「え・・・っと・・・?」
襲い掛かっていたはずのバートンが突然倒れたことで、殺気立っていた男達も勢いを落とし、沈黙が場を支配する。
「なっ・・・!?」
倒れたバートンの様子を見たシュウが驚愕の声を上げる。
バートンは口から泡を吹き、白目を向いて完全に気を失っていたのだ。
だが、驚愕したのはそこだけではない。じわりと、バートンが倒れた地面に血が広がったのを発見したのもあった。
「一体何が・・・」
うつぶせになったバートンの体を仰向けにすると、シュウは「うっ!?」と思わず声を漏らす。
地面に広がった血はなんだったのか。それは。バートンのズボンの股間のところからの出血だった。
「・・・生理か?」
「アホか。唐突な女の子説やめろ」
一部の男達のしょーもないやり取りを無視し、シュウはいやいやながらズボンを脱がして患部を見ようとした。
シュウは一応は神官である。
神官の仕事の中には怪我人の治療もあるし、『光の戦士達』に属していたときも最初はライルの怪我を治すために際どいところまで服を脱がしたこともあった。だから、医者並に男の裸を見ることには慣れている。
シュウは半ば反射的にバートンに一体何が起こったのかを確認しようとしたのだが、それをレーナの言葉が遮った。
「彼が倒れたのは、私の防御魔法『グラディウス』が発動したからよ」
「えっ?」
ポカンとするシュウに対し、レーナは「フフッ」と微笑を浮かべて続けた。
「他でもないその男に昔襲われてから、突発的な近接戦闘に持ち込まれても対処できるような魔法を、私オリジナルで編み出したの。それが『グラディウス』よ」
そう言ってレーナは、倒れたバートンの頭をげしっと踏みつける。
「目に見えないかもしれないけど、私の周りには魔法で構成した空気の膜が何重かに張られてるの。私の意図なく侵入し、かつ敵意のあるものに対して、自動的に空気を変形させて攻撃するようにしているわ。今のは第一段階の警告的な攻撃ね」
「警告的な攻撃・・・?致命傷に見えますが・・・」
「ええっと、男の場合、第一段階の警告は確か睾丸のみへの攻撃よ」
「えっ?」
「空気の塊が睾丸めがけてぶつかり、そのまま破裂して爆発四散させるわけ」
「・・・」
レーナの話を聞いていたシュウを含めた男達一同が、顔面を蒼白させ「ヒュッ」と息を飲み、そして一斉に股間を押さえた。
「第二段階は頭。それから・・・」
「いえ、第一段階でもう致命傷です」
聞きたくないとシュウは話を遮る。
「フフッ、睾丸が爆発四散したら、もう私を襲う所じゃないでしょ?自衛のために覚えてみたんだけど、そのあとで『認識阻害』を覚えたの。そしたら『グラディウス』の方の出番が無くなっちゃったわ。そうこうしているうちに、私もすっかり『グラディウス』のことは忘れてた。寝ている時も含めて、常時展開されている魔法なのにね。なんだか間が抜けてると思わない?」
レーナにとって笑いどころなのか、一人クスクス笑うが、当然シュウはおろか誰一人笑わない。
空気を変形させ、常時自分の周囲を展開する索敵網の役目を担わせ、同時に反撃にも使用する・・・なんて恐ろしい魔法を編み出し、そして非人道的な設定をするんだとドン引きしていた。
「でも、この『グラディウス』のことを忘れていられたのも、シュウのお陰なのよ?冒険していた時だって、貴方がいつだって私のところへ接近する魔物は撃退してくれたんだから。この『グラディウス』の出番がなかったのよね」
ほんと、かっこよかったわ・・・などと、かつてのシュウの活躍を思い出したのか、レーナは一人で悦に浸りだす。
気のせいでなければ、レーナにたかる魔物を撃退したのはライルも入るはずなのだが、そのことはどうやら記憶から排除されているらしい。少しだけシュウはライルは不憫になった。
「「・・・」」
レーナに復讐してやると息巻いていた男達は、いつしか潮が引けるようにいなくなっていた。
誰だって自分のキン〇マが爆発四散するとわかったら大人しくなるだろう。シュウもその一人だった。
(ダメだ、絶対にダメだ!)
多少のダメージは我慢して押し通せるが、キ〇タマだけはダメだ。
しかも話を聞けば、どれだけ速く攻撃を仕掛けようと自動的に反撃が開始されると言うではないか。
シュウの作戦は早くもとん挫。とはいえ、先にバートンが仕掛けたお陰で結果的に自分のキン〇マが無事だったことだけは幸運だったとシュウは胸を撫でおろした。
(と、なると・・・)
シュウはあまり気が進まないが、最終手段に出ることにした。
「レーナ・・・すみませんでした」
「シュウ・・・?」
シュウが突然渋面し、辛そうに彼女の名を呼び謝罪しだしたことに、レーナは少し驚いた。
「貴方がそんなにも私のことを想っていてくれたというのに、私はそれに気付くことが出来ませんでした」
「シュウ・・・」
シュウはゆっくりと・・・キンタ〇が爆発四散しない程度の距離まで歩み寄り、そして言った。
「謝って許してもらえるとは思っていません。ですが、もしそれでも許されるなら、私は貴方を受け入れたいと思います。レーナ」