狩人はバッチをつけていた BAD END 作:muzineki
道行く人影もまばらとなった、深夜の桜田門前交差点。
そこを改造された黒のミニバンが、静かに曲っていく。
後部座席にはカーテンが引かれ、中ではレオタード姿の女が、目隠しと防声具をしたままの姿で座っていた。
「むうっ……」
防声具に開けられた網目の穴から、瞳は息をついた。
背中に回された両手は、対キャッツアイ用の特殊手錠で厳しく戒められ、両脚にも足枷が嵌められている。
二の腕と太腿もベルトで締められ、手には丸い皮のミットが嵌められ、指すら動かせない厳重拘束であった。
「静かにしろ、4番。これがある限り、お前が逃げることは絶対にできんよ」
右隣に座る氷室が、首輪に繋がる鎖をクイッと引く。
金属製の首輪には液晶パネルがついていて、そこには『LOCK』という文字が表示されていた。
「こいつは発信機付きの首輪だ。これがある限り君は我々から逃げられない。電子ロック式で、自力で外すことは不可能。さらに遠隔操作で電気ショックを与えることもできる。猫の鈴としては大したものだろう?」
氷室は首輪を引いて瞳の首を圧迫する。
彼の言う通り、護送中に逃げることは不可能だ。
前後には護衛の車も付き従っており、泪と愛の助けも望めない。
瞳に出来るのは、ただ到着まで待つことだけだ。
(特命課はいったい、これから私をどうするつもりかしら)
目隠しの下で目を瞑りながら、瞳は考えた。
本庁から出る時も、裏口から人目を避けて連れ出されている。
キャッツアイの逮捕が公表されていないのは、本当らしい。
(こんなことをして……特命課は一体、何が目的なの?)
自分の身に起きたことを、瞳は少しずつ遡って考える。
今回の事件は、最初から妙なことが多い。
輸送機を使った大掛かりな作戦に、犬鳴署に対する偽装の脅迫。
いくらエリートとはいえ、特命課のいち課長の権限で許されるものではない。
(警察の上層部が関わっているのは、間違いなさそうね)
ここまでして逮捕したキャッツアイを、警察が隠す理由は、いったい何であろうか。
可能性として考えられるのは、スキャンダルの隠蔽だ。
キャッツアイの正体が刑事の恋人だと知られれば、警察の不祥事として世間から叩かれる可能性がある。
だがこれだけでは 理由として弱い気がした。
(そういえば特命課は、私をキャッツアイの有力容疑者として調査していた。ひょっとしたらパパやママのことも、既に調査済みなのでは……)
一つの可能性に思い至り、瞳は背筋を凍らせる。
来生三姉妹には、怪盗キャッツアイのほかにもう一つの素顔がある。
それは著名なドイツ人画家ミケール・ハインツと、旧華族系財閥令嬢、来生真璃絵の間に生まれた娘としての顔だ。
三姉妹が父母から相続した資産は莫大で、中には国を代表する大企業もある。
氷室やその一味が狙っているのは、そちらの方かもしれない。
(もし彼らの狙いが来生家の資産なら、ここまでする事も説明できる……)
瞳の身体から嫌な汗が流れ落ちる。
その予想が当たっているとすれば、彼らは手段を選ばないだろう。
監禁や拷問はもちろん、最悪の場合は殺害すら考えられる。
(イ……イヤッ! そんなのイヤッ! た……助けて、姉さん! 愛!)
滲み出た汗が、後部座席のシートをべっとりと濡らす。
その間も厳しく戒められた女囚を運ぶ護送車は、ゆっくりと夜の街を走り続けた。
瞳の体感で30分ほど経った後、護送車は目的地に到着した。
後ろ手に手錠をかけられ、腰縄と足枷で戒められ瞳が、車の外へと連れ出される。
ひんやりとした夜風が冷たく、レオタード姿の瞳の身体を震わせた。
(ここは……どこ……)
少しでも情報を得ようと首を動かす瞳だが、目隠しをされているため何も見えない。
刑事たちは瞳の腕を掴むと、方向感覚を失わせるため身体を回した。
そして両腕を掴んだまま、瞳を連行する。
コツ……コツ……コツ……
視界を奪われたまま、瞳は建物の中へと連れ込まれた。
少し歩くと電子音が鳴り、重い扉が開く。
そこからさらに、長い下りの階段。
地の底へと連れて行かれるのを感じ、瞳は防声具の奥で歯を打ち合わせた。
「ついたぞ、キャッツアイ」
扉が開くと同時に、瞳は部屋へと押し込まれた。
そしてはじめて目隠しを外される。
目の前に現れたのは、四方をコンクリートに囲まれた殺風景な部屋であった。
中には屈強な警官たちが並んでいて、みな氷室に向かって敬礼をしている。
「特命課の氷室だ、4番の護送を完了した、確認を頼む」
「了解しました。留置番号4番、来生瞳、通称キャッツアイを確認。これより収容を開始します」
警官たちは瞳の身柄を受け取ると、まず防声具を外した。
口に溜まっていた唾液が溢れ、顎を伝って胸元へと零れ落ちる。
「うっ……ぷはぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「苦しかったかね、キャッツアイ。お詫びに少しだけ、自由な発言を許可しよう。大声を出してもかまわんぞ。外に声が漏れることは、絶対に無いからな」
氷室の言葉に警官たちが苦笑する。
鍛えられた身体つきをした彼らの眼光には、不穏な光が宿っていた。
それは獲物をどう捌くかを考える、狩人の目であった。
「ここが私の新しい別荘というわけね。いったい、どこの警察署になるのかしら?」
怯えを隠すため、瞳は精一杯の気力を振り絞って笑顔を作る。
声に震えを出さなかった事は、奇跡に近い。
「悪いがこの留置場に公的な名称は無い。我々の間では、『穴蔵』と呼んでいるがね」
「なるほど、穴蔵ね。つまり警察が秘密にしたい物を処分する場所、ということかしら?」
軽い口調とは裏腹に、瞳の全身にはびっしょりと汗が浮かんでいる。
その言葉が冗談にならないことは、この空間に漂う異常な緊張感が示していた。
「フフフ……心配するな。君のような美しいお嬢さんに、そんな残酷なことはしないよ。ここで行うのはただの取り調べさ」
「だったら被疑者の人権を守った紳士的な対応を、期待しているわ」
皮肉を込めた瞳の言葉は、すぐに裏切られた。
警官たちは手錠を嵌められた瞳の腕を掴み、乱暴に引き立てる。
そして隣の部屋へと連行した。
「……!」
目の前へ現れた光景に、瞳の顔からスーと血の気が引いていく。
そこはおぞましい責め道具が並ぶ、拷問部屋としか言いようがない場所だった。
「君には申し訳ないが、この場所に収容される者に人権は無い、何が起きても闇から闇だ。紳士的な対応を期待したいのなら、態度を改めることだな」
氷室は言い終わると、屈強な警官たちに取り調べの準備をするよう命じた。
抵抗する間もなく、瞳は万歳するように両手を上に伸ばした姿勢で天井から吊るされる。
「くっ……」
爪先が辛うじて床に付くかどうかという高さで、ユラユラと身体を横に揺らしながら、瞳は氷室を見据えた。
氷室の手には、鞭が握られていた。
「さあキャッツアイ、取り調べを始めるぞ」
「くうっ!」
鋭い音が響き、氷室の鞭が瞳の尻を打った。
必死に声を我慢しようとするが、痛みに思わず悲鳴が漏れる。
「そ、そんな事をしても無駄よ。知っていることは全て喋ったもの。私から引き出せる情報なんて、もう無いわ」
瞳が言い終わると、氷室は前へと回った。
そして腹部へと鞭を振り下ろす。
「あうっ!」
「先ほども言ったが、君にはまず、その生意気な態度を改めてもらおう」
ヒュッと風が切り、無防備に真上へ伸ばされた身体を鞭が打つ。
鞭は一発で終わらず、連打が容赦なく降り注いだ。
「くうっ! あうっ! ああっ! ひぃぃっ!」
ビシッ、バシッっという、鞭の音と悲鳴が、交互に地下室の空気を震わせる。
叩かれるごとにレオタードの薄布は破れ、赤く腫れた柔肌が露になった。
「あぐっ! ひぃっ! きゃぁぁっ!」
床から浮いた脚、レオタードから露になった背中、万歳する形で拘束された腕と、あらゆる場所を氷室の鞭が打ち据える。
彼が手にしているのは、俗に一本鞭と呼ばれる革製の鞭だ。
肌を傷つけぬよう先端は平たくなっているが、一撃ごとに瞳の身体は震え、焼けつくような痛みが全身を襲う。
「ヒィィィッ!」
悲鳴とともに、瞳の身体が反り返る。
右の乳房を打たれたのだ。
続いて左の乳房にも、氷室の鞭が振り下ろされる。
「クゥゥゥッ!!」
瞳の息が詰まり、上半身がブルブルと震える。
衝撃でレオタードが裂け、豊かな乳房がぽろりとこぼれ落ちた。
赤面する瞳だが、この状態では隠すこともできない。
「いい物を見せてくれたお礼だ、少しだけ休ませてあげよう」
「うぅっ……くぅっ……」
鞭が終わると同時に、ガクリと瞳は項垂れた。
荒い息には苦鳴が混ざっている。
トレードマークの青いレオタードは所々が裂け、乳房や尻は露になっていた。
しかし今の瞳には、恥ずかしがっている余裕すら無い。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「どうだねキャッツアイ、少しは効いたかね?」
問いかけながら、氷室は鞭の柄で瞳の顎を持ち上げた。
瞳は苦悶しつつも笑みを作り、ふんと鼻を鳴らす。
「た……大したことは無いわ……ところで……これって取り調べでしょう……少しくらいは尋問を……してはくれないのかしら……」
息も絶え絶えに、皮肉の言葉を吐く瞳。
そんな瞳の乳房を、氷室はぎゅっと掴む。
敏感な部分への刺激に、瞳は呻いた。
「ううっ!!」
「ご忠告痛み入るぞキャッツアイ。だが実のことを言うと、君の自白にもう興味は無いのだよ。この取り調べの目的は、君に対する『躾』なのだからな」
「そ、それってどういう……あっ、いやっ!」
氷室はゆっくりと指を動かし、瞳の乳房を揉み始める。
豊かな乳房が掌の中で形を変えた。
「ふふふ、柔らかくて揉みごたえのあるいい胸だ。さすがハインツの娘らしい、芸術的な身体だ」
「……!」
その言葉に、瞳の脳が揺さぶられる。
やはり特命課は、キャッツアイの真の正体に気が付いているのだ。
最悪の予想が当たっていた事実に、瞳は眉をひそめる。
だがそんな事に構わず、氷室はゆっくりと顔を瞳の乳房に近づけると、ピンク色の乳首を咥えた。
「ちょ……や、めっ……あああっ!」
瞳は思わず声を上げた。
その反応を面白がるかのように、氷室は瞳の乳首を歯で軽く噛み、先端を舌先で舐め回す。
「あっ……あぁんっ! や、やめてよぉ……んっ! はあぁんっ!」
「はしたない声を上げるのはやめたまえ。それでも旧華族の名門、来生伯爵家の血を引く令嬢かね?」
生理的な現象により、瞳の乳首は勃起を始めていた。
それを見た氷室は、指で輪を作って乳首をピンと弾く。
「あうっ!」
敏感な部分への刺激に、ビクッと身体を逸らす瞳。
周りを囲む警官たちは、その姿に失笑する。
「はぁ……はぁ……そ、それで……特命課はいったい……私をどうするつもり……な、何が目的で……こんな事をするの……」
羞恥に顔を赤く染めながらも、瞳は猫のような鋭い目つきで氷室を睨み付けた。
睨み付けられた氷室の方は、瞳の前でポキポキと指の関節を鳴らす。
「さっきも言っただろう? これは君に対する躾なのだよ。国を代表する財閥の一族という立場を忘れ、怪盗ゴッコという火遊びに興じるメス猫たちを懲らしめるためのね」
「か、怪盗ゴッコですって……がはっ!」
鳩尾を殴られた瞳の身体が、吊るされたままくの字に曲がる。
身体は勢いよく後ろに飛び、そして振り子になって氷室の前へと戻ってきた。
内臓へ響く鈍痛に息を詰まらせているのだろう、額から脂汗を流して悶えている。
「がっ……げほっ! う、うぇ……おぇ……」
「もし君たちの犯罪がマスコミで報道されたら、どうなると思う? 来生財閥の所有する企業は信用を失い、我が国の経済は多大な損失を被ることになるのだ。君はその責任について、少しは考えたことがあるのかね?」
「ぐうっ!」
氷室の拳が再び瞳の腹を直撃する。
息を詰まらせ涙を流しながら、瞳の身体が後ろへ吹き飛ぶ。
そして戻って来たところに合せ、さらに氷室は正拳突きを放った。
「がっ……ゲホッ! ゲホッ!」
ユラユラと揺れる瞳の口から胃液が吹き出した。
空腹状態だったので量は少なかったが、勢いよく床下に散らばる。
ゲホゲホと涙を流してむせる瞳。
ぼやけた視界には、鞭を持つ氷室の姿が映っていた。
「君のような野良猫を放置するのは、我が国にとって危険なのだよ。そこでキャッツ確保の命令が我々に下されたというわけだ。君たちが二度と火遊びを考えないようにね」
「くうっ!」
氷室の鞭が瞳の肩を打ち据える。
鋭い痛みに、悶えていた瞳の顎が上がる。
「今後、君たちは死ぬまで特命課の監視下に置かれる。管理しやすい従順なペットになるよう、躾を行った上でね。これが我々の本当の目的だ、理解できたかね?」
「ひいっ! ううっ! ああっ! いやぁっ!」
情け容赦ない鞭打ちに、瞳は激しく身をよじる。
身体が揺れ、両手を吊るす鎖が乾いた音を立てた。
「うあっ! くぅっ! ひいっ!」
滂沱として流れる汗と、そして涙が頬から顎先へ伝った。
苦痛のあまり、遂に気を失う。
だが乳房へ振り下ろされた鞭が、意識を強引に覚醒させる。
瞳がどんなに悶えても、鞭の嵐は止まらなかった。
「あぁぁぁぁっ! ひいぃぃぃっ! ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」
永久とも思える時が過ぎてゆく。
何度目かの失神と共に、頭を上げる事さえできなくなる。
そこでようやく躾の終わりが告げられた。