アリエスがとんでも発言した瞬間、シュウはまるで自分を含め世界の全てがピシッと音を立てて凍り付いたような感覚に陥った。
無理もない。
かつての仲間から愛の告白がされたと思ったら、今度は身に覚えがないはずの肉体関係があったとのカミングアウトがされてショックを受けない者はいない。
「は・・・?」
本日何度目かの「は?」であるが、あまりに予想外かつ意味不明な発言ばかりが耳に入るので、シュウにはもうこれしかリアクションのしようがない。もう頭が回らない。誰か助けて。
「はっ・・・!」
フローラは最初こそ面食らったものの、どうせアリエスもサーラと同じく妄言を垂れているのだろう・・・そう決めつけ鼻で笑ったみせた。
・・・が、
「!!」
突如、フローラは頭に電が落ちたかのように衝撃を受ける。
アリエスの勝ち誇ったような笑み、絶対的余裕感から、何となく彼女の言ったことが決して妄言ではないことを直感してしまったのだ。
「フッ・・・」
目を細め、小ばかにするように笑うアリエス。
「貴方のいる場所は既に-- 私がずっと前に通過した場所だッッ!」と言わんばかりである。
「シュウ様・・・」
底冷えするようなフローラの声に、シュウはハッとする。
「詳しく・・・」
「説明してください」
「今、私は冷静さを欠こうとしています」
何故か言葉を区切り、少しずつズームアップしながらフローラは真顔でシュウに迫る。
冷静さを欠こうとしていると言いつつ、実際は既に冷静さは欠いているようにシュウには感じた。
とはいえ、今フローラが言ったセリフはそっくりそのままシュウがアリエスに言いたいことである。
「あ、アリエスッ!いい加減なことを言わないでください!なんかもう頼むから・・・」
「いい加減なこと?私、嘘なんて言ってないですよシュウ先輩~」
目を細め、うっとりした表情でアリエスは言う。
(まさか・・・)
アリエスの自信満々な態度に、流石にシュウも焦り出して記憶を探り出す。
サーラもアリエスも、性を意識せざるを得ないハプニングには何度か遭遇したが、それでも一線を超えるようなことだけは絶対にしなかった。しなかったはずだ!・・・しなかったんじゃないかな・・・?
シュウは段々不安になってきた。
そして、フローラの方からも無言の圧がかけられるようになってくる。
「そ、そうだ!証拠、証拠はあるんですか!?」
理不尽に追い込まれたシュウは、思わず往生際の悪い悪党みたいな言葉を発していた。
ギャラリー達からの怪しむ視線がシュウに突き刺さる。
「証拠ですかぁ?そうですねぇ・・・」
余裕たっぷりな態度を崩さないアリエスを見て、シュウは冷や汗が止まらない。
数秒考えたのち、アリエスは「あっ、そうだ」と何かを思いついたように声を上げる。
「シュウ先輩の陰部には星形の痣があります!ご奉仕の際に何度か確認したから間違いないですっ!」
「ファッ!?」
アリエスの言葉に、シュウはさらに冷や汗がブワッと出た。
彼女の言葉の通り、シュウの陰部には星形の痣があるからだ。当然だが、シュウの裸を見ないことにはそれに気づくはずもない。
「それを・・・知ってるなんて・・・!」
フローラもシュウと肌を重ねたのはまだ一夜だけだが、その特徴については気付いていた。
「玉袋の裏に七つの傷もあったかなぁ・・・」
思い出したように言ったのはサーラ。
「何やったらそんなとこに傷がつくのよ?」とギャラリー達は思った。
「ちょっと待ってくださいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!なんでサーラまで出てくるんですかああぁぁぁ!!??」
さりげなく会話に入ってくるサーラだが、言葉に内容としては彼女もシュウの体について知っているということを示唆している。
つまり・・・
「そりゃ・・・私も・・・シュウと寝たことがあるからさ。言わせんなよ・・・」
恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め、ぷいっとそっぽを向いて言うサーラ。
こっちこそ言わせたくなかったよそんなこと・・・と、もはやシュウは愕然とするしかない。
「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ」」」
唐突な展開にギャラリー達が騒ぐ。
シュウも同じだけの声量で喚きたい気分だった。
「シてるときは・・・シュウはたくさんアタシに甘い言葉を囁いてくれたじゃないか・・・忘れちまったのか?」
涙目で問うてくるサーラに、シュウは口をパクパクさせるが言葉が出てこない。
「・・・そういえば、シュウ様昨夜は随分と甘い言葉をかけてくれたような・・・」
茫然とするフローラは、ぶつぶつと独り言ちている。
自分のときの経験と、サーラの発言に整合性があるのでシュウが彼女とシたことがあるのは確定的。
もうフローラは心の均衡を保つのにいっぱいいっぱいだった。
「シているときにひらすら甘い言葉をかけ続けるのは、シュウ先輩の流儀ですかね。私のときもそうでしたから」
頬に手を添え、うっとりした表情で思い出すように語るアリエス。
そんな女性陣達の姿を見て、シュウもギャラリー達も思った。
「あ、これは間違いなくヤってますわ」と。
確かにシュウはシているときに良くそういう言葉をかける習慣がある。だが、シュウにはサーラ達とそういうことをしたという覚えが全くない。
一体何が・・・とシュウが混乱していると、アリエスが落ち込んでるサーラの肩にポンと手を乗せて慰めるように言った。
「まぁ、けどシュウ先輩が当時のことを覚えてないのは、仕方がないですよ。そういう風にしたじゃないですか」
「は・・・?」
もう何度目かの「は・・・?」である。
もうこれ以上は何があっても驚かないぞと言えるだけのことが散々起きてきたが、更に驚くことは続きそうでシュウは心臓がバクバクいって眩暈がしそうになった。
と、いうかシュウはもう一人で逃げたくすらなっていた。