『アドネイド式歓迎の儀』は、まさにその名の示す通りアドネイド家の家柄を表わした蛮行だが、ある時本当に死人を出してから行われなくなった。
相手は武の家系で知られる辺境伯家の次男で、どんな過酷な戦場からも武勲を得て生還し、どれだけの深手を負っても蘇ることから『不死身の小隊長』と呼ばれ、英雄ともてはやされたタフガイの若者だった。
「私は不死身です。いかなる敵をも私を死に至らしめることなどできない」
「あの過酷な戦場を思えば、安全な帝都内での揉め事など、意に介するレベルですらないですなぁ。社交の方が私には骨が折れそうです」
「私がアドネイド家に婿入りした際には、今ある抗争などたちどころに解決してみせましょう」
だがこの次男・・・実績を積み過ぎてもてはやされるうちに、尊大な性格になっていた。
アドネイド家ですら見下すその態度に「ふーん、それなら歓迎の儀も盛大なものにしないと」と当主はやる気・・・いや、殺る気になった。
記録によると、このときの『アドネイド式歓迎の儀』では通常の倍の人数である精鋭60人による一斉攻撃により、次男の乗っている馬車はバラバラになり、中の次男も形を保っていなかったという。
「いや、まさか本当に死ぬとは・・・」
当主は感情に任せ、つい歓迎の儀に熱が入ってしまったことを少しだけ後悔した。
「死ぬに決まってんだろ!!」
辺境伯家は怒り狂った。
当然のように揉めに揉め、アドネイド子爵家と辺境伯家は血で血を洗う抗争が繰り広げられたという。
これを戒めとして、『アドネイド式歓迎の儀』は行われなくなったわけだが、これを再び呼び起こすと聞いてクレウスは当然のように難色を示した。
「私の夫になる男は、それなりの男じゃないとダメなんだろ?」
「『アドネイド式歓迎の儀』すら通過できないクソ雑魚なんて、私は男として認めないからな」
セレスティアの言葉に、クレウスは唸りながらも「いや本当に死んだらどうすんのよ」と、首を縦に振りかねた。
「殺す気なんだよ」とセレスティアは内心思いつつ、中々承認されないことに悶々としていた。
だが、これに助け舟?を出したのが母ウィンクである。
「良いんじゃない?やってみれば。それで儀式を通過したら、スリーロック侯爵令息のことを認めるってことね?」
「前向きに考える」
「決まりね!煮え切らなかったティアの相手がこれでようやく決まるのね」
「・・・」
クレウスと違い、ウィンクは『アドネイド式歓迎の儀』を口実に、セレスティアの縁談を加速させようと考えた。こうなるとクレウスが何を言おうと、実質的なボスであるウィンクが言えばそのように倣う。
こうして『アドネイド式歓迎の儀』は、セレスティアの取り仕切る中で百年以上の時を越えて復活した。
「はん!通過なんてさせるもんかっての」
だが、セレスティアはジードに儀式の通過などさせるつもりはなかった。
『アドネイド式歓迎の儀』と称してジードを始末してしまおうと考えていたのだ。
「お嬢、心配しなくて大丈夫ッス。選りすぐりを揃えましたッス」
ベティの手配により、『アドネイド式歓迎の儀』のためにオーバーキルの精鋭120人が揃い踏みした。
忌まわしい過去の事件の時の倍の人数である。
「「「俺達のお嬢に手を出そうというやつはぶっ殺す!」」」
この時揃ったオーバーキルは、誰もがセレスティアを慕い、彼女が望まぬ婚約を結ばされそうになっていることに憤慨している者達。
「試す」なんてものではなく「殺す」つもりで儀式に臨んでいた。
「お、おい・・・まさか、あの人数で本当にやるんじゃないだろうな!?」
セレスティアが用意した『アドネイド式歓迎の儀』の現場を見て、クレウスが顔を青ざめさせた。
「あ、あら・・・?ちょっと流石にやりすぎかしら・・・?」
肝が据わっているはずのウィンクも、流石に引いてしまっている。
人員から何からセレスティアが用意するとは聞いてはいたが、想像を遥かに超える布陣で唖然としてしまった。
「まぁ、ティアに現場は任せるって言ってしまったし、なるようにしかならないわね」
が、すぐに飲み込んだ。
「いやいや待て待て待て!あれは流石にまずいぞ!!」
飲み込めないのはクレウス。
慌てて止めようと現地に向かおうとするが、無情にも間に合わず、スリーロック侯爵家の馬車が到着してしまった。
「ん?」
馬車を駆っていた御者は、アドネイド家の屋敷の前でズラリと横一列に並んでいるオーバーキルを見てぎょっとした。
彼は知っていた。アドネイド家のトンプソンのこと、オーバーキルのこと、そして・・・オーバーキルが一斉攻撃をするそのとき、毎回横並び陣形を組むということを。
「うっそでしょ!?」
何でか知らんが、今すぐ自分は攻撃される!と察した御者は、すぐに馬車から飛び降りた。
賢い馬達も察して器用に拘束具を解いて逃げ出してしまい、残されたのは動力を失って静止した馬車のみ。
「やーーっておしまい!」
セレスティアの号令と同時に、オーバーキル達の空気弾が一斉に発せられた。
ババババババババババババババババババババ
馬車は一瞬にしてバラバラ・・・どころか粉々になり、周囲の地面が抉れ、土煙が上がってたちどころに何も見えなくなった。
それでも攻撃は止まらない。
欠片も残さず殺してみせると、オーバーキル達も全く手を緩めることはなく魔法による射撃が続く。
そしてたっぷり一分ほど経過したところで、セレスティアが止めの合図をした。
「殺ったか!?」
どう考えても生きているはずがない。
セレスティアは笑みを浮かべたが、その笑みはすぐに凍り付くことになった。
「・・・は?」
土煙が晴れると、そこには腕組みして仁王立ちした筋肉質の男ジード?が立っていた。
全裸で。