シュウにご執心になったレーナだが、彼女は男というものに対し「自分にひれ伏すもの」「一方的に求愛してくるもの」「後先考えず欲を満たそうとする馬鹿な生き物」という印象を持ち、見下していた。
そんな男であるシュウに対し、レーナから気持ちを伝えるのはどうしてもプライドが邪魔をする。
どうせ何もしなくても、順当にいけばシュウはレーナと結婚することになるのだが、出来れば、いや、何としてもそれまでにシュウに自分を好きになってもらい、彼から告白してほしいと思っていた。
そう、レーナはこのとき非常にメンドクサイ奴になっていたのである。
しかし、恋をしたこともないレーナに男の落とし方なども知るはずもない。これまでは勝手に男の方からレーナに落ちてきたのだから。
だから、『ある人間』に相談し、今回もレーナはわざわざシュウの方から自分に落ちてくるように画策した。
挑発し、怒ったシュウが自分に襲い掛かってくるように。
これまでレーナが接してきた冒険者の男達の多くが、彼女の色香にあてられて強引に関係を結ぼうとしてきた。今回もシュウにそうしてもらおうと思ったのだ。
歪んでいた。
だが、そういった貞操の危機は何度も経験したレーナだが実は・・・
-----
「経験が・・・ない?」
疲弊しきったシュウの脳は、レーナの衝撃的な発言を聞いて再び覚醒した。
レーナの男関係が奔放であるということは、冒険者であったシュウの耳にも多く入っていた。何ならレーナの父であるレウスに、そういうところがあるから、とお目付け役にさせられたくらいだ。
なのに男との経験がないと言う。
唐突な流れにシュウの頭は混乱していた。
「はははっ!そんなことあるわけねぇだろ?」
誰もが言葉を失い、シンと静まり返ったその場に、空気を読んでいるのかいないのか、一人の男が大声で笑いだした。身なりの汚い、浮浪者のような男だ。
「レーナ覚えているか?俺だよ、昔お前とパーティー組んで散々愛し合ったウェージだよ。結局は、お前は同じ他のメンバーのビークスとも付き合ってて、パーティーは瓦解しちまったが。あれからは運も尽きて、冒険者としても食っていけず、その日暮らしの毎日だよ」
突如現れ、恥ずかしいことをカミングアウトしだすウェージという男。
「なんだウェージお前もいたのかよ。久しぶりだなレーナ。お前がウェージと二股してたビークスだよ。俺もウェージと似たようなものさ。けど、お前との甘い夜は今でも忘れられねぇぜ・・・へへっ」
更に現れたウェージの穴兄弟ビークス。
恥ずかしいことカミングアウト合戦だ。
「俺だってそうだ!レーナ、お前に三股かけられたブラッドレイだよ!俺もあれから幼馴染の婚約者に愛想をつかされて・・・」
「ブラッドレイいたのかよ!俺も三股かけられた一人コーリンズだ!俺のパーティーが一人のビッチのせいで崩壊して・・・俺に残されたのは借金だけだぜ!」
「お、俺のこと覚えているかぁレーナぁ!バートンだ!冒険者なり立てだったお前を最初にパーティーに拾って、その日の夜に無理矢理女にしてやった、初めての男である俺のことを忘れたりしないだルォ?」
偶然なのか、ギャラリーの中にかつてのレーナと交わった男達が多数いたらしく、(愚かにも)場の空気の飲まれて穴兄弟カミングアウト大会が始まった。さり気に犯罪行為を自らバラしているのもいる。
誰もがまともな身なりをしておらず、浮浪者に身を落としたか、現在苦労しているだろう男ばかりだった。
「俺達の人生を滅茶苦茶にしておいて、一人だけ純情ぶって男に媚びろうなんざ、許すわけがねぇだろうがよぉ!?」
「当たり前だよなぁ?」
「お前も俺達のところまで落ちて来いよ!なんならまた可愛がってやるぜ!」
「ぎゃははっ」
男達がわざわざ出て来た理由・・・それはシュウの前でレーナとの関係を暴露して憂さを晴らすためだった。
ここで騒いでいる男達は誰もがレーナの色香にやられて身を滅ぼした者ばかりであり、レーナだけが幸せになろうとしているのが我慢できずに彼女も一緒に悲しみのどん底まで引きずり落してやろうと考えていた。
周囲のギャラリーから白い目で見られていようがお構いなしに、大声で次々とレーナとの性交の詳細について語りだす男達。あのときはこれをヤった、あのときはこうだった・・・など、聞いているだけで赤面するような内容ばかりだ。
「お、おぉ・・・そんなことまで・・・」
シュウも例外なく頬を染め、少しばかり興味ありそうに聞き耳を立てたが、それに焦ったレーナが必死にシュウの服の袖を掴み訴えかける。
「違うの!私はあの人達とはそういうことはしていないわ!」
必死に形相で訴えるが、元々の噂のこともありレーナの言葉には信ぴょう性がない。
証人だってこの場に数多いるのだ。
「諦めろってレーナちゃん!実際にあったことは無かったことにはならねーんだよ」
「だから今の俺達の不幸があるんだしなーっ」
レーナが焦っているのを見て溜飲を下げたのか、ギャハハと下品に笑う(穴兄弟の)男達。
そんな男達の言葉をかき消すように、レーナは一層声を張り上げて叫んだ。
「私は本当にシてないの!認識阻害の魔法で騙してただけだったから!!」
「・・・え・・・?」
下品な笑い声がピタりと止み、再び静寂が訪れた。