けたたましく空気が連続が破裂する音を背後にしながら、シュウは一切振り向くことなく駆けていた。
オーバーキル達が放つ攻撃魔法は、威力が大きな代わりにその爆音故に物凄く目立つ魔法だ。人のいる帝都で使用すれば即座に目立ち、すぐに憲兵がやってくる。
それでもオーバーキルはあえてその魔法を使用する。
目立つことによって、トンプソンの力をより知らしめるためだ。
都民はオーバーキル達を見て思う。
「何か知らんがあの白い連中また何かやってるぞ」
「こえー。近づかないでおこう」
「白昼堂々と暴力行使しまくりで笑える。でも憲兵全然こねーのな」
「そりゃ憲兵も近づきたくねーわ。死にたくねーだろ」
「なんか知らんが馬鹿に見えるな」
白昼堂々と武力を行使しても憲兵ですら見て見ぬふりをする圧倒的な存在・・・それがオーバーキル・・・ひいてはトンプソンに対する印象だった。一般人としてもトンプソンの詳細は知らずとも、何となく帝都では帝国軍、教会と並んで、三大勢力として君臨している。
そんなシュウからしても雲の上のような存在のトンプソン。
そのトンプソンの実行部隊であるオーバーキル達が、どうして自分を救ってくれたのか?
サーラ達が破壊した施設の一つに、トンプソンの所有するものがあり、恨みを買って報復されているのか。
それとも単純に帝都で暴れていることがトンプソンの領域を踏み荒らす行為とされ、制裁されているのか。
あるいはオーバーキルの指揮を執っている者がホモで、シュウに気があるのか。
可能性を考えればキリがないので、シュウはとりあえず考えることをやめる。特に最後の可能性については深く考えたくなかった。
一つわかっているのは「今は逃げる最大のチャンス」、これだけだ。
シュウの手元には、オーバーキルの男がくれた傷回復のポーションと、魔力回復のポーションがある。降ってやってきたチャンスを生かすため、シュウはこのポーションを躊躇わず使うことに決める。
並みのポーションは飲んでから数分後に効果が完全に表れるが、オーバーキルに貰った物は超高級品であり、飲んでから即座に効果が表れる。今この状況ではまさに喉から手が出るほどに欲しいものだった。
シュウは迷わず魔力回復のポーションの小瓶を選び、中身を飲み干す。
シュウの魔力はサーラのバンカーバスターの周辺への影響を相殺させる魔法障壁を使った際にすっからからんになっているからだ。
後は傷回復のポーションは、とりあえずサーラに殴られて気絶したままのホワイトキングに使うことに決めた。
まずは馬を復活させ、機動力を確保する。
そして馬で駆けながら、フローラを回復魔法で気絶から起こせば良い・・・
シュウは数秒でそこまで考えながら、地面に横たわったままのフローラ達の元へ向かう・・・が
ザッッッッ
それまで存在すらすっかり忘れていた教会騎士の連中が、シュウの行く手を阻んだ。
「そういえばいましたね」
シュウは苦虫を嚙み潰したような顔をして、ため息をついた。
「シュウを確保しろ!だが、女達が目を覚ましたら怖いから、そのときは即座に撤退だ!」
騎士隊の指揮官が情けない指示を飛ばす。
騎士達はシュウを取り合うイカれた女達が恐ろしいので、これまで静観していたのだ。巻き込まれたくなかったのだから仕方がない。騎士だって命は惜しい。プライドよりも大切なものがある。
だが、この場において今動けるのはシュウ一人。
騎士達からすれば、今こそがシュウを捕らえる千載一遇のチャンスだった。
騎士達の数は数十人。これを突破するというのは、シュウの力でもすぐというわけにはいかない。
魔力を使った数少ない必殺技を使えばいくらか速くはけるだろうが、元の魔力量が心もとないシュウは、ここで包囲網突破のために魔力を使って再び逃走中にすっからかんになることを恐れて判断に迷ってしまう。
バババババババババ
が、シュウはすぐに悩む必要がなくなった。
オーバーキル達が、今度は教会騎士達を魔法で薙ぎ払ってくれたからである。
「き、貴様らっ!わ、我々にまで手を上げるなど、どういうことかわかっているのか!?」
騎士隊の指揮官は、突然の事態に泡を食いながらもオーバーキルに向けて怒鳴った。
教会もトンプソンも帝都の三大勢力であるが、強大な勢力のぶつかり合いは大きな犠牲と混乱を生むということから、互いに干渉はしないという裏での取り決めがあった。武力衝突など以ての外である。
だが、今オーバーキルは教会の騎士を武力制圧するという、取り決めに反することを行っている。指揮官が混乱するのも無理はなかった。
「貴様らこれがどういう結果を生むかわかって・・・ぐふっ!?」
叫んでいた指揮官にも、ついに空気魔法が炸裂した。
騎士達は全員が魔法を受け、誰もが意識を失い全滅。表社会の顔役である教会と、裏社会の顔役であるトンプソンとの戦争の始まりといえる大事件である。
「どういう結果・・・ねえ、んなことわかってるさね」
オーバーキルの後方で、白いスーツ姿の一人の少女が咥え煙草をしながら呟いた。
恰好こそは男のようであるが、スラリとしたスタイルの美少女だ。
「けど、どうしようもないじゃないか。『愛』のためなら、そんなもの気にかけるどころじゃないんだよ」
少女は、頭に「?」をいくつも並べながらもペコペコと自分達の方を向いて頭を下げてから走り出すシュウを見つめながら、頬を紅潮させうっとりとした表情になった。
「お嬢、騎士のほうは制圧完了です」
オーバーキルの男の一人が、恭しく礼をしながら少女に向けてそう言った。
「そう。勇者パーティーの女達の方を引き続き足止めしといて。何があっても『ダーリン』の邪魔をさせないように」
「へいっ」
少女の言葉に男が頭を下げると、彼女の言いつけの通りに再びオーバーキル達はレーナ達に向けて魔法を放ちだす。
「ぎゃああああっ!!」
百戦錬磨のレーナ達とて、裏社会の暴力団の実行部隊の一斉攻撃には無事ではいられない。
死にこそしないものの、シュウ達を追う余裕もないほどに立ち直る時間も与えられず痛めつけられ、がっつり足止めされてしまっていた。
ボコボコにされるレーナ達を見つめながら、ふぅと煙草の煙を吐き出す少女。
彼女はトンプソンのボスの娘である、セレスティア・アドネイド。
そう、シュウが前日に酒場で助けた美少女であった。
シュウに一目惚れしたセレスティアは、なりふり構わずシュウのサポートをすると決め、オーバーキルを投入したのだ。
シュウは、またヤバい女に目を付けられてしまっていた。