「は・・・?」
ジードは五体満足で立っていた。
少しばかり肌が擦りむいたような痕はあるが、それだけだ。股間にも立派過ぎるものが何事もなかったかのようにぶら下がっている。
ジードは粉々になるはずだった。万が一にも生きているはずなどなかった。
実際、ジードが乗ってきた侯爵家の馬車は並の馬車に比べてかなり頑丈なはずなのだが、跡形もなく消滅してしまっている。
だが、ジードは生きている。
間違いなく魔法を被弾しているからこそ、着ている服は破れて消滅してしまっているのだ。
「バカな・・・」
ジードの死を確信していたセレスティア達は、あり得ない事態に唖然とした。
そんなセレスティア達を前に、ジードは大声で豪快に笑い始めた。
「ハハハ!流石は音に聞こえしアドネイド子爵家!まさかここまで手厚い歓迎を受けるとは思いませんでしたよ!!しかし、今回は私の筋肉の勝ちのようですね!」
嫌味でも何でもない、本当に心から愉快そうに笑うジード。
「こんなこともあろうかと、パンツの替えだけは持ってきておいて正解でしたな!」と、どこからともなくパンツを取り出して履いている余裕の態度である。
「んな・・・アホな・・・」
信じられないものを見たセレスティアは、思わず眩暈がして倒れそうになった。
それをガシッと支える影が一つ。クレウスだった。
「どうやらティアの婿が決まったようだな?」
そう言って少し寂しそうに、でもそれ以上に嬉しそうに笑うクレウスを見て、セレスティアは今度こそ泡を吹いて気絶した。
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セレスティアの予想とは裏腹に『アドネイド式歓迎の儀』を無事に乗り越えたジードは、歓喜するクレウスから手厚い歓迎を受けた。
シンパシーを感じていたところに、歓迎の儀をシンプルに肉体のみで乗り越えたという事実が、すっかりクレウスをジードの虜にしてしまっており、応接室で既に将来のことも踏まえた話が進められる。
「今日は何という日だ!こんな素晴らしい出会いがあるなんて!」
「貴方のような息子が出来るなら、私も嬉しいわ」
クレウスもウィンクも、完全にジードに対して受け入れムードである。
一人だけ様子が違うのは、ブスッとした表情のセレスティア。
彼女だけはジードを受け入れていないのだが、殺すつもりで最強の布陣で臨んだ『アドネイド式歓迎の儀』を正面から突破されてしまったので、文句が付けられない。
パンツ一丁のジードと、それを気にせず心からの笑顔で接するアドネイド夫婦。そして不機嫌そうにしているセレスティアという、異様な光景だった。
「しかし、昔冒険者としてならした俺から見ても、凄い筋肉だな。まさかオーバーキルの空気弾に打ち勝つとは思わなかった」
クレウスはうっとりしながら、ホモのようにジードの太い腕に手を這わせる。
「山での修行の成果です。以前の私はアドネイド令嬢に3倍まで腕を太くしろと言われましたが、今は6倍はあります。山では魔物に何度か襲われましたが、素手で撃退できるくらいには成長しました」
得意気に言うジードを見つめながら、セレスティアは「人間じゃねー」と呟く。
ジードは以前に会ったときより、確かに6倍は腕が太くなっていた。率直に言ってキモいくらいである。
身長も高くなり、顔つきもいかつくなった。元の美男子だった頃の面影はほとんどない。
セレスティアの大誤算・・・というか不幸のようなものだが、ジードには実は筋肉ダルマになれるだけの異常なまでの素質があった。
出合ってから一年と少ししか経過していないが、常人の数十倍のスピードで筋肉をつけ、今では魔物並の筋力を身に着けているのである。ていうかもはや魔物そのものに近い。
元はがりがりのもやしっ子だったジードだったが、一心不乱のトレーニングにより、A級冒険者以上の筋肉を身に着けてしまった。
ついでに一人称も「僕」から「私」に変わっている。
「ところで、君はパンツも破けてしまったようだが、股間にもダメージを・・・?平気なのかい・・・?」
そう言ってジードの股間をじっくり眺めるクレウス。ホモにしか見えない。
「股間も鍛えてあります。この肉体に弱点など一つとしてあることが許せなかったので。ハハハッ」
(とことん人間じゃねぇ・・・)
呆れ顔でため息をつくセレスティア。
「お父上も君の変貌ぶりに驚いたであろう?」
「最初は私だと気づいてもらえなくて、衛兵を呼ばれましたよ。『魔物が入ってきてるぞ!』と。ひどい話です。ハハハッ」
両親が既に受け入れムードになっているのを見て、半分諦めの気持ちでただただジード達の会話に耳を傾けている。
ぶっ殺すつもりで抜かりなく手を打った。それでもジードに突破された。気持ちの上では完敗である。
出会いは最悪だったが、セレスティアの言った通り(ベクトルはともかく)男を磨いて異常なまでの結果を出したのだ。
ジードを受け入れるが筋か・・・などとセレスティアは考えてはいるが
(でも・・・)
それでも納得できない自分もいるのを、また彼女は自覚していた。
セレスティアは元より恋愛結婚にはあまり期待していない。
幼い頃からクレウスがハードルを上げて来たというのもあるが、元よりセレスティアの男の選定眼は厳しく、理想的な男に出合ったことがなかった。
だから結婚する男には、ある程度の妥協も必要だと割り切ってはいたのだ。
だが、セレスティアはどうしてもジードを許容できなかった。
たった一つ、たった一つのことが、ジードはクリア出来ていないとセレスティアは思った。故にコイツとだけは結婚したくないと。
(コイツには、ハートがない。熱いハートが)