シュウはレーナを抱こうと言ったが、本気の本気ではなかった。
どうにかして隙を見つけて出し抜けないかと考えての末、一先ず油断させるための時間稼ぎの一つとして誘ったに過ぎない。
まぁ、その結果思うように隙を見つけられず、本当に事に及んでしまえばそれはそれで・・・などとは考えてはいたが。
だが、視界に入る連れ込み宿が悉く臨時閉店しているのを見て、シュウは「くっ!なんと間の悪い」と自分が疫病神扱いされていることに気付かず悔やみながら、必死に次の手を考えなければならないはめになった。
「こ、困りましたね・・・場所がないと言うのは・・・」
似たようなことは、シュウも何度か経験したことがある。
街角で立つ娼婦に声をかけ、交渉も終えたと言うのに、さぁ後はヤることヤるだけだと意気揚々と連れ込み宿を探すも、タイミング悪くどこも満室で場所が取れない・・・なんてこともある。
少し待つ程度で終われば良いが、時には「残念だけど今夜はエッチはお預け」な流れになることもあり、やり場のない性欲と悔しさで眠れない夜を過ごすことになってしまうのだ。
今、シュウは呑気にほんの少しだけ同じような悔しさと、次の手を考えなければという焦りを感じていた。
「・・・場所を変えましょう」
悩んでいるシュウに、レーナは提案をした。
「どのみちこの場所は、少し目立ち過ぎて気になるわ。・・・その、記念となる初めてのことだもの。もっと人目が無くて落ち着ける場所がいいわ」
超絶今更も今更だが、もっともなことを身をよじらせながら恥ずかしそうに言うレーナ。
「それで考えたの。実は私、こんなこともあろうかとちょっと帝都から離れた場所に一軒家を用意してあるの。誰も知らない、けど、とっても素敵なお家なのよ」
「こんなこともあろうかとって、一体何を想定してそんなの用意していたんですかね・・・」
「心配しないで。内緒で購入したから、パーティーの誰も知らない場所よ。誰の邪魔も入らないわ」
シュウの話を聞いているのかいないのか、既にレーナは自分の用意したその一軒家で送ることになる蜜月を想像してか、恍惚の表情を浮かべて自分の世界に浸っている。
「そんなわけで、これからパーッと魔法でひとッ飛びでそこまで行くわよ。普通なら馬車でも一日ちょっとはかかるかもしれない場所だけど、数分で着くから心配しないでね」
「えっ、そんな便利な魔法があるんですか?」
時間をかけず遠い場所まで移動する・・・瞬間移動の魔法はこの世には存在しなかった。
「ええ、こんなこともあろうかと編み出したの。これまで言う機会がなかったから言わなかったけど」
「えぇ・・・(ドン引き)」
アリエスもそうだが、勇者パーティーの躍進に関わる革新的な魔法を使えることを、どうして皆秘匿するのか。
シュウはライルのことが少しだけ哀れに思った。
「それじゃあ移動するわよ・・・と、その前に」
これから出発、といった流れになるかと思われたその直前、レーナは思い出したように言う。
「また変な抵抗されたら嫌だから、シュウの手足を魔法で焼き払って使えなくしておくわね」
「・・・ん?流れ変わりましたね」
ハイライトの無い瞳をしたレーナから唐突にとんでもないことを告げられ、シュウは表情が固まった。
「ごめんね。回復薬あるから、事が済んだらそれで治してあげる。・・・もし処置が遅れて二度と手足が使えなくなったとしても安心して。その時は私が一生シュウの手足となって介護するから」
恐ろしいことをニッコリと笑いながら言うレーナに、シュウは思わずヒェッと息を飲む。
「い、嫌だなぁ・・・私の手足が使えなかったら、その、ね、スルときにも困るじゃないですか・・・や、やめましょうそういうの?」
「大丈夫よ。ちんぐり返しで私が動いてあげる」
「ファッ!?初めてをそれで終えていいんですかね!??そこはせめて騎乗位とかにならないんですか!!??」
「もう。いいからさっさと済ませるわよ。待ちきれないわ」
シュウの話は聞いてもらえず、レーナはソッとシュウの右手に手を添えた。
まるで恋人同士のように、いたわるような優しい手つきだが
「じゃあ、焼き払うわね。暫くは激痛で動かすことすら出来ないけど、私を最初に裏切るからこんなことになるんだからね」
言うことは恋人に対するそれとは遠くかけ離れていた。
「冗談ですよね?」
「まだわからないの?冗談じゃないわ。本気よ。私は本気でシュウのことが好きなの」
「あかん、会話が成り立ってない」とシュウもギャラリーも騒然とする。
手が焼き払われたら本当に抵抗する手段を失ってしまうし、回復させるとは言ったが、一方的に征服できるからと回復させない方向に心変わりする可能性もあるなとシュウは思った。
というかアリエス達もレーナも、思考の方向が似通ってない!?なんでダルマにしたがるの?と唖然とした。斜め上過ぎる彼女らの思考に「あれ本当に勇者パーティー?」と、ギャラリー達も目を丸くするばかりだ。
とりあえずレーナの『グラディウス』や『認識阻害』発動のリスクは承知の上で死ぬ気で抵抗するか?そうシュウが考えたときだった。
「ッ!!」
シュウは唐突に自分の方へめがけてやってくる気配を感じ、思わず後ろに飛びのく。それと同時にレーナも後ろに飛びのいた。
ダンッ
それまでシュウ達がいた場所・・・いや、正確にはレーナがいた場所に、ザクッと剣が突き刺さる。
一瞬遅れていれば、レーナは今頃剣に貫かれて死んでいただろう。
「なっ・・・」
シュウは突然目の前に現れた人物を見て、驚きで目を見張る。
剣を持っていたのは、レーナの魔法で爆発四散して死んだと思われていたサーラだった。