シュウの言葉に、レーナはハッと目を見開いて、一瞬にして顔をボッと真っ赤に染めた。
「シュウ・・・今言ったこと、本当・・・?」
「えぇ、もちろん私は本気です」
取り繕ったような笑みを浮かべ、白々しく愛を語るシュウを見て、ギャラリー達は皆、彼がレーナを宥めるための演技をしていることに気が付いた。
シュウは女好きではあるが、素人女を悪戯に口説くことには慣れていない。だから仕方がないのだが、誰が見ても演技であるとわかるほどの大根役者っぷりである。
「シュウ・・・私、嬉しいわ」
だが、盲目になっているレーナは、ビックリするほどすんなりとシュウの言葉を受け入れ、ギャラリー達は「えぇ・・・」と困惑気味に声を漏らした。
「・・・私の方こそ、貴方のことが好きなのに・・・どうして良いかわからず遠回しなことばかりしてごめんなさい。でも、私は本当に貴方のことが好きなの。どうしようもないくらい」
赤面し、瞳を潤ませながら愛の告白をするレーナは、見ている分には不器用な恋をしている可愛らしい女にしか見えない。サキュバスの血がなせる、天然の男たらしな仕草であった。
シュウとて、たくさんの男を恐ろしいベクトルで手玉に取ってきたという過去などを何も知らなければ、きっと心を動かされたことだろう。
だが、シュウの心は動かされない。
勿論、言葉に発している通り、レーナに自分を受け入れて貰うつもりもない。
シュウは一刻も早く狂った女達から自由になるために、まずレーナの隙を突いて攻撃し、無力化させるつもりだった。
だがレーナを守る『グラディウス』という魔法がある以上、正面から挑んでもあまりにも手痛い反撃を食らうのみである。
そこでシュウは、レーナの気持ちを利用することにした。
愛情を気持ちを利用するなど、本来ならば気が乗らない方法ではあるが、レーナとて相応・・・いや、ある意味それ以上に悍ましいことを繰り返してきたのだから仕方がない。
「あぁ、レーナ。私は今すぐ貴方を抱きしめたい。だが・・・あぁっ、貴方の魔法が発動していては、近づくことすら出来ないではないか」
シュウのあまりに白々しい演技に、ギャラリー達は見ているのも辛そうである。『グラディウス』を解除させるために強引に誘導していくシュウに対し、内心「露骨すぎる!もっとうまく誘導しろ!」とギャラリー達は思いつつも黙って行方を見守った。
「え?私を傷つけようとしなければ『グラディウス』は発動しないわ」
最もな疑問に、シュウはグッと怯みながらも答える。
「その・・・私の気持ちが抑えきれず、つい強く抱きしめすぎてしまうかもしれません。それを傷つけるという判定にされてしまう・・・かも?」
(もっとマシな言い訳しろよ!)
と、ギャラリー達は思った。
「た、確かに・・・それに最終的には、私はシュウに『傷物』にされるわけだし、それも悪い判定になるかもしれないわね・・・」
(なんつーやり取りだよ!)
と、ギャラリー達は再度ツッコミを入れそうになった。
二人とも(シュウは演技とはいえ)もはや公衆の面前で恥ずかしいと言うレベルでは収まらないようなやり取りだが、アリエス、サーラのこともあってシュウ達当人やギャラリー達も感覚がマヒし、すっかり誰も気にしないようになっている。
「そうね、シュウ。貴方に対してだけは『グラディウス』の発動対象外にするべきね」
ともあれ、レーナはシュウの目論見通り、彼に対してのみ『グラディウス』の発動対象から外した。
そんなことが出来る辺りも、とことん恐ろしい魔法だとシュウは再認識する。この女はヤバい。他に手札を出してくる前に、すぐに無力化せねばとシュウは思った。
「さぁ、シュウ。私を抱きしめて」
レーナが両手を広げ、シュウにそうねだる。
シュウは「本当に大丈夫だよな?」と睾丸の心配をしつつも、そろりそろりとレーナに近づく。
「シュウ。抱きしめるフリをして、私を絞め落とすなんてことはしないでよ?」
「ぎくっ!?・・・ま、ままままままさか、そのようなことしませんよよよ???」
「そうよね。ごめんね。バカなことを言ったわ」
唐突にシュウの思惑を読んだようなレーナの発言に、シュウはテンパりすぎて誤魔化しにならない誤魔化しをするも、やはり盲目になっているレーナは再度すんなりシュウの言葉を飲み込んだ。
シュウの大根役者っぷりもヤバいが、レーナの盲目っぷりも大概だなとギャラリー達はげんなりする。
ともあれ、シュウはようやくレーナを間合いに収めることが出来た。
そしてレーナを抱きしめる。
「あぁ、シュウ・・・!これが貴方の腕の中の感触なのね」
抱擁されたレーナは、恍惚の表情を浮かべて歓喜の声を上げる。
「レーナ・・・これが貴方のおっぱ・・・いや、私も貴方と同じ感動を抱いていますよ」
豊満なレーナの胸を感触に、一瞬いやらしい笑みを浮かべて悦に浸るシュウ。
だが、次の瞬間にはシュウの目つきが真剣なそれに変わった。
「貴方を傷つけることはないと言いましたね?あれは嘘です」
シュウはそう言った直後、レーナの首に腕を回し、素早く締め落とした。
仕方がないといえば仕方がないが、あまりに外道なやり方過ぎてギャラリー達は引き気味である。
とはいえ、過程はともかくシュウはどうにかレーナを無力化することが出来た。後は逃げるだけである。
しかし、それから数秒後・・・事態は思わぬ方向に動くことになる。