自分が原因で、周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図になっているというのに、レーナはまるでそれらなど目に入っていないかのように、ただジッとシュウの目を見つめていた。
頬は紅潮し、瞳には熱い情熱が籠っている。
まるでレーナの中では、今はシュウと自分の二人だけしか存在していないかのようであった。
(なんて恐ろしい女だ・・・!)
自分が戯れに陥れた男達の嘆きなど、自分にとっては気に掛けるほどの価値もないと言わんばかりの態度のレーナに、シュウは恐ろしさを感じた。ドン引きである。
「?」
シュウが引きつった顔で自分を見つめている理由が素でわからないのか、レーナが不思議そうに小首を傾げるが、普通なら可愛いと思うようなそんな仕草ですら、今は彼女の異常性を引き立たせている。
(ダメだこの女・・・!早くなんとかしないと!)
アリエスとサーラも行動はぶっ飛んではいたが、レーナは彼女らとは別格のヤバさがあるとシュウは思った。
レーナを好きにさせてはいけない。何をしでかすかまるで読めない。
直ちにノックアウトして、この場から離れなければとシュウは確信した。
(大丈夫だ・・・!イケるはず・・・!)
シュウは考えた。
レーナは魔法使い。一緒にパーティーを組んで戦っていたときも、前衛のライルとサーラが盾になり、後ろから魔法で援護する定番の戦闘スタイルだった。
シュウは『光の戦士達』では最近こそ後衛で戦っていたが、元は前衛であり、今でも並パーティーならば十分に前衛を務めることが出来るほどの格闘術を発揮することが出来る回復術師兼格闘家。
接近戦を挑めば、すぐに倒すことが出来る。
レーナが何を仕掛けてこようと、それより先に距離を詰め、男女平等キックをお見舞いすれば、一瞬にして戦いは終わりだ。
そう答えを出す。簡単なことだ。
だが・・・
(何故だ・・・?)
相手は魔法使い。
二人の距離は離れておらず、完全にシュウの間合い。どう考えても、シュウの思惑通りに決着が着くはずだった。
しかし、これまでの経験による勘というべきだろうか?
何となく、レーナに考えなしに仕掛けてはいけない・・・そんな気がしてならず、シュウは踏み込むことが出来なかった。
「レーナぁぁぁぁ!!」
膠着状態になっているシュウは、突然耳に入った怒声にハッと我に返った。
見ると、レーナに山羊と交わっていたとカミングアウトされ、ショックを受け茫然としていたバートンという男が、顔を真っ赤にして怒りの形相で立っていた。
手には騒然としている冒険者辺りからくすねたのか、先ほどまで持っていなかった長剣が握られている。
「お前のお陰で、もうの俺の世間体は滅茶苦茶だ!」
強姦のカミングアウト時点で自ら世間体を貶めたはずだが、頭に血が上ったバートンは見当違いの怒りをレーナにぶつけた。
「そ、そうだ!お前のせいで・・・俺は・・・俺達はっ!!」
バートンの怒声に反応した他の犠牲者である男達は、ハッと気付いた。
とりあえず今は、諸悪の根源であるレーナに怒りをぶつけるべきだと。嘆くのはそれからだと。
「ただじゃおかねぇ・・・!」
「今度こそ本当に犯してやる!」
「どうせ狂った人生だ。もうどうなろうと知ったことか」
「これだけ人目のあるところで犯されて、俺たちが味わった苦痛を思い知れ!」
「へへっ・・・!順番決めに困っちまうなぁ?」
「ああ・・・たまらねぇ・・・ぜ・・・?あれ・・・?なんだろう・・・レーナを見ても、全然興奮しねぇ・・・」
「お、俺もだ・・・もしかして俺・・・もう男じゃないとダメなのかも・・・?」
一部錯乱している者が混じっているが、ズラリと男達がレーナを取り囲む。その数、数十。
(一部以外)男達はレーナをこの場で痛めつけ、輪姦してやろうと思っていた。
「この距離だ。魔法で迎撃しようとしたって、詠唱中に取り押さえられてオシマイだぜ」
レーナと男達の間には、シュウほどではないがもうそれほど距離は取られていなかった。
誰かがレーナの自衛の魔法で吹き飛ばされても、他の誰かしらが間合いに入る。
知らず知らずレーナにとって、絶体絶命の状況になっていたのだ。
「・・・っ!レーナ・・・!」
シュウは複雑だった。
自分の仲間だった、それも元は婚約者だったレーナが、今まさに暴漢化した男達に襲われそうになっている。
助けるべきか、静観するべきか。
男達が返り討ちに遭うなり輪姦するなり、とにかくどさくさに紛れて逃げてしまえばシュウの目的は達する。
しかし、それはあまりにも後味が悪い。
どうしようか?シュウが逡巡したときだった。
「野郎!ブッ殺してやぁぁる!!」
バートンが怒りゲージを振り切ったのか、ついに叫びながらレーナに斬りかかる。
「このおバカ!切ったら犯せねぇだろ!」
「いや、死体とヤるのも・・・」
一部の変態を除き、囲っていた男達が非難の目をバートンに向けつつも、彼のあまりの迫力に誰も止めようとはしなかった。
動こうとしたのはただ一人、シュウだ。
(あぁ、くそっ!)
体が勝手に動いた。
それだけサイコパスで恐ろしい女でも、それでも一度は仲間だった女だ。自業自得とはいえ、目の前で誰かの手によって傷つけられるのは、どうしてもシュウには見ていられなかったのだ。
しかし、バートンの太刀は思った以上に速かった。
図体がでかいのに並外れた剣速。なんという微妙な設定。
(まずい!)
助けがギリギリ間に合わない。
そうシュウが思ったときだった。
ボンッ
小さな破裂音がしたかと思うと、斬りかかろうと振りかぶったバートンの体がふらりと揺れたかと思うと、バタリトそのまま地面に倒れたのだ。
「「「・・・・・・・?」」」
倒れたバートンは、口から泡を吹いて完全に気を失っている。
シュウを含め、その場にいた誰もが何が起こったのか理解できなかった。