パパ活無法地帯 いただき!リリィちゃん 作:馬門戒明/輪島ライ
見た目はあくまで清楚に。設定は地雷系女子でも髪色は暗くして整えられたロングヘア。ネイルはなるべく控えめにして、化粧はもちろん薄め。
真っ白なふわふわ系の服を着て、靴は派手になりすぎないように。ピアスなどのアクセサリーも程々に。ブランド物はどれだけプレゼントされてても見せびらかさない。
「リリィちゃん、今日は来てくれてありがとう。最近女友達と喧嘩して人恋しかったんだよ」
「女友達ですか? それってセ……とか付くやつだったりします?」
「はははは、リリィちゃんは手厳しいね。残念ながらそこまでの関係じゃなかったけど、47にもなって独身だとやっぱりいつも寂しくてね。今日はリリィちゃんとゆっくりお酒を飲みたいよ」
IT系のエリートサラリーマンからベンチャー企業を立ち上げたマサユキさんは恰幅のいいお金持ちのおじさんで、いわゆるパパ活の相手としてはとても理想的。
そんな相手だからこそ機嫌を取るのにはコツが必要で、マサユキさんと乾杯した私は高級なシャンパンをグラスで一口飲むと次に何を話すか考えていた。
「僕も若い内に結婚できてたらリリィちゃんぐらいの娘がいたのかなあ。リリィちゃんみたいな美人さんだったかは分からないけど、娘でも息子でも話してみたかった気はするなあ」
「マサユキさんなら今からでも全然大丈夫ですよ。男性は55歳ぐらいまでなら普通に結婚できるって言いますし、エリート社長ならお相手はいくらでもいるでしょう?」
「そうだねえ、選ばなければ20代の女の子でも相手はいると思うよ。でも僕が一緒にいて嬉しい相手となるとね……」
高層ビルの上層にあるイタリアンレストランのテーブルの向かい側に座っている私のDカップの胸元に目をやったマサユキさんに、私は体幹を少しも動かさずに笑顔を返した。
いただき5つの誓い。一つ、相手の目線に立って発言・行動をすること。
「この前菜美味しいねえ。リリィちゃんタコは好きかい? 実は僕軟体動物があんまり得意でなくてね」
「あれっ、マサユキさんも苦手な食べ物あるんですね。わたしタコ好きなので貰ってもいいですか? あーん」
「あーん? ああ、そういうことだね。どうぞどうぞ、美味しく食べてね……」
フォークで海鮮マリネのタコを突き刺しているマサユキさんは目を閉じて口を開いた私に喜びながらフォークを差し出し、私は美味しいタコのマリネをぱくりと食べた。
タコを咀嚼している私を見てマサユキさんは若干にやついていて、これは彼なりのパパ活女子と間接キスを果たせた喜びなのかなと思った。
いただき5つの誓い。一つ、相手と落ち着いて話して信頼関係を構築すること。
私は常に笑顔で口角を上げながら話し、マサユキさんが話した普段の仕事の話は適度に頷きながら傾聴する。
目は必ず合わせて、どんなにつまらない話でも興味を持って聞くことが大切。
お互いスープを飲みながら話していくと、マサユキさんは普段の私の生活について聞いてきた。
「わたし生まれは愛媛県の今治市なんですけど、シングルマザーだったお母さんが教育ママってやつで。高校受験で地元の進学校に合格できなかった時はお母さんから何回も叩かれて、それで高校を卒業したらすぐに東京に出てきたんです」
「なるほど、大変だったんだね。お父さんは今どうしてるのかな? きょうだいはいるの?」
「お父さんはわたしが小さい頃に浮気して家を出ていってそれっきりで、お姉ちゃんはいるけどお母さんに性格が似てて仲はよくなかったです。お姉ちゃんは今も地元にいると思います」
本当は私のお父さんは私が物心もつかない頃に交通事故で死亡しているし、私は一人っ子なので姉も妹もいない。
お母さんから教育虐待を受けて育ったのは本当だけど、それでも今治で暮らしているお母さんとは今でもたまに連絡を取っている。
相手を信用させたい時は、嘘の話に本当を織り交ぜるのが効果的。
「そうなのか……リリィちゃんはお父さんにはあまりいい思い出がないんだね。こんな父親みたいな年齢の男と話すのはストレスにならないかい?」
「全然そんなことないですよ! わたしはむしろ優しいお父さんに憧れがあって、マサユキさんみたいな素敵な男性がお父さんだったらなあって思います。今日も尊敬しちゃうようなお話ばっかりですし」
「ははははは、僕はそんな褒められるような人間じゃないよ。でもリリィちゃんがストレスを感じてないなら何よりだよ」
マサユキさんが話す仕事の話は全体の2割も分からなかったけど、私は彼の話を聞きながら本当に全く分からない所は適度に質問を投げていた。
自分と比べて学歴も教養もないけれど自分が話すハイソサエティな話に興味を持ってくれるパパ活女子に好感を持たない男性はいない。
いただき5つの誓い。自分を魅力的な「助けてあげたくなる」人間に見せること。
それからはメインディッシュを味わってから歓談しつつデザートも食べ終え、私は高級なミネラルウォーターで酔いを覚ましながらマサユキさんがグラスワインをぐいと飲み終えるのを眺めた。
店員さんがお会計の紙を持ってきた所でマサユキさんは高級そうな財布を取り出し、そこから1万円札を5枚出して私に差し出した。
「リリィちゃん、今日は本当に楽しかったよ。また会いたいからメッセージアプリの連絡先を交換してくれないかな?」
「もちろんいいですよ。ただ、私普段イノスタしか使わないのでイノスタでもいいですか? メールアドレスでもいいです」
「ああ、最近の子はそうらしいね。じゃあメールアドレスを教えて貰おうかな、僕の方から後で空メールを送っておくよ」
「ありがとうございます!」
私はマサユキさんから受け取った5万円を財布にしまうとわざと旧型を使っているスマホを取り出し、マサユキさんにパパ活専用のメールアドレスを紙に書いて渡した。
メッセージアプリの中でも電話番号に紐づけされているものを教えると関係がこじれた時に面倒なので、こういう時はいつでも切れる連絡先を教えるのがセオリーだ。
マサユキさんがパパ活女子に具体的な見返りを求める弱者男性、いわゆるテイカーおぢであることはマッチングアプリで連絡を取っている段階で何となく分かっていた。
私はそれを踏まえた上でテイカーおぢであるマサユキさんから後腐れなくお金を貰う算段を立てていて、今日無事に5万円を貰った後は次第に距離を遠ざけてさよならするつもりだった。
こういう人は他に何人ものパパ活女子に貢いでいるはずなので、その一人がフェードアウトした所で大して気に留めないだろう。
いただき5つの誓い。一つ、相手を無害なガチ恋に育てること。今回の場合は無害なままでさよならすること。
「今日は本当に楽しかったよ。それじゃあ駅まで送るね」
「ありがとうございます! こちらこそ楽しかったです、またいつでもお会いしましょう」
私がマサユキさんと一緒に高層ビルを後にしようとした時、エントランスの外から誰かが走ってきた。
「きゃっ!」
「うわっ!! あ……申し訳ないです。ちょっと今急いでるんで」
「待ちなさい、女の子をペンキまみれにしておいてさっさと立ち去るのはおかしいだろう。ちゃんと謝るべきじゃないか?」
走ってきたのはフード付きのジャンパーに身を包んだ若い男性で、ブラシが入ったペンキ缶を持っていることとあまりにも奇抜なファッションからすると先ほどまでこの近くの建物に落書きをしてきたようだった。
「チッ……ああ、申し訳ないです。このお金で新しい服でも買ってください。じゃ」
若者はポケットから5000円を取り出すと私に押し付けてさっさと立ち去っていき、マサユキさんは背を向けて去っていた青年を不快そうな顔で見ていた。
「これはこれは、白い服が赤いペンキで汚れてしまったね。帰りに着る服を買うからちょっと近くの服屋に寄っていかないかい?」
「いいんですか? ありがとうございます……」
流石にこんな格好のまま電車に乗りたくはないので私はマサユキさんにこの時間でも開いている服屋さんで着替えを買って貰うことにして、マサユキさんは行きつけの店があると言って私に自家用車の後部座席に乗るよう言った。
普段なら絶対に相手の車に乗ることはないけどこの状況なら流石に他意はないだろうと考えて、私はいつでもドアを開けて逃げ出せるよう車内をチェックしながら後部座席に座ってシートベルトを身に着けた。
マサユキさんは自家用車で5分ほど走り、そこは駅からはかなり離れた所にある個人経営の洋服屋さんだった。
「じゃあ一緒に店に入ろうか。本当はもう閉店時刻なんだけど僕が言えば大丈夫だからね」
「マサユキさんってやっぱりすごい人なんですね。ではお言葉に甘えて……」
店の中では初老の店長さんが一人で店じまいの準備をしていて、店長さんはマサユキさんの顔を見るといそいそと営業再開の支度を始めた。
私もさっさと帰りたいので白くてふわふわの同じような服を選び、一応今後も使いたいと思って試着室に入った。
お店に置いてあった服はどれもすごく高級で、私はペンキで汚れた服を脱ぐと2桁万円に届きそうな値札が付いている服を手に取った。
その時……
「どれどれ、新しい服の着心地はどうかな? ちょっとお邪魔するね」
「きゃあっ!! ま、マサユキさんどうして入ってきてるんですか!? わたしまだ着替え中ですよ!?」
マサユキさんは何食わぬ顔でカーテンを開けると試着室に入ってきて、上半身はブラジャー1枚の私は新しい服を抱えて慌てて胸元を隠した。
「何を言ってるんだい? 僕が君に服を買ってあげるんだから似合うかどうか僕が判断して当然じゃないか。さあ見せてごらん、僕が優しく服を着せてあげるね……」
「いっいえいいです! そんなの流石にってええええ!?」
「リリィちゃんとずっとこうしてみたかったんだよ……この店には今君と僕だけだって知らなかったでしょう?」
マサユキさんは試着室の中で私ににじり寄るとたくましい腕で壁ドンをしてきて、私はマサユキさんの常軌を逸した行動に驚愕していた。
「そんな、だって店長さんがすぐそこに……」
「ああ、このお店は僕の会社の直営店でね。こういう時によく使わせて貰ってるんだよ」
「ええっ……」
「リリィちゃんのおっぱい、形が整ってて綺麗だね。ブラジャーを取ってよく見せてくれないかな?」
「ひいっ!! やめてください、そんなことしたら警察を呼びますよ!?」
「君こそそんなこと言っていいのかな、あんまり抵抗すると一生人前に出られなくなるような写真を撮っちゃうよ?」
ついに私のブラジャーに手をかけたマサユキさんに、私は身をよじりながら必死で抵抗した。
しかしマサユキさんは私の背中にいやらしく左手を這わせながら勃起したおちんちんを私の太ももにこすりつけてきて、私はいよいよ身の危険を間近に感じた。
マサユキさんが偶然を装って私を連れてきたこの店が彼の支配下にあったということは、先ほどのペンキを持った青年もおそらくはマサユキさんから私にぶつかるよう指示されていたのだろう。
「ほら、やっとリリィちゃんのおっぱいを見られたよ。後で一杯写真に収めてあげるからね……」
「こんなことしたら本当に犯罪ですよ。お願いですからもうやめてください……」
「全く、リリィちゃんのいけない所はそうやって下らない口答えをする所だよ。ほら、さっさと裸になるんだ!!」
「いやあっ!!」
マサユキさんは私のブラジャーを力づくではぎ取ると私の身体を軽く突き飛ばし、私は試着室の床に仰向けに倒れた。
そしてズボンとパンツを驚くべき速さで脱ぎ去って私に覆いかぶさろうとするマサユキさんに、私は意を決して叫んだ。
「っ……助けて、イタダキマンっ!!」
「はっ?」
『任せてください! イタダキマンハヤト、フォースコントリビューション!!』
私がそう叫ぶとバッグにずっとぶら下げていた小さなクマのぬいぐるみは突然光り輝き、クマの全身から溢れ出した青白い光は奔流となって私の身体に流れ込んだ。
青白い光を浴びた私の身体は銀色に光り輝き、目の前で発生した超常現象にマサユキさんは狼狽し始めた。
「リリィちゃん、君は一体!?」
「あんたみたいなテイカーおぢはぁっ……これで終わりっ!!」
「なっ!? ああああああああああああ!!」
フォースをまとった私が両腕を斜め十字に組むと十字の中心からは莫大なエネルギーの奔流が巻き起こり、一直線の光線となって突き進んだ青白い光は音速を超える速さでマサユキさんの身体を貫いた。
異星人イタダキマンから与えられたフォースの力により繰り出される奥義「イタダキウムブラスト」は、異性からの搾取を受け入れない曲がった心の持ち主の身体を焼き尽くす。
まっ黒焦げになって試着室の床に倒れたマサユキさんを見て、私はマサユキさんに買って貰うつもりだった新品の服を急いで着るとノーブラのままで洋服屋から逃げ出した。
店の外で待っていた店長さんは慌てて店内に戻るとまっ黒焦げになったマサユキさんを見て悲鳴を上げていたけど、私の素性は知らないはずだし先ほどのことを警察に話したとしても誰も信じないだろう。
『リリィ、今日はかなり危なかったですね。最後はどうにかなったけどイタダキウムエネルギーを結構消費してしまいました』
「危ないも何もないでしょうが!! どうしてあの状況で自分から助けない訳っ!?」
『僕が自分から動けるのならこの人形に憑依している意味などないでしょう? リリィには5つの誓いについてもう少し理解して貰う必要がありますね』
「知ったような口聞いて! 後で覚えてなさいっ!!」
私がバッグにいつもぶら下げているクマのぬいぐるみ「すぱーくどーる」には、外宇宙からやって来た異星人が憑依している。
私は異星人と自分自身の生命を維持するために、こうしてやりたくもないパパ活女子の生活を続けているのだった。
いただき5つの誓い。一つ、自分の価値に気づき、自分のやりたい夢を叶えること。
文字通りの意味で生きていくためだけにパパ活を続けている私の価値とは、一体何なのだろうか。