パパ活無法地帯 いただき!リリィちゃん 作:馬門戒明/輪島ライ
イタダキマンハヤトの提案を受けて、私はとりあえず携帯ショップに行くと2台目のスマートフォンを契約した。
私がこれからパパ活で弱者男性から搾取をするに当たってはメッセージアプリの連絡先を交換する必要があり、私は普段知人とは電話番号に紐づけされていないインスタグラムのアカウントを交換しているけどパパ活で女の子を買うようなおじさんはラインしか使っていない場合が多く時にはSMSしか使えないこともあるという。
そういう時に電話番号に紐づけされたアカウントを教えても差し支えないように2台目のスマホを契約するのですと話したイタダキマンハヤトに、私はなぜこの宇宙人はここまで現代日本の通信技術に詳しいのだろうかと疑問に思った。
『その意気ですよリリィ、地雷系ファッションの姿を写真館に行って撮ってきたのも上手い機転です。これでその辺の適当な弱者男性からすぐにいいね!が来るでしょう』
「だってハヤトが写真撮ってくれる訳じゃないから仕方ないでしょ? あ、早速1件来た」
ワンルームマンションの部屋ですぱーくどーるに憑依したイタダキマンハヤトに見守られながら地雷系っぽくシールでデコレーションした2台目のスマホを操作していると、今日登録したばかりのマッチングアプリに新規いいね!通知が届いた。
私が作ったアカウントは「優しいおじさん募集☆ 地雷系女子リリィちゃん」という名前で、真っ白なふわふわ系の服を着て膝にすぱーくどーるを載せ、巧妙に口元を隠した写真は昨日わざわざ写真館に行って撮影して貰ったものだった。
「えーと、じゃあ早速この人を登録してと……」
『ちょっと待ってください、いいね!してきた人を全員登録していてはきりがないですし搾取に値する弱者男性かどうかも問題です。僕に画面を見せてください。これとこれと……これも駄目ですね。ああ、このクニオさんという人はよさそうです。写真から何が分かると思いますか?』
「えー、この人? 何か部屋着みたいな服着てるけど本当にお金持ちなの?」
『よく見てください、彼の背後に写っているのは金塊です。地味な服装をして画面にわざわざ金塊を写していることからするとこの人はものすごくお金持ちなのにそれを堂々と出せない事情があるのでしょう。ほら、早速メッセージのやり取りを始めますよ』
「はいはい……」
イタダキマンハヤトに言われるままにスマホを操作しているとクニオさんという37歳独身男性とのやり取りはスムーズに進んで、私とクニオさんは今週の土曜の夜に新宿区内のお寿司屋さんで初デートをすることになった。
「それじゃあ大将、こちらのリリィちゃんに一番高級なのをお願いします! ここ美味しいからどんどん食べてね」
「そんな、いきなり大トロとかウニとか申し訳ないですよ。私コハダとか好きなんですけど」
「じゃあそれも一丁! 今日の主役はリリィちゃんだからね~」
デートに現れたクニオさんはボサボサの黒い短髪にその辺の壮年男性が着ていそうな地味目のファッションに身を包んでいて、挨拶もそこそこに私は高級なお寿司を味わっていた。
クニオさんに恐縮した表情を見せながら彼の左膝に右手をそっと置くとクニオさんはびくっ! とした感じで身をすくめて、この人はお金持ちはお金持ちでも女性経験は少ないのだろうと私は察した。
「リリィちゃん、今日は僕といっぱい楽しいことをしようね。近くにファッションビルがあるから好きなものを何でも買ってあげるよ」
「ありがとうございます。でもそんなにサービスして貰わなくても、私はこれから何回でもクニオさんとデートしますから。私も今日はクニオさんにいっぱいサービスしますね……」
私はそう言うとコハダをお箸で取ってわざわざクニオさんのお醤油皿に付けて口に運び、その様子を見てクニオさんは表情をほころばせていた。
それからクニオさんは私をお寿司屋の近くにあるファッションビルに連れて行って数十万円もするピアスをあっさり私に買ってくれて、物のついでにと自分も新品のネクタイを買っていた。
それとなく仕事を聞いてみるとクニオさんは普段は相場を見て商売をしていると話して、これはおそらくデイトレーダーというやつなのだろうと私は理解した。
一晩で億単位のお金を動かしたりもするという俗に言う億り人のクニオさんだが、私はパパ活女子のデビュー戦として彼を最大限喜ばせる方法を考えていた。
「それじゃ次どこ行く? 僕この辺あんまり来ないからお店に詳しくないんだけど」
「そうですねー、実は私ちょっとした趣味があるんです。あのお店に行ってもいいですか?」
「えっ? あれゲームセンターだけど本当にいいの?」
新宿区の街中にある2階建てのゲームセンターを指さした私に、クニオさんは少し驚いた表情でそう尋ねた。
私はこくりと頷くとクニオさんの手を引いてゲームセンターに入り、そこで千円札を崩して貰ってぬいぐるみのクレーンゲームに挑戦した。
「あー、もうちょっとで取れそうだったのにー。私あのうさぎのぬいぐるみ欲しいな~」
「そうなのかー。じゃあ僕がやってみてもいいかい? 取れなかったらごめんだけど」
「いいんですか!? それじゃお願いします、私横から応援しますから」
1200円をつぎ込んでもまだ取れない白いパンツをはいたうさぎのぬいぐるみを見て残念がる私に、クニオさんは腕まくりのジェスチャーをすると私と操作を交代した。
私は
「よっしゃー取れた! やったよリリィちゃん、たったの1500円でぬいぐるみゲットだよ!!」
「ありがとうございます!! 本当に嬉しいです、私このうさぎをクニオさんだと思って大事にしますね」
私はオーバーな喜び方をするとうさぎのぬいぐるみに人前で何回もキスを繰り返し、クニオさんはそんな私を見て頬を赤らめていた。
私は昔からクレーンゲームは得意で、こういう筐体の特徴は元々把握している。
自分で操作している間にクニオさんが最大限取りやすい所までうさぎを動かしていて、この機種は1000円以上を投入するとアームの力が強くなることも知っていた。
こうやってクニオさんに華を持たせてあげながらあざとい態度で好意を示すのが、新人パパ活女子リリィちゃんの戦術なのだった。
ゲームセンターで一しきり遊んだ時には既に夜の10時を回っていて、初回デートということもあるのでそろそろ解散しようかという雰囲気になっていた。
幸いインスタグラムをやっていたクニオさんとアカウントを交換すると、クニオさんは最後にリリィちゃんと素敵な写真を取りたいと言った。
「実はあのビルの屋上に観覧車があって、夜の11時まで乗れるんだよ。そこで夜景と一緒に写真を撮ってもいいかな?」
「夜の観覧車ですか? ちょっと怖いですけど全然いいですよ。よろしくお願いします」
本当ならパパ活女子はおぢと密室に入るべきではないけど、観覧車は短時間で終わるのでそれぐらいならいいかと思って私はそう返事をした。
クニオさんは今日は本当にありがとうねと言いながら私を12階建てのビルの屋上に案内して、そこでは赤い観覧車がゆっくりと回っていた。
2人で料金1000円を払って貰ってクニオさんと観覧車に乗り込むと、真夜中の新宿の夜景が見えた。
こんなに素敵な夜景はいつかパパ活ではない素敵な男性と一緒に見てみたいと思ってうっとりしていると、クニオさんは黙って下を向いていた。
「クニオさん、どうしたんですか? そんな顔して……!?」
私が声をかけた瞬間、クニオさんは突然観覧車の座席を立つと私に正面から抱きついてきた。
一気に顔が青ざめた私だけど、ここは密室なので抵抗しようにも限界がある。
「ご……ごめんリリィちゃん。いきなり抱きついたりして怖かったよね」
「えっ……いえ、びっくりしましたけど全然平気ですよ。クニオさん本当に大丈夫ですか?」
クニオさんは私にセクハラをするつもりではなかったようで、はっとした表情をすると私の身体からすぐに離れた。
あくまで落ち着いているふりをして尋ねた私に、クニオさんは突然両目から涙を流し始めた。
「僕は、僕はこれまで人生でずっと孤独だったんだ。デイトレーダーをしてどれだけお金を稼いでも、ありのままの僕を好いてくれる人なんて一人もいなかったから。でも、リリィちゃんだけは今日僕に優しくしてくれた。それが本当に嬉しくて、胸がいっぱいになって、それで……」
「クニオさん……」
泣きながら一気に話したクニオさんに、私は笑顔を向けると今度は自分から彼の頭をDカップの胸に抱き寄せた。
「クニオさんは誰よりも優しくて素敵な大人の男性ですよ。私はクニオさんとデートすることしかできませんけど、いつだってクニオさんの味方でいますから。寂しかったらまたいつでも泣いてください」
「ありがとう、ありがとうリリィちゃん……ううっ……」
彼の背中に右手を回してよしよしと撫でてあげた私だけど、その時クニオさんは先ほどファッションビルで購入したネクタイをカバンから取り出していた。
そして……
「なっ!? あ、あ、あ……」
「リリィちゃん、僕は最後に君みたいな優しい女の子に会えてよかったよ。だって人生の最後の時を君と過ごせるんだから。一緒に天国に行こうね……」
クニオさんは両手で持ったネクタイを一瞬で私の首元に回すとネクタイで私の首を絞め上げ、突然の暴力に私は何の抵抗もできなかった。
「く、に、お、さん……どう、して……」
「デイトレーダーには失敗が付き物だけど、僕はもう引き返せない所まで来ちゃったんだ。今日のデート代だってサラ金で用意するしかなかったんだよ……」
デイトレーダーの仕事をしくじって全財産を失ってしまったクニオさんは人生最後の日をパパ活女子と過ごすつもりだったらしく、私はどうしてそれが自分だったのかと運命を恨んだ。
私はここでクニオさんに殺されて、クニオさんはその後すぐに自らの命を断つつもりなのだろう。
ネクタイで首を絞められて呼吸が止まる寸前、私がバッグにずっとぶら下げていた小さなクマのぬいぐるみは突然光り輝き、クマの全身から溢れ出した青白い光は奔流となって私の身体に流れ込んだ。
青白い光を浴びた私の身体は銀色に光り輝き、無意識に放った衝撃波でクニオさんの身体を吹き飛ばした。
観覧車の壁に背中をぶつけたクニオさんは驚愕した表情をして、青白く光り輝く私を見て辛うじて口を開いた。
「り、リリィちゃん、その姿は一体!?」
「な、何が一緒に天国に行こうって……あんたみたいな自己中心的な童貞はぁっ……!!」
私は観覧車の中で立ち上がると無意識に右手を目の前にかざし、その瞬間に私の周囲に不可視の斬撃がほとばしった。
「ぎゃああああああああああああ!! 観覧車の床があああああああああああああああ!!」
「そんなに死にたいなら私が一緒に墜落死してあげるわよ!! これで満足でしょっ!?」
観覧車の下半分が綺麗に切断され、私とクニオさんは観覧車の座席ごと下へ下へと落下していく。
下にいる人を巻き込まないようにと私は観覧車の下半分を超能力で亜空間に転移させ、ついに足場までなくなったクニオさんは頭から地面に落下しながら失神した。
私は無意識に身体を浮遊させると気絶したクニオさんの身体を抱え、そのまま飛行するとビルの間の路地裏へと着地した。
気絶したままのクニオさんを酔っ払いですと言って近くの交番に預けると、私はさっさとその場から逃亡したのだった。
『よくやりましたねリリィ、これこそがイタダキマンと融合した者のフォースコントリビューションです。次回からもこうやってピンチを切り抜けましょう!』
「ピンチって言っても限度があるでしょうがぁ!! 買ってもらったピアスも落ちてる間にどっか行っちゃったじゃないっ!!」
すぱーくどーるに憑依したまま激励してくるハヤトに怒りをぶつけながら、私は人ならざる力を手に入れてしまった自分自身に少しだけ恐怖したのだった。