狩人はバッチをつけていた BAD END 作:muzineki
東京都内のどこかの地下。
そこに一人の若い女が囚われていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
苦しそうに息をする女は、艶やかな長い髪に、整った美しい顔立ちをしていた。
袖なしの青いレオタードに包まれた肢体は、見事なプロポーションで、大胆にV字カットされた胸元は豊かなバストを覗かせている。
彼女の名前は、来生瞳。
キャツアイとして夜空を飛び回り、美術品を盗み続けた女怪盗だ。
「はぁ……はぁ……うっ……うぅッ!」
瞳の口から呻き声が漏れる。
すらりと伸びた手足には、金属の円盤に4つのチェーンがついた、奇妙な拘束具が嵌められていた。
両手首と両足首にチェーンを嵌められ、一か所でまとめて拘束されているため、身体を常に前へ曲げることを強いられる。
そのため腹部を常に圧迫され、曲げたままの背中と腰も痛めつけられ苦しんでいた。
「もうダメ……苦しい……耐えられない……」
弱音を吐く瞳の姿を、監視カメラのレンズが静かに見据える。
独房内に死角なく設置されたカメラは、あらゆる角度から青いレオタード姿を撮影していた。
動体検知センサーにより、瞳の動きは指一本逃さず記録されている。
少しでも怪しい動きがあれば、すぐに警報が鳴る仕組みだ。
「だ、誰か……助けて……」
涙を浮かべる瞳の前には、目の細かい金網が合わされた鉄格子。
その先には、爆弾でも壊れない厚い鉄扉。
いかな怪盗キャッツアイとはいえ、電子ロックで施錠された二重の防壁から脱獄することは不可能だ。
仮に脱獄できたとしても、電気ショック付きの首輪が逃走を許さない。
独房の壁には、頭を打ち付けてもケガをしないよう、柔らかいマットが張られている。
自殺さえ許されない。
ガチャ
扉が開く音に瞳はピクリと反応した。
入って来たのは、老人1名に屈強な男が3名。
瞳の視線は、最後に入ってきたブランド品で身を固めたキザな男へと注がれる。
彼こそ瞳をこの地獄へと送った張本人、警視庁特殊犯罪対策特命課、通称『特命課』の課長、氷室であった。
「この娘が、あのキャッツアイかね?」
「はい、間違いありません」
老人に説明した氷室は、レオタード姿の美女を金網越しに見ながら薄ら笑いを浮かべた。
その間に部下である屈強な男たちが、電子ロックを解除して鉄格子を開く。
「留置番号4番、『取り調べ』の時間だ」
氷室の部下が独房へと入り、瞳の身体を押さえつける。
続いて老人が入り、4つのチェーンで手首と足首をくっつけて拘束された女怪盗の前へと屈みこんだ。
「ホッホッホッ、カニ錠とは懐かしいわい。ワシも現役時代は、これを使って口の堅い犯罪者を痛めつけたものじゃ」
老人は瞳の顎を掴むと、指で持ち上げ顔を覗き込んだ。
そこでようやく瞳は、老人が警察出身の大物政治家であることに気が付く。
「キャッツアイ、これがどうしてカニ錠と呼ばれるか、わかるかね? この戒具の装着が続くと、苦痛に身体が耐えられなくなり、口から泡を吹いて失神するからじゃよ」
説明しながら、老人は瞳の胸を掴んだ。
突然の感触に、瞳は悲鳴を上げる。
「きゃっ……きゃぁぁぁぁぁっ!」
古い切り株のようなゴツゴツした指の中で、瞳の乳房が形を変える。
両手両足がきつくチェーンで拘束されているため、抵抗できない。
屈強な男に肩を上から抑えられているため、逃げることも許されない。
「やめてっ! やめてぇっ!」
「うんうん、柔らかくて弾力のあるいい乳房じゃ、反応も良いし、これは取り調べが楽しみじゃわい」
老人は瞳の胸をたっぷりと堪能すると、ようやく手を離した。
身体をくの字に前へ曲げたレオタード姿の女は、苦しそうに全身で息をしている。
無理な姿勢で足掻いたせいであろう、抵抗する気力すら失ったらしい。
「おやおや、もう大人しくなったのかね? この程度の小娘に翻弄されていたとは、警察の質も落ちたものじゃ」
そう呟くと老人は、瞳から距離を取った。
氷室と部下の男2名は、目を合わせて苦笑いをする。
「では、続きは別の場所で楽しむとしよう、おい氷室、キャッツアイを連行しろ」
「はっ!」
氷室の指示に従い、部下の一人が移送用の戒具を装着するためカニ錠の鍵を外す。
カチャリと音がすると同時に、瞳の手足を拘束していたチェーンが緩んだ。
その瞬間、瞳は細い手足をカニ錠から抜いて、素早く立ち上がった。
「やっ!」
掛け声とともに老人へ向かって突進する瞳。
その動きは猫のように俊敏だ。
彼女の狙いは老人を人質に取って、この独房から脱出することにある。
だが氷室の部下が、とっさに反応して瞳の前へと立ち塞がった。
「たあっ!」
しなやかな右手に力を入れた瞳は、勢いをつけた突きを男の鳩尾へと叩き込む。
だが男は腹に拳を食い込ませつつ、ニヤリと不適な笑みを浮かべた。
「ムン!」
男は息を吐くと、鍛えぬ抜かれた腹筋で瞳の拳を跳ね返した。
そして瞳が怯んでいる間に、左腕と右肩を掴む。
気が付くと瞳は男に背負われ、一本背負いで床へと叩きつけられた。
「がふっ!」
肺の中の空気を吐き出して、呻く瞳。
かろうじて受け身は取ったが、全身に電気を流されたような衝撃が走る。
続いて男の大きな足が、瞳の胸へと振り下ろされた。
とっさに避けて立ち上がる瞳だったが、そこへもう一人の男が襲ってきた。
「あぁっ! うっ、ぐぅっ!」
背後から襲ってきた男は、瞳の右腕を掴んで捻った。
右腕を背中へと回された瞳は、関節を逆に曲げられる痛みにたまらず悲鳴を上げる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 腕が! 腕がーッ!」
背後で右腕を捻られる苦痛に悶える瞳。
掴まれているのは右腕だけだが、足掻けば足掻くほど肘や肩に激痛が走るため、身動きできない。
男は大して力も入れていないのに、身体に力が入らないため外すこともできない。
「あうっ!」
無防備になった瞳の鳩尾に、瞳を投げ飛ばした男のボディーブローが炸裂した。
内臓まで響く打撃に呼吸が止まり、胃液が逆流する。
男はさらに瞳の腹へ連打を放つ。
「がはっ! ぐっ! がふっ! あぐぅっ! ぁぁ……うぇ……おぅぇ……」
内臓が破裂するのではないかと思うような衝撃に、瞳の頭がガクリと下がる。
胃液と唾液が混じったものが、口からダラリと流れた。
全身から力が抜け、膝がガクガクと震えて止まらない。
だが後ろから腕を掴まれているせいで、膝を付いて倒れることさえできない。
「も……もうやめて……私が悪かったわ……降参するから……あうっ!」
パァンと乾いた音が独房に響く。
瞳の言葉を遮ったのは、氷室の平手であった。
その間に部下の男たちは、幅広の大型手錠を取り出し、瞳の細い手首にあてがう。
ガチャリ
冷たい音が鳴り、キャッツアイのマークが入った手錠が瞳の両手を戒める。
特命課が対キャッツアイ用に開発した特殊手錠だ。
長い両腕を背中の後ろで拘束された瞳は、苦痛からの解放を許されると同時に、床に膝を付いて崩れるように倒れた。
「フン、猫が犬に勝てないことが、まだわからないのかね? そこにいる二人は、逮捕術を極めた警視庁の選りすぐりだ。いくら君でも正面からでは勝てんよ」
「ぐうっ!」
うつ伏せに倒れるレオタード姿の女の脇腹を、氷室は無造作に蹴りつけた。
さらに頭を革靴で踏みつける。
「あうっ……うぅ……」
「身体が柔らかい君に、カニ錠は温かったようだな。だが弱っているフリをしても無駄だぞ。泥棒猫の考えることなど我々にはお見通しだ」
氷室は勝ち誇ったように言いながら、言葉の一区切りごとに瞳の頭に体重をかけて、グリグリと圧迫する。
「この独房に設置されたセンサーは、君の体温や心拍数、呼吸量などを常に計測している。君をどの程度まで痛めつけられるか、確認するためにな。小細工はするだけ無駄だ、諦めたまえ」
「うっ……うぅっ……」
氷室の言葉に、涙をこぼす瞳。
警察に敗北し、囚われて性の道具として弄ばれ、一縷の望みを託した反撃さえも簡単に潰される。
そんな屈辱感、敗北感に、瞳は打ち震えた。
「氷室よ、そろそろキャッツを痛めつけるのはやめてくれんか? このままでは、ワシが楽しむ分が無くなってしまうではないか」
ヒッヒッヒッと、老人が下品に笑う。
氷室は苦笑しつつ頭を下げると、部下に瞳の連行を命じた。
男たちは瞳に連行用の拘束具を嵌めていく。
ガチャリ
冷たい金属音を立てて、瞳の両足に頑丈な足枷が嵌められた。
胴体にもきつくチェーンが巻かれ、背中の後ろで手錠と繋げて両腕を厳しく戒める。
さらに首輪にも鎖が繋がれた。
鎖の先端は、氷室がしっかりと握っている。
これで脱獄は完全に不可能となった。
「さあ取り調べの時間だ、行くぞキャッツアイ」
「くうっ!」
氷室に首輪の鎖を引かれた瞳が、呻きながらヨロヨロと歩く。
両手両足を拘束され、首輪の鎖を引かれて歩くという、動物以下の扱いだ。
この惨めな姿で連れて行かれる先は、わかっている。
取調室とは名ばかりの拷問部屋だ。
そこで老人が満足するまで、苦痛と屈辱が与えられるのだ。
華麗に美術品を盗み続けた、女怪盗キャッツアイ。
その末路は刑務所ではなく、終わりの見えない生き地獄であった。