シュウは、首尾よくレーナを絞め落とせたことに安堵する。
賭けではあったが、脅威であった自衛魔法『グラディウス』が発動することもなく、どうにかレーナを騙したまま意識を刈り取ることが出来た。
(さて、これで後は逃げるだけ・・・だが)
シュウは自分の腕の中にあるレーナの抱き心地に、ほんの少しだけ名残惜しさを感じた。絶世の美人を腕の中にしておきながら、大して堪能する間もなく手放さなければならないとは、と。
手放す前に、今一度シュウは自分の腕の中にあるレーナの感触を堪能しようとする。
固い胸・・・ごつい腕・・・シュウの太もものように太い首・・・白目を向いて泡吹いてる間抜けな顔・・・本当、性格はともかく外見は完全に一級品の・・・
「・・・あれ?」
シュウは違和感を感じ、自分の腕の中にある者をまじまじと見た。
「な なにーーっ!!」
意外!それは屈強な男ッ!
というか、先ほどキンタ〇が爆発四散して気を失っていたバートンだった。
シュウはレーナではなく、気絶していたバートンを死体蹴りと言わんばかりにダメ押しで絞め落としてしまっていたのだ。
「こ これは・・・!?」
再起不能なほどにズタボロになったバートンを無情にもポイッと投げ捨て、シュウは周囲を見回す。
「し 絞め落としたレーナは!?」
シュウがどれだけ見回そうとも、自分が絞め落としたレーナの姿がない。
そこでシュウはハッとなる。
「まさか・・・認識阻害・・・!」
シュウが思いついたそれは、考えうる限りで最悪の可能性だった。
そして、その答え合わせはすぐにやってくる。
「正解よ」
その声は、シュウの頭上・・・10メートルほどの上空から聞こえてきた。
「なっ・・・」
シュウが声のしたほうへ振り向くと、そこには愛用の魔法の杖に腰をかけて、フヨフヨと空中に浮いているレーナの姿があった。
レーナは目を細め、微笑を浮かべてシュウを見下ろしている。
「・・・っ」
シュウの背筋を冷たいものが流れる。
レーナはシュウに対して認識阻害の魔法を使い、バートンを自分と錯覚させたのだ。
シュウはレーナを騙して不意打ちを仕掛けたわけだが、その手の内を晒してしまったことになる。
一度バレた手は、二度と使えない。
というか、もう信用してもらうこともできないだろう。
怒ったレーナはどうするだろうか?
魔法で徹底的に消し炭にされるのか、それとも〇ンタマが無くなることになってしまうのか、シュウはこれから始まるだろうお仕置きタイムのことを思うと、冷や汗が止まらなかった。
「一応は・・・と思って、シュウを試してみたの。けど、まさか絞め落とそうとしていたなんてひどいわ・・・私を騙したのね」
ふぅ、とため息をつきながら言うレーナは微笑を浮かべているが、その感情はシュウには読み取れず、そこがまた怖かった。次の瞬間には、何をされるかわからないからだ。
レーナはゆっくりと地面に降りてきて、シュウの方を向く。
それにビクッと体を震わせてシュウは反応し、ギャラリー達もつられて同じように反応する。
いきなり爆発魔法でも打って来るのではないかと、誰もがヒヤヒヤしていた。
・・・が、懸念していたようなことにはならなかった。
「流石はシュウね。見込んだ通りだわ」
「えっ」
シュウの心配をよそに、レーナは微笑を浮かべたまま言った。
「今まで男は、私に対して性的に害しようとするか、媚び諂うかのどちらかだったの。純粋に暴力を向けられることなんて無かったわ」
「・・・はぁ・・・?」
「やはり貴方は特別よ・・・他にもいろいろな『初めて』を私に頂戴・・・シュウ」
頬を赤く染め、恍惚な表情で語るレーナに、シュウを始めギャラリー達もドン引きした。
もうシュウがやることなら、なんでも良いのである。恐るべきプラス思考で、全てが好感度上昇の要素として変換されるのだ。
恋は盲目。
まさにレーナはそれが顕著であったが、見下していた男という存在の中から、唯一見つけた例外がシュウなのだから、これもあるいは仕方がないのかもしれない。
しかし、この度が過ぎた盲目はシュウにとっては起死回生のチャンスである。強かなシュウは、この『恋は盲目』を最大限利用して、どうにかこの場をやり過ごそうと考えた。
「恐れ入りましたレーナ。降参です」
シュウは小さく両手を上げながら言った。
「今度こそ貴方を受け入れます。まさかこうまで手玉に取られるとは思わなかった。貴方が私が想像した以上に強かな女性だ。好みのタイプです」
一度裏切りがバレておきながら、それでも相手の好意を利用してシュウは許しを乞おうとする。浮気常習犯の屑人間ばりのタフなメンタルである。
「本当・・・?貴方にそう言ってもらえて嬉しいわ」
そしてそれに流されるレーナもまた、何度も浮気されるタイプの女みたいだとギャラリー達は思った。
「言葉ばかりでは信用できないでしょう。いろいろ段階を飛ばしてしまい恐縮ですが、どこか落ち着けるところで二人きりになりませんか?」
シュウはそう言い、くいっと親指を立ててある方向を指し示す。
それはたまたま近場にあった、連れ込み宿である。
「まさかこれからヤろうってのか!?」とギャラリー達は騒然とした。タフなメンタルなんてものではない。「お前らが落ち着ける場所なんて今は帝都にはないだろうが」とツッコミが殺到した。
が、そんなツッコミはどこ吹く風。
シュウはレーナの肩を抱き寄せると、本当に連れ込み宿に向かって歩き出す。
そういうしながらも、シュウはどうにかレーナを出し抜くことが出来ないか、いろいろ必死で考えていた。
「ウッソだろ!?」
連れ込み宿の店前で、シュウ達を見物していた宿屋の主はギョッとする。
シュウ達など受け入れては、どんな惨事が起こるかわからない。何かしらのトラブルで、宿が破壊される可能性が高いのだ。
「く、来るんじゃねぇ疫病神!」
主は大慌てで「CLOSE」の札をバーンと入口にかけ、シュウ達を拒む姿勢を見せた。
それにつられて、自分達の所にも来てほしくないと、他の連れ込み宿の主達もバタバタと軒並み拒絶の姿勢を見せる。
『臨時休業』
『本日満室』
『準備中』
『心をこめて支度中』
『せっせと種仕込み中』
『お先にどうぞ』
中には慌てて休業と関係ない札をかけてしまったところもあるが、とにかく周囲で営業している連れ込み宿は数分もしないうちに皆無になった。