シュウとセレスティアの運命の日がやってきた。
シュウが『光の戦士達』を追放されたその日である。
酒場でゴロツキに絡まれたセレスティアを救おうとしてやってきたシュウ。
そのシュウの顔を一目見たときに、セレスティアの体中に電撃が駆け巡った気がした。
(こ、この人はっ・・・!!)
開いてるんだか閉じているんだかわからないような細い目。
癖なのだろうか、少し口角を上げ気味で常に微笑を浮かべているような表情。
アレンジはしてあるが神官服らしい装い。
それらを見ると、普通ならただ人の良さそうな優男の神官がゴロツキに説教をしにきただけのように見える。
だが、セレスティアは違った。
シュウからただの優男ではない、何か「危険な匂い」を感じ取ったのである。
そしてその予感は当たっていた。
シュウは助けを出すためとはいえ、ゴロツキにグーパンチをぶちかますわ、骨を折るわで、躊躇いもなく力を行使した。
神官とは思えないほどに狂暴。人助けを称してのストレスの解消。
シュウはとても善人には見えなかった。
(す、素敵・・・!)
が、助けに来てくれたことは事実。そしてセレスティアは「パッと見優しそうに見えるが、どこか危険な感じがするような男」が実は好みだったので、簡単に言えばシュウは彼女のドストライクだったのだ。
少なくともセレスティアの前に見せた姿は、危険な感じがするどころか危険そのものにしか見えないが、既にスイッチが入って盲目になっている彼女にはどうでも良かった。吊り橋効果かもしれないが、胸の高まりも止まらない。
だが、セレスティアはシュウの動きにも見惚れていた。
ただ力を振り回すわけではない。シュウが実戦と修練で研鑽してきた『完成された武』を目の当たりにして目を奪われてもいたのである。
セレスティアは家柄なのか、幼少期から荒事の現場を目の当たりにすることが何度もあった。
殴り合い、魔法のぶつけ合い、斬り合い、取っ組み合い・・・
あらゆる戦闘行為を目にして来たセレスティアの目には、シュウの格闘術は比較する気にもならないほど研ぎに研ぎすまされた芸術品に映った。
それに・・・
「いやなに・・・私がそのお嬢さんを一目で気に入りまして」
シュウがゴロツキに言った一言がセレスティアの頭の中でリフレインする。
(口説かれたーーっ!!)
思い出すだけで、セレスティアの顔が一瞬にして紅潮する。
シュウの冗談を口説かれたと解釈したセレスティアは、これはもう運命だと確信した。
人生で初めての経験に、体の震えが止まらず、思考がおぼつかない。
そして「可愛らしい方」とシュウに言われ、またも体中に電撃が走り「また口説かれた」と感動に打ち震えた。
今までの男のように助けた礼に体を要求されても、今なら受け入れてしまうかもしれない・・・そんなことを考えてセレスティアはドキドキしていたが、シュウは何も言わず去った。
何か礼をと言うセレスティアに「大したことはしていない」と断るシュウ。
完成された武を身に着け、外見も雰囲気も好み。
人助けを厭わない熱いハート、礼は不要とあっさり言ってのける謙虚さ。
神官でありながら、破戒僧だというギャップ萌え。
惚れてまうやろーーっ!!
セレスティアは叫びながらシュウに抱き着きたい衝動を必死に抑え込み、それを振り払うようにして酒場を出た。
見つけた。
見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた!自分の理想の男が・・・いや、運命の男が!!
セレスティアは高鳴る心臓を手で押さえながら、男漁り・・・ではなく男探しで街中を練り歩くために、休憩所として使っている宿屋の一室に急ぎ戻った。
「ベティ!見つけた!ついに見つけたぞ!!」
セレスティアが堪え切れないようにそう叫ぶと、護衛としてついてきていたベティが屋根裏から姿を現した。ドアから入ればいいのに「何となくそれっぽいから」という理由で、こんな隠密みたいに屋根裏から登場する方法を選ぶ変わり者である。
「わかってるッスよお嬢。確かに、これまでの男達とは別格ッスね」
頭に蜘蛛の巣が引っ付けたまま、ベティは頷きながら言う。
ベティの選定眼でもシュウは及第点を上げられるレベルだった。
アドネイドの従者として長いベティは、荒事など日常茶飯事なので多少(?)の暴力行為など問題と捉えない。何のために力を使ったのかが大事なのだ。
「あの男、お嬢が無事に帰れるかどうか心配なのか、私費でここまでの護衛をつけてたッス。ちょっとお人よしすぎる感じがするッスが、まぁでも」
「な、ななななななんだってーーーっ!!?」
シュウがセレスティアにこっそり護衛をつけたことを聞いて、ベティの言葉を全部聞き終えることなくセレスティアは頭からボンッと湯気を出してぺたりと尻もちをついた。
「なんだそれは・・・完璧すぎんよ~・・・も、もうダメだベティ・・・私はもう、あの人しか見えない。見たくない」
「はぅぁ~」と声を漏らしながら、体を震わせ蹲るセレスティアを見て「こりゃ重症だわ」とベティは思ったが、望まぬ男と婚約させられそうになり、周囲に味方もおらず絶望的な状況の中で見つけた理想の男シュウとの出会いは、まさに死中に活といったところなので仕方が無い。
「ベティ。すぐにあの人のことを徹底的に調べろ。すぐにだ!」
こうしてシュウは、自身の知らぬところでまた一人ヤバい女に目を付けられたのであった。