※この作品はR-18です。

追放の破戒僧は女難から逃げられない   作:ミステリードール

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ジードという男

たまに粗暴な地が出るセレスティアは、しつこいナンパ(?)・・・それも遥か格上の侯爵家の令息を撃退したことでまた話題に上がり、影響力は更に強まっていった。

 

・・・が、この一件で話題に上がったのは、セレスティアだけではなかった。

 

 

「惚れた・・・」

 

 

去り行くセレスティアを、鼻が曲がったまま茫然と見つめていたジードは間を置いてからそう漏らした。

 

 

「はっ?」

 

 

ジードが玉砕する様を見ていた友人達は、怪訝な顔をする。

こっぴどく振られるどころか、自慢のルックスを傷つけられて、その相手に「惚れた」と言うなんて、率直に言って変態ではないかと。

 

 

「ジード君!鼻、すぐに治療してあげるね!」

 

 

回復魔法に心得があり、ジードに心惹かれている女友達が、青い顔をしながらすぐに走り寄って来る。

 

鼻が曲がろうが骨が折れようが、負傷してからすぐに回復魔法をかければ、後遺症も残らず元通りに回復することが出来るが、逆にするに治療をしなかった場合は、元の形に戻らなくなる。

 

女友達はジードの整った顔が戻らなくなるのを恐れ、慌ててやってきたのだ。

 

 

「いや・・・このままでいい」

 

 

「「「は?」」」

 

 

だが、ジードは治療を拒否した。

治療をしようとした女友達含め、友人達は唖然とする。

 

 

「何言ってるの?だって、すぐに治療しないとその鼻・・・治らなくなっちゃうよ!」

 

 

女友達はそう言って、ジードの折れ曲がった鼻に痛々しいものを見るような目を向ける。

 

 

「だからこそさ」

 

 

「「「は?」」」

 

 

「この鼻は、僕とセレスティア・アドネイドが出合った証・・・そして彼女に詰られたことに対する戒め。この恋が成就するその時まで、このままにしておきたい。願掛けのようなものだ」

 

 

「なにその嫌な願掛け。いや、すぐに治さないと鼻が元通りに戻らないんだって」

 

 

友人の一人がドン引きしながら言うが、ジードは首を横に振るばかり。

 

 

「それならそれでいいじゃないか」

 

 

「「「・・・・・・」」」

 

 

ジードに気が合った女友達も、友人達も、未知なるものに遭遇したかのように怪訝な顔をしつつ、ススッと後退する。

誰もがジードの変貌に、千年の恋が冷めるほどドン引きしていた。

 

 

「これまで感じたこともない気持ちなんだ。湧き上がるような、燃え盛るような愛おしい感情・・・これが恋!セレスティア・アドネイドに比べたら他の女なんてカスや!僕はなんとしても彼女の心を射止めてみせる!!」

 

 

ジードはこれまで誰かに拒絶されたことがなかった。女に苦労したことなど全く無く、友達になりたいと言えば友達に、それ以上の関係になりたいと言えばなれるのが当たり前だった。

それをこれ以上ないほど明確に、それも強烈に拒絶され、ジードはショックを大きく受けたのだ。

そのショックが彼を「拗らせた恋をする男」にキャラ変させてしまったのである。

頭ならぬ心の打ちどころが悪かったと言おうか。

 

 

-----

 

 

「アドネイド子爵家の令嬢だと!?お前は馬鹿か!!命がいくつあっても足りんぞ!!・・・ていうか、何よその曲がった鼻」

 

 

ジードは侯爵である父に正規の手順で交際出来るよう手配してもらおうとするも、アドネイドの名を恐れる侯爵はこれを拒否。

アドネイド・・・トンプソンは帝都の中の強者であるが、裏社会で完全に敵がいないわけではない。血で血を洗う揉め事も茶飯なのである。

アドネイド子爵家と家絡みで繋がるということは、そういった修羅の世界に足を一歩・・・いや、百歩ほど踏み入れるようなものなのだ。

 

仕方がなく、ジードは自らの力でセレスティアを手に入れることにした。

だが普通に正面からぶつかってもまた拒絶されるだけ。なので、セレスティアが言ったように、まずは自分の体を鍛えなければならない。ジードはまず筋トレから始めたのだった。

 

 

「セレスティアは屈強な男が好き・・・!ならば、筋肉!筋肉を付けねば!!今の細腕の三倍太くすれば話が出来ると言った。ならば、四倍・・・いや、五倍なら結婚まで出来るはずだ!!」

 

 

ジードは馬鹿になった。

 

貴族の社交界から、友人との付き合いまで余暇という余暇を悉く筋トレに充て、食事も変え、良くない薬にも手を付け、体感時間にして一日30時間はトレーニングに充てる日々。

 

 

「お坊ちゃま。筋肉には超回復というのがありまして、適度にトレーニングを休みながらのほうがつきやすくなるのでございます」

 

 

「そんなことをしたら心に贅肉がついてしまうではないか!!」

 

 

「えぇ・・・(困惑)」

 

 

執事がアドバイスをするも、これを拒否。

いつの間にかトレーニングに入れ込み過ぎて、ジードは筋トレ・・・いや、修行・・・でもない、苦行の修羅になっていた。

 

 

「セレスティア・・・セレスティアセレスティアセレスティアセレスティアセレスティアセレスティア・・・」

 

 

学園も休みがちになったかと思えば、日々ぶつぶつとセレスティアの名を呟きながら筋トレをするその姿に、スリーロック侯爵は「だめーだこりゃ」と匙を投げ、早々に廃嫡することを決定。

侯爵から跡取りではないので好きにしろと言われてからは、ジードは更にトレーニングに傾倒していくことになった。

 

 

「ジード君、正気になって!」

 

 

「もういい加減やめようよ!」

 

 

「元のジード君に戻ってよ!って、なにその鼻・・・」

 

 

すっかりと人が変わり、学校にも姿を現さなくなったジードを心配して、かつて親しい中になった女達が代わる代わる何人かやってきて説得をした。

 

 

「やぁ、君たち久しぶりだね。ところで僕のこの筋肉を見てくれ。コイツをどう思う?」

 

 

説得には耳を貸さずポージングをキメるジードを見て、すっかり脳筋キャラになったと嘆いて女達は去っていく。

そういったやり取りが何度か続いた頃、ジードは決断した。

 

 

「山に籠ろう。下界では雑音が多すぎる。山で、自然の中で、雑音なく純粋な気持ちで筋肉に向き合うんだ」

 

 

そろそろ元の目的を忘れかけてきたジード。

このまま筋肉に入れ込み続けてセレスティアと関わらなければそれで良かったが、残念ながらやがて彼女の人生を左右するほどにジードの存在は影響力を高めていくことになる。

 

 

そして、シュウにも大きな大きな悪影響を与えることになるのであった。

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