レーナはシュウをジッと見た。
背はスラリと高めで、細い体。
閉じているのか開いているのかわからない細目。
顔立ちは悪くはないが、それでもいかにも平凡そうな男だというイメージの抜けきらぬ雰囲気。
総じて見た目はモブクラス・・・だとレーナは思った。
(なんだろう。失礼なことを考えられている気がする)
言葉は発しないが、ジッとシュウを見てときおり「フッ」と何やら小ばかにしたように鼻で笑うレーナを見て、シュウはそんなことを思ったが、実際レーナはシュウを見定めて、失礼なことを考えていた。
神官から冒険者など、様々な男に出合ったレーナは男を見る目が肥えてしまっている。
そんなレーナから見てシュウは、「見た目は悪くはないけどモブの域を出ない男」というレベルの男だった。
そのはずだった。
(な、なんなの・・・?この胸のときめき・・・っ!)
レーナはシュウを見た時、どうしようもないほどに狂おしい気持ちを抱いた。
シュウを見ていると胸が熱くなり、そわそわして落ち着かない気持ちになる。初めての感情だったが、様々な書物、人の話を聞いて、それが何であるかは遅れて理解した。
『恋』であると。
シュウと出合って、一瞬にしてレーナはそれまで抱いたことのない『恋』というものをした。
理由はわからなかったが、マイペースなレーナは「まぁそういうことなんだろう」と、実にあっさりとそのことを飲み込んだ。
たまたまシュウはレーナの好みだったのだろうと。美女が平凡な男に入れ込んだり、不釣り合いなカップルなど数多存在する。きっと今回のもそれの一つなんだろうと。(失礼)
だが、レーナがシュウを気に入ったと思ったのは外見だけではなかったことに後から気付く。
シュウはレーナに対して色目を使わなかったのだ。
これがそれまで彼女が会った男達との大きな違いだった。
どんな男でも、パートナーが既にいる男でも、誰もがレーナに対して色目を使った。それがシュウには本当に、一切なかったのだ。
話はするし、盛り上がることはあるが、シュウの目からはレーナに対する情欲のようなものが感じられない。
(ホモなのかしら)
それまであらゆる男の視線を集め続けたレーナはプライドを傷つけられた気持ちになり、もしかしたらとそんなことを考えたが、それでもシュウの行動をこっそり監視していると、彼は人目を忍んで娼館に行っていることがわかった。
結論、ホモではない。
「は?アイツなんなの?」
一応レーナは婚約者なのに、どうしてこちらに興味を持たないのか?とレーナは憤る。
他の女は良くて私はダメなのかよ!と、当然の怒りを抱く。
だが、「あいつあり得ない。ちょー無理」ではなく「どうにかして振り向かせてやるわよ」という思想になってしまっており、レーナはすっかりガッツリとシュウに心を掴まされてしまい執着していた。
シュウがレーナに迫らなかったのは、彼がレウスに釘を何本も刺されていたからなのだが、レーナがそれを知らない。
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レウス「シュウ。一応は婚約者として内定を出すが、レーナに触れるな、色目を使うな、必要以上に仲良くするな。わかったな?」
シュウ「婚約者、とは」
レウス「あの子にはそういうのはまだ早い」
シュウ「既にこれでもかと言うほど浮名を流していますが」
レウス「やかましい!とにかくレーナに必要以上に近づけば、そのときはスキモノ貴族♂にお前を差し出すからな!何なら私が混ざってサンドイッチにしてやる!ゆめゆめ忘れるなよ!」
シュウ「ひぃぃぃぃ!今すぐ忘れたいッ!!」
レウス「うちの娘が美しいのはわかる。溜め込むのはわかる。そういうときは娼館にでも行きなさい。それくらいは大目にみよう」
シュウ「もう婚約ナシでいいんじゃないですかねぇ・・・」
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一応はレーナと婚約はさせたが、シュウはあくまでお目付け役兼、滑り止め。
より高位の男・・・ライルと結ばれる可能性を残すために、シュウには一定を距離を保てとレウスは厳命した。
シュウはその厳命があるために、レーナに対して色目を使わなかったのだ。
サキュバスの血がなすフェロモンによる誘惑。
絶世の美女と言える顔立ち、欲情不可避の抜群のスタイル。
そんなレーナがいずれ自分の妻になるかもしれないと思うと、本来ならシュウだって落ち着いてはいられない。
だが、シュウからすれば、レーナの背後には悪鬼羅刹のような表情で睨みつけてくるレウスの姿・・・そしてまだ見ぬスキモノ貴族♂の影があり、色目を使うどころではなかったのだ。
色目を使ったことがバレれば、即座にレウス司教によってサンドイッチにされてしまう。その恐怖がシュウを縛り付け、レーナに対して必要以上に自制心を働かせていたのだ。
皮肉にも、それがレーナをよりシュウに執着させることになるのであった。