アリエスは当初の予定通り、シュウを連れ込み宿に連れてくることに成功した。
『野獣の咆哮』を盛り付け、邪魔が入らない連れ込み宿で二人きり・・・何も起こらぬはずはなく・・・と、来るはずなのだが、実際はそう簡単にはことは進まなかった。
「はぁーっ、はぁーっ、こ、股間が・・・股間が痛い・・・!」
股間がはちきれんばかりに怒張し、苦悶の声を上げるシュウ。
休むどころか時間が経つにつれ、シュウの苦しみは深くなる。
「シュウ先輩?大丈夫ですか?」
心配そうにしながらも、シュウの背中、胸元に手を回し、スキンシップを繰り出すアリエス。
しかし、シュウは冷や汗を流しながらも、中々アリエスに手は出してこない。
これまでさんざん誘惑に耐えて来ただけあってタフなメンタルである。
もどかしいが、そんなところもアリエスがシュウに惹かれたところの一つだった。
が、それでも時間の経過とともに『野獣の咆哮』の効果が進んでくると、いよいよシュウも我慢の限界が近くになってくる。
「も・・・もう我慢できない・・・」
シュウが漏らした言葉に、アリエスはつい歓喜の声を出しそうになりながらも、気を落ち着かせて顔を近づけて問う。
「何ですか?シュウ先輩(すっとぼけ)」
無防備を装い、シュウに体を密着させるアリエス。
今すぐにでも押し倒されるかもしれない、と心臓をドキドキさせながら、シュウが口を開くのを待った。
「も、もう・・・」
「もう?」
「もうこの際、もう男でも良い・・・!そうだ、ライル。こんなときライルがいれば・・・!」
「あーん、私が待ってた言葉と違うーっ(;Д;)」
思っていたのと全然違った言葉が出て来たことにアリエスは半泣きになる。
そしてライルがいれば一体どうなってしまっていたのか、それは怖くて聞けなかった。
「シュウ先輩!どうしてここでライルさんなんですか!私じゃダメなんですか!?ホモなんですか!!?」
堪え切れなくなったアリエスは、ついに直球でシュウに聞く。
意中の男であるシュウの性欲を、堪え切れないところまで追いつめておいて、いざ求めだしたのが男なのでは美少女のプライドはズタズタなので仕方ない。キレていい。
「私だって・・・嫌に決まってますよ・・・ですが、聖紋の誓いが・・・」
「聖紋の誓い・・・?」
判断力の欠如したシュウは、自身に課せられた呪いについて包み隠さずアリエスに話した。
一通り聖紋の誓いについて話を聞いたアリエスは、顎に手を当てながら眉を寄せる。
(面倒くさいことになった・・・)
舌打ちしたい気持ちになったのを、どうにか堪えたアリエス。
シュウにどれだけアピールしても靡かなかったのは、こういう理由があったのかと腑には落ちたが、同時に自分の想いを遂げることに大きな障壁が現れたことに愕然とする。
『光の戦士達』でシュウが女性問題を起こせば、たちどころに聖紋の誓いによって彼はスキモノ貴族♂の肉布団にさせられてしまう。
レーナと婚約(?)していることになっているシュウとアリエスが恋人になれば、それはもう間違いなく荒れる。パーティーはクラッシュする。
レウス司教の断罪待ったなしである。
果たしてアリエスに手を出せないからといってライルを代替えにすることでそれを躱せるかは疑問だが。
ともあれ、アリエスはここでシュウと肉体関係になったところで、本当の意味で恋人になるには聖紋の誓いを先にどうにかしなければならないと考えた。
(まぁ、そっちはおいおい・・・)
しかし、アリエスはここで立ち止まる気はない。
後々シュウを自分の物にするため、今この場で既成事実を作ることは、その堀埋めにもなるから無駄にはならないと、アリエスは意を決した。
実はアリエス自身も勇気を振り絞って気分をアゲるためにと、『野獣の咆哮』を少量摂取して性欲が高まっていたのだ。
乗るしかないでしょ、このビッグウェーブ(性の衝動)に。
「シュウ先輩。これは夢です」
「・・・え?」
男女関係に問題があるのなら、アリエスが徹底して口を閉ざし、シュウにはそう認識させなければ良い。
「これは現実じゃないです。夢です。だから、今ここでは何をしてもいいんですよ」
お互い黙ってればわかりませんよ、程度ではシュウは万が一を恐れて動かないだろう。だが、今こうして二人きりでいること、そしてその先のことも全部含めて夢だと、現実ではないと認識すれば、彼を縛るものはなくなるだろうとアリエスは考えて行動に移した。
「・・・ゆめ・・・」
今のシュウは『魔獣の咆哮』と、酒の酔いもあって意識は朦朧としている。故に今シュウは夢を見ているというアリエスの言葉は、驚くほどすんなりと受け入れられた。
何より・・・
「今見ているのは夢であると・・・何をしても良いと、そうおっしゃるのですね?」
それまでアリエスのほうを見ないようにしていたシュウが、ギラリと鋭い視線をアリエスに向ける。
「はうあっ!!」
その瞬間、アリエスの心臓が激しく鼓動した。
アリエスは直感したのだ。
今、シュウは間違いなく自分を女として見ていると。
性欲を解消する相手として見ていると。
ドサッ
そして次の瞬間には、アリエスはベッドに押し倒されていた。
「これまでずっと我慢してきていたのです。これが夢であるのなら、覚めないうちにやりたかったことをシてしまいます。覚悟はいいですか?」
シュウはいつものように穏やかな笑みを浮かべているように見えるが、目が違っていた。
これまでアリエスに向けたことのないような、獲物を狙う捕食者のような目をしている。
両手首はシュウに捕まれ、跳ね除けようとしてもビクともしなさそうだ。
夢ならば。
シュウのずっと堪えていた欲望は、アリエスのこの魔法のような一言によって、一気に開放されようとしていた。
夢ならば何をしたっていい、夢じゃなかったら?いや、アリエスが夢だから何をしてもいいって言った。責任はアリエスにある。
もう思考回路は滅茶苦茶だったが、シュウはこれまで我慢してきたせいもあって、強引にでも自分が楽になる解釈をするようになっていた。
「え、ええっと・・・シュウ先輩、私初めてなので、優しく・・・」
急に野獣モードに突入してガツガツきたシュウに気圧されたアリエスが言うが、シュウは「ダメです」と突っぱねた。
「これまでアリエスにされてきた誘惑は、禁欲を強いられていた私にはとてつもなく苛烈なものでした。最初の一回くらいは優しくしてやりますが、それ以降は知りません。これまで溜め込んできた私の激情を受け止めてもらいます」
「あの怖いんですけど」と言葉を発しようとしたアリエスの口は、シュウの口によって塞がれた。