「こんなに好きなのに、どうして私を見てくれないのーっ!?」
「えぇ・・・?」
レーナの口から唐突に叫ばれるシュウへの愛。
シュウの顔に浮かぶのは、照れでも嬉しみでもなく、ただただ困惑の色が広がるのみである。
マイペースで感情を崩すことのほぼほぼなかったレーナが、今は駄々をこねる子供のように激情をむき出しにして騒いでいる。
レーナを良く知るシュウとしてはこれだけでも困惑するところではあるが、それよりも正直なところ「何言ってんだこいつ?」と言いたい気持ちがシュウにはあった。
そんなシュウの心情が顔色から読み取れたのだろうか、レーナはぶすっと不貞腐れたようにジト目でシュウを睨みつける。
「どうせ、私の言っていることを信じていないんでしょう?」
「うっ・・・」
これまでずっと見て来たレーナとは全然違うところを見せつけられ、彼女の言うことどころか、今見えているものすらが現実かどうかがシュウには疑わしいくらいだった。
「わ、わかっているわよ・・・これまでずっと、ライルに気のある素振りを見せていたんだもの。だけど・・・それはあえてやっていたことであって、ほ、本当はシュウをその気にさせるためで・・・」
頬を赤らめ、もじもじしながら言うレーナは、マイペースで絶対的余裕のある態度を崩さないイメージのあった従来の彼女とは、どうあっても結びつかないようなかけ離れたものだ。むしろシュウの知るレーナとは正反対・・・まるで初心な少女のようでさえある。
以前は攻略中のダンジョンのトラップにかかり、転がってくる大岩から走って逃げているときでさえ表情を崩さなかったレーナが、今は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら伏し目がちにたどたどしく言葉を紡いている様は、普段ならば「あのレーナが自分のためにこんなに普段と違う姿を見せるなんて!」と、そのギャップに興奮するものがあったかもしれない。
だがレーナのギャップ萌え攻撃は、シュウの心をときめかすことはなかった。
シュウへの気持ちが本当であったとして・・・いや、本当であればこそ、その気持ちのために仲間であるアリエスとサーラをあっさり手にかけてしまうことにドン引きしてしまっていた。
まぁ、レーナの愛の形があまりに歪みに歪んでいるというのも受け入れられない理由の一つではあるが。
シュウとて自分を捕まえるために、一般人を巻き込むことも厭わないアリエス達には怒りを感じていた。実際に男女平等キックをサーラに放ちさえした。だが、殺したいとまでは流石に考えなかったし、出来ないだろう。
追放されたとはいえ、ずっと苦楽を共にしてきた仲間なのだから。
怒りを感じたとしても、それでも情というものがある。
しかし、レーナはやってのけた。それどころかアリエス達を魔法で焼き殺した後、まるでそれが無かったかのように簡単に気を取り直してシュウに愛を伝えている。
ヤバい女だ。どれだけレーナが美人だろうと、どれだけ愛をぶつけてこようと、普通なら気持ちがまるで彼女に傾くことはないだろう。
「・・・はうあっ!?」
と、ここで、シュウはいろいろ考えすぎが祟って、フッと頭がパンクした感覚に陥った。
レーナの告白によって心労がかかりにかかり、ついに精神的疲弊が限界点を超えたのだ。
「やっぱり・・・私じゃダメなの?」
シュウの状態がわからない絶世の美女が、瞳を潤ませ上目遣いで言ってくる。
並の男ならぐらりと心が揺らぐだろう。
「いやー無理っすわ」
シュウは思わず拒絶の言葉を口にしてしまった。本当に反射的にそう答えていた。
昨日から立て続けに(あまりに濃い)美少女達に愛の告白を受け続け、それに伴ってもう滅茶苦茶なことが起き続け、もうすっかり感覚がマヒしていた。
ここに来て更にまたサイコパスなレーナの告白を受けたところで、目の前で起きた事実を事実として受け止め、意に介せるだけの精神的キャパがもうなかったのである。
「本日の業務は終了しました」と、シュウの精神はレーナの告白の受付を拒否したのだ。ていうかもう今日は休みたいと考えていた。
ちなみに今のシュウは、アリエス、サーラのヤバめの二人の告白を受けたことでハードルが下がり、疲弊していない平常時ならレーナの告白も「ちょっとヤバい子だけど自分のことが好きなのか・・・そっか・・・」とぐらつくようにはなっている。女に対する鑑定眼が変な方向に鍛えられていた。
ただ、今はレーナの受け入れるのかどうか以前の問題だった。もう女のことについて考えるのも嫌だと。明日にしてくださいと。
脳が拒絶していた。考えることをやめたのだ。
「そう・・・やっぱり・・・」
そんなシュウの内心を知らぬレーナは、自分が純粋に拒否されていると感じ、唇をかんで俯いた。
仲間を焼き殺してから、平然と男に愛の告白をするヤバい女を受け止めるだけの胆力がある男も、そうそういるかはわからないが。
「やっぱり・・・私が散々遊んできた女だから?」
「あー、そっすね、そっすね」
レーナの問いかけに、シュウは生返事で返すのみ。
脳が疲弊しすぎて、まるでオウムのように考えずに言葉を発している。
タイミングとしては最悪だが、シュウが昨日から濃すぎる経験を繰り返し、精神的負荷がかかりまくっていることを考えればある意味仕方がないと言える・・・かもしれない。
「そうよね。貴方しかいなかった、フローラやアリエス達とは違うものね・・・そう思うわよね」
「そっすね、そっすね」
ついに顔までオウムのようになって声高に繰り返すようになったシュウ。
精神的負荷も限界に達し、いよいよ電池切れになりそうになっていた。
だが、ここで最後の最後にレーナはまたどんでん返しをするのだった。
「けど誤解なの。私、本当は遊んでない。誰とも経験が無いのよ!」
「そっすね、そっす・・・・・・・・・・・・・・ぁ?」
あまりの衝撃的な告白に、電池切れ寸前だったシュウの精神が少しだけ元に戻った。