキングの足も止めない。余計なことにシュウの意識を向けさせてたまるかと言わんばかりだ。

 

 

「うん、そうですよね」

 

 

気になる。だが、手綱を握っているのはフローラだし、今は逃走に専念するべきだとシュウは未練を断ち切った。考えるのは後だ。すっごい気になるけど。

 

 

『おいおい空気読めよ話くらい聞いてやれよ!』

 

 

むしょうに話の流れが気になるギャラリーが、無責任な野次を飛ばす。

 

 

「無視してください。考えるのは全てが終わった後です」

 

 

「わかってますよ」

 

 

下馬して話をしたい気持ちも僅かにあるが、少し圧すら込められているフローラの言葉に逆らえるはずもなく、シュウは考えるのをやめることにする。

 

しかしここで流れが変わった。

 

 

「私に愛を囁いたのは、嘘だったのかシュウーーーッ!!」

 

 

更に一段階声量の上がったサーラの叫びに、またも空気がガラリと変わった。

あまりの大声に隣にいたアリエスはついに白目を向いて倒れる。

 

 

「は?」

 

 

何を言われたのか理解が追い付かず、茫然とするシュウ。

 

 

「「は?」」

 

 

更なる燃料投下に、色めきだつギャラリー。

 

 

「はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!?」

 

 

青筋を浮かべながら、悪鬼羅刹のような顔でサーラを振り返るフローラ。

 

 

ズザアアアアアアァァァァ

 

 

次の瞬間、フローラは馬体を横に向けながら、スライドしつつホワイトキングを急停止させた。

 

 

それまでのシュウへの愛の告白など聞き流していたしシュウにもそうさせたのに、さすがに今回ばかりは聞き捨てならずにフローラは逃走を中断した。

 

 

「えっと、フローラ・・・?」

 

 

逃げないの?と言おうとしたその口は閉ざされた。

フローラから並みならぬ憤怒のオーラがあふれ出ていたからである。

 

 

「シュウ様?どういうことですか?」

 

 

ハイライトの無い目で、フローラはシュウに迫った。

口調は穏やかだが、それが逆に怖いとシュウは感じる。

 

 

「あの方に愛を囁いたんですか?」

 

 

「いやしてませんよ!」

 

 

これについてはシュウは本当に覚えがなかった。

性を意識せざるを得ないハプニングは数多くあれど、それでも一線を越えたことなどなかった。それだけは絶対にないと断言出来た。

 

だからこそ、シュウはサーラの言葉の意味が本当にわからない。

 

 

「サーラ。何か誤解があるのではないでしょうか」

 

 

フローラが何かしてくるんじゃないかというほど怒気を放出させている。シュウはこれ以上刺激されてはかなわないと、鎮火作業に入ることにした。

 

 

「私は貴方にそんなことを言った覚えはないはずです」

 

 

シュウの言葉に、サーラはショックを受けたような表情になる。

 

 

「そんなことを言うのか・・・シュウ・・・」

 

 

切なそうに声を震わせ、眉尻を下げてそう言われると、シュウは何故か理不尽に自分が悪いことにされている感覚に陥る。ギャラリー達の責めるような視線が突き刺さり、「なんでこんなことに」とシュウは泣きたい気持ちになった。

 

 

「何か痛い妄想をしていたみたいですけど、残念でしたね!」

 

 

シュウの言葉にサーラの発言が嘘であることを確信したフローラは、精神的に余裕を取り戻したらしく勝ち誇ったような笑みを浮かべながら言った。

 

 

「現実にはシュウ様は貴方に愛など囁いていません。本当にそれを受けたのは私です!昨晩ベッドの中で!」

 

 

胸をバンと叩きながら、言わなくて良いことまで言うフローラ。

 

 

 

「貴方みたいな妄想じゃなくて、私は実際にシュウ様と愛を確かめ合ったのです!シュウ様の素人童貞と私の処女を交換したのです!貴方がどれだけシュウ様に縋ろうと、既に私とシュウ様の間には入り込む隙間なんてないんですよっっっ!!」

 

 

興が乗り過ぎたのか、本当に言わなくて良いことまで言うフローラの口を、シュウは半泣きで慌てて手で塞いだ。

「というか私は素人童貞だったわけでは」と言おうと思ったが、今のフローラにそれを聞かせるとまだ面倒なことになりそうなので泣く泣くシュウは黙った。

 

なんだか周囲の空気が微妙になったそのときだった。

 

 

「あーーーーーーっはっはっはっは!!」

 

 

空気を打ち破るほどの大きな笑い声が轟いた。

笑ったのは、サーラの大声での気絶から復活したアリエスだった。

 

 

「あーーーひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 

 

ツボに入っているのか、腹を抱えて変な笑い方をしている。

 

誰もが唖然としながらそれを見つめていると、やがて眼に涙を浮かべたアリエスが「はひっはひっ」と笑いを堪えながら言った。爆弾発言を。

 

 

「シュウ先輩の素人童貞?そんなの既に私が頂いてますけどぉ?」と。

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