レーナの放った魔法は、風の魔法と火の魔法の組み合わされた『ダブルドラゴン』と言う彼女が編み出した創作魔法だった。
触れれば立ちどころに流れに巻き込まれ自由を奪われ、コマギレになるまで身を刻まれる『風竜』。
そして鉄をも溶かす灼熱の炎の魔法『火竜』。
この二つの『竜』を組み合わせた『ダブルドラゴン』は、風に乗って炎が双子の竜のように形作られ、まるで意のままにコントロールできる火の精霊のようである。
そのダブルドラゴンはギャラリーを巻き込むことなくシュウの近くにいたアリエスとサーラだけを飲み込むと、やがてくいっと急激に上に向けて軌道を変え、遥か上空に火だるまになった二人の体を打ち上げた。
「爆破!」
そんな言葉とともにパチンとレーナが指を鳴らすと、上空にいたアリエスとサーラの体が「ボンッ」という音とともに爆発する。
「ごらんなさいシュウ。綺麗な花火よ」
唖然とするシュウに対し、僅かばかり口角を上げたレーナが冗談めかして言った。
表情は笑ってはいるが、聞く者が底冷えするほどに圧が込められた声色である。
「あ・・・」
ダブルドラゴンをもろに受けたアリエスとサーラは、黒焦げとなって「ボトリ」と地面に落ちたが、レーナは既に二人に意識はないのかまるで気にする様子はない。
不意打ちをもろにくらい、即死であってもおかしくはないほどのダメージを受けただろう二人は、おそらく死んでいる。
シュウを囲う魔法障壁が消滅したが、これは術者であるアリエスが無事ではないという証拠である。
仲間であるはずの二人を打って平然としているレーナに、シュウは「助けてくれてありがとう」と言えば良いのか「なんてことをするのか」と言えば良いのか迷い、言葉が出てこなかった。
『同士討ち・・・?』
『やばいよ・・・やばいよ・・・』
『何をやろうとしてるんだか知らんが、巻き込まれないうちに離れたほうがいいか?』
勇者パーティーのメンバーが同じメンバーを殺すという異常な状況が繰り広げられ、ギャラリー達はその場を離れようかと距離と取り出す。
というか街中で超強力な魔法をぶっ放すイカれた連中がいるのなら、その場から一もにもなく逃げ出すべきなのだが、そこは見上げるほどに立派な野次馬根性を持つギャラリー達であった。
「レーナ・・・」
シュウがレーナの行動の意図を読めず、どう話しかけたら良いか困っていると、レーナは歩いてゆっくりとシュウの近くにまで歩いてやってきた。
「アリエス達が何か言いだすかと思ったから黙って聞いていたけど、本当にびっくりしたわ。まさかシュウ達がそんなことをしていたなんて、全然知らなかった」
レーナの行動にこそびっくりさせられているのだが、シュウは反論せずに彼女の次の言葉を待った。
「シュウ。私、怒っているのよ」
レーナが言った。
「貴方はアリエス達と浮気するし、私のことはちっとも襲いにやってこないし」
わけのわからんことを。
「・・・え?何ですって?」
わけが分からな過ぎて、シュウは聞き返してしまった。
気が付いたら距離を取っていたはずのギャラリー達も、気になるレーナの発言のためにまた距離を詰めて聞き耳を立てていた。
レーナはずいっとシュウに顔を寄せて詰め寄った。
「まず一つ、シュウが私の知らない間に、アリエス達と浮気していたこと」
レーナの言葉に、シュウは「レーナどころか自分も知らなかったんだけど」と反論しようとしてやめた。
怒らせたらアリエス達のように、一瞬で丸焦げにされるかもしれないからだ。いや既に怒っていると自分で言っているので、返答を間違えれば即座にそうなる可能性が高かった。
「確かに薬を盛られて正常でなかったのはわかるわ。けど、いくら夢だと思ったからって、婚約者がいるのに他の女を抱くなんてあんまりだと思うの」
「それは・・・」
シュウは答えに窮した。
夢と認識していてアリエス達を抱いたということは、そういう願望があるということだ。
レーナに操を立てていれば、夢と認識してもアリエス達を拒否出来たはずだ。
拒否どころか何度も抱き、ついでに変態じみた趣向で遊んでいたので、もう言い訳のしようもなく浮気と言えば浮気である。
だが、それを言うならレーナとてライルと浮気していたのだ。それもシュウに見えるように。
そこがシュウは釈然としない。
「巷の恋愛小説とかなら、一服盛られたところで浮気をしたのは、大体は復縁出来ずにざまぁされて終わるの。稀にも元鞘になる胸糞もあるけど」
「え?何・・・?」
よくわからない例えを出されて困惑するシュウを余所に、レーナはそのまま話を続けた。
「けど、それはもういいわ。私はそこまで聞き分けの悪い女じゃないの。アリエス達を罰したことで、そのことはもうここで終わりにしといてあげる。元鞘でもいいわ」
「はぁ」
よくわからないが、とりあえず頷くシュウ。
「問題は、アリエス達のことは夢だと思えばすぐに抱くのに、私のところへは全然来なかった。これが許せないのよ」
「・・・・・・・・・・・・はぁ?」
「あれだけアプローチしたのに、全然私のところに襲いに来てくれなかったじゃない!」
それまで淡々と語っていたレーナが、ついヒートアップしたのか語気が荒くなる。
一方でシュウは、レーナの発言のわけが分からな過ぎて思考が停止していた。ギャラリー達も同じだった。