※この作品はR-18です。

狩人はバッチをつけていた BAD END   作:muzineki

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2:特命課の罠

悪夢の始まりは、2か月前。

その日、キャッツアイは警察無線の盗聴により、謎の強盗団『ホットドック』が美術品を運ぶ香港からの輸送機をハイジャックしたとの情報を手に入れた。

父の絵を取り戻すため、強盗団が着陸した山中へと向かう瞳。

だがそれは、特命課の氷室課長が仕掛けた罠であった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

暗闇の中、瞳は冷たい金属の壁に手を付いた。

そして金庫の中を丹念に探る。

だが何度も調べても、脱出方法は見つからない。

壁は堅牢で、手持ちの道具で破壊することは不可能だ。

 

「まさか……私を逮捕するために……ここまでするなんて……」

 

山中へとおびき寄せられた瞳は、ハインツの絵を餌にした罠にかかり、金庫の中へと閉じ込められた。

そして特命課により、金庫ごと拉致されてしまう。

別の世界線では、作戦に反対する犬鳴署の課長の妨害により、瞳は辛くも難を逃れることができた。

しかしこの世界に犬鳴署の課長は現れず、輸送作戦は滞りなく実行されてしまう。

キャッツアイ逮捕のカウントダウンが始まった。

 

「ダメだわ……何度調べても……脱出方法が……見つからない……」

 

瞳はガクリと膝を折ると、両手を床に付いた。

四つん這いになった身体が、酸素を求めて激しい呼吸を繰り返す。

身体が上下に動く度に、キャミソールからこぼれそうな乳房がユサユサと揺れる。

 

「うっ……がっ……がはっ!」

 

苦しそうにせき込む瞳の真上には、小さな換気口があった。

息苦しさは、そこから空気が抜かれているせいだ。

逮捕をより確実にするため、キャッツアイを仮死状態へ追い込もうとする、氷室の仕掛けた残酷な罠だ。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……うっ……あっ……あっっ!」

 

呻きと同時に、床に付いていた瞳の腕が折れる。

冷たい金属の床に豊かな乳房が押し付けられ、レオタードに包まれた肢体がうつ伏せに倒れた。

苦しそうに息をつく度に、心臓の鼓動は早まり、全身が熱くなる。

レオタードから大胆に露出した背中には、無数の玉の汗が浮かんでいた。

 

「もう……どう考えても……自力脱出は無理ね」

 

瞳は腰に巻かれた黄色い布を探ると、小型の通信機を取り出した。

そして藁にもすがる思いで、スイッチを入れる。

 

ザーザー、ザーザー、ザーザー

 

通信を何度も試みるが、聞こえるのはノイズだけだ。

この金庫には、電波を妨害する仕掛けも施されているらしい。

 

「助けを求めることも……居場所を知らせることさえも……できない……このままでは……私……」

 

通信を諦めた瞳の耳に、バラバラというプロペラ音が聞こえる。

キャッツアイを閉じ込めた金庫を吊り下げて輸送する、ヘリコプターの音だ。

行先は間違いなく、特命課のある警視庁本部庁舎。

屋上のヘリポートには、万全の準備をした刑事たちが待っているに違いない。

そんな時に失神していれば、為す術もなく逮捕されるのは明らかだ。

 

「い……イヤッ! 逮捕だけは……俊夫に私がキャッツだと知られるのだけは……絶対にイヤッ!」

 

最後の気力を振り絞った瞳は、壁に手を付いて立ち上がった。

そして金庫内を動き回って脱出方法を探す。

 

「何とかして……ここから逃げないと……」

 

必死に金庫の中を調べ回る瞳だが、その行動は全て徒労であった。

特命課がキャッツアイ捕獲に準備した金庫に、逃げ道などあるはずがない。

瞳の最後の足掻きは、貴重な酸素を浪費するだけに終わる。

そして絶望の瞬間が、遂に訪れた。

 

「がっ……かはっ!」

 

大きく咳き込んだ瞳の身体が、グラリと崩れた。

青いレオタードに包まれたグラマーな肢体がドサリと音を立て、冷たい床へと倒れる。

 

「もうだめね……」

 

うつ伏せに倒れた瞳が、諦めの声で呟いた。

頭がズキズキ痛み、全身から熱っぽさが止まらない。

明らかに酸素欠乏の症状だ。

このままでは遠からず、意識を失うだろう。

 

「逮捕されるくらいなら、いっそ……」

 

絶望した瞳の頭に浮かんだのは、自殺の二文字。

だがその体力さえ、今の瞳には残されていない。

両手両足に痙攣が始まり、酸欠で思考も鈍くなり、考えることすら億劫になる。

 

「……助けて……姉さん……愛……がっ! あがっ!」 

 

全身を弛緩させて、悶え始める瞳。

反射的に手で喉を抑え、喘ぐような呼吸を繰り返す。

 

「がっ……がはっ! うぇ……おぅぇ……がっ! うぁ……がはっ!」

 

瞳は酸素を少しでも得ようと、喉を強く抑え、深く息を吸い込む。

だが全身で息をしても酸素が入ってこないため、ますます苦しくなる。

意識が朦朧とし、四肢に力が入らない。

それでも逮捕されたくないという一心が、瞳の意識をかろうじて保つ。

 

「がはっ! がっ……あ゛……がはっ! ……うっ……ぅぁ……がっ!」

 

失神できない瞳に待っていたのは、頭痛、耳鳴り、吐き気といった苦痛のオンパレードであった。

全身が痙攣し、苦しさに涙が止まらない。

横たわったレオタード姿がくの字になり、意思とは関係なく口がパクパクと動く。

心臓は破裂しそうな勢いで鼓動を早め、全身から異常な量の汗が流れ、レオタードをベットリと濡らしている。

 

「がっ……あっ……がっ! がはっ!」 

 

大きく息を吐くと同時に、瞳の視界がグラリと歪む。

喉を抑えていた手から力が抜け、ぱたりと床へ落ちた。

うつ伏せで倒れた全身が、ピクピクと痙攣する。

開きっぱなしの口元から涎が流れ、だらしなく床を濡らす。

 

「ぅぁ……ぁぁ……ぁ……」

 

やがて瞳の視界が、真っ黒に染まった。

身体の震えが止まり、投げ出された手足がピクリとも動かなくなる。

残された意識も、闇の中へと消えた。

こうして怪盗キャッツアイは、特命課の仕掛けた罠へと落ちた。

 

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