トンプソンの情報網をもってすれば、シュウのことのついてもすぐに多くの情報を得ることが出来た。
元よりシュウは勇者パーティー『光の戦士達』のメンバーであり有名人。それに加えてトンプソンの情報網は手広く、街の乞食からストリートガール、それに酒場の店主や冒険者、果ては憲兵に神官まであらゆるところに手の者が配置されており、どんな細かい情報も入って来る。
「報告するッス」
シュウとの出会いから数時間後、ある程度まとまった情報が入ったところで、中間報告をしにベティがセレスティアの元へやってきた。
「・・・うん、なるほど」
名前、年齢、出身、得意とするもの、簡易的にまとめられたスペックシートに目を通したセレスティアは、しきりに頷きながら「そうか、この人が私のダーリンとなる人か」と呟いた。
「酒が好きなようッス。冒険者として旅をする中で、地酒を必ずチェックするとのこと」
「私も勉強しよう」
「博打を打つのが好きなようッス。ですが投資には興味なし。結果がすぐ出るものが好きなようで、儲けるよりは勝つか負けるかのスリルを楽しむことに重きを置くタイプっス。ただ分の悪いほうに賭けることが好きらしく、先日競馬でも誰も賭けないような老馬ケンタウロスケアルに賭けて、案の定負けて派手に散財してるッス。ギャンブル依存症ッスね」
「神官なのにお堅いイメージがないんだな。キャップ萌えだ」
「女好きで、飲みの後は大体は娼館に通っているようッス」
「英雄色を好むという。出来た男ほどそういうもんだろ」
少々行き過ぎるほど前向きに受け止めるセレスティアは、シュウについての悪材料となる報告を受けても好感度が下がることはない。むしろ上がった・・・いや、無理にでも上げたというべきだろうか。
「身体能力に悪影響が出る懸念から、煙草は吸わないようッス」
「私もやめる」
セレスティアはそれまで咥えていた煙草を、すぐに素手で揉み潰す。
「・・・けど、煙草を吸う女はカッコイイから嫌いじゃないらしいッス」
「なら吸うわ」
新しい煙草を手に取り、火を付けるセレスティア。
「娼館で選んだ女のラインナップ的に、胸の大きい女を好んでいるようッス」
「胸・・・」
セレスティアは、自分の小ぶりな胸元に目をやった。
見栄えのためだと少し・・・いや、まぁそこそこ寄せて上げているが、平均よりちょい下程度の大きさであり、決して大きいとは言えないサイズである。
「揉んで大きくなるというらしいから、今日からでもやる。後はダーリンにしこたま揉んでもらえばいずれは・・・」
ぶつぶつと言っているセレスティアを見て、ベティは目を見張った。
セレスティアは我の強い性格で、貴族学園で最低限の世間体を取り繕うことはするが、好きなものを嫌いと言ったり、白い物を黒いと言ったりするような自分を曲げるようなことはしなかった。
そんな彼女が男のために自分を殺し、変わろうとしているのが信じられなかったのだ。
「私はママとは違う。男のために自分を変えたりしねーから」
かつて「器量よしなんだから、黙っていれば男が寄って来るでしょうに」と言ったウィンクに対し、セレスティアはそんなことを言ってのけたのをベティは思い出した。
「恋をすればわかるわ」という言葉でその場は終えたが、今まさにセレスティアは恋をして変わったのだなと、ベティは感慨深くなって目尻に涙が浮かんだ。
「・・・ツケが溜まって、借金がそこそこの額になっているようッス」
「私が肩代わりする」
「まだ未確認情報ッスが、『光の戦士達』を追放されたとのことッス」
「その糞パーティーは、ダーリンが収まる器じゃなかったんだな」
「これも未確認情報ッスが、そのあとで教会を追放されて今本当に無職で次のアテも無いとのことッス」
「私が稼ぐから問題ない」
「元パーティーメンバーの二人と、既に男女の関係になっているという情報もあるッス」
「過去は気にしない。それに私はママと違って寛容だから愛人もいくらかは認める。最後に私の隣にいてくれればそれで良い」
「教会でも司教と男×男の関係になっているとか・・・」
「宗教家なんてそんなもんだろ(問題発言)。抜け出たならこれからは私が元に矯正するから問題ない」
駄目男を甘やかす女の構図だが、迷い無くキッパリ言うセレスティアに「お嬢、本当に恋に目覚めたんすね・・・」とベティは感極まって震えた。
「ようがす、お嬢。そこまで言うなら、もう自分は止めないッス。この恋、どこまでも応援させてもらうッスよ・・・ん?」
感激しているベティに、ちょいちょいと服の袖を引く者が現れる。シュウについての追加の情報を持ってきた男だった。
「・・・げっ・・・」
それまでセレスティアの変わりっぷりに興奮していたベティが、男が持ってきた報告書に目を通してサァッと顔を青ざめさせた。
「あ、あのっ・・・お嬢・・・・・・」
あまりの絶望的な内容に声を震わせるベティ。
その内容は
・シュウが聖女フローラと現在進行形でヤっていること。
・シュウが聖女に手を出したと知れれば聖神教会が間違いなく制裁に動き出すこと。
・ていうかシュウは既に断頭台に乗っているようなものであるということ。
といったものだった。
セレスティアが恋した男は、既に命の危険に晒されていることを知ってか知らずか呑気に他の女にハッスルしているという、千年の恋も冷めるようなこの状況・・・
一体どうしたものかとベティが硬直していると、セレスティアがベティの手から報告書をひったくって目を通した。
「お嬢・・・」
あまりの内容にセレスティアの心情を察し、ベティはなんと声をかければ良いかわからないでいたが・・・
「フッ・・・流石は私が見込んだダーリン。どこまでも規格外だな・・・それでこそ、だ」
セレスティアは微笑を浮かべただけで、この状況すら飲み込んだ。
シュウに入れ込むだけあって、セレスティアの肝の据わり方も規格外だ。
「とはいえ、このまま何もしないわけには行かないか。すぐに動くぞ、ベティ」