狩人はバッチをつけていた BAD END 作:muzineki
朝、喫茶店『キャッツアイ』。
泪と愛は2階のリビングで、届けられたばかりの朝刊をかじりつくように読んでいた。
「やっぱり今日も載ってないよ。警察はまだ瞳姉のことを、発表していないみたい」
「朝のニュースも全局見たけど、どこも放送していなかったわ」
二人は濃いめのコーヒーを喉に流し込むと、息をついた。
眠れぬ夜を送ったせいか、気だるさと疲労感で身体が重い。
しかし緊張を解くわけにはいかない。
今の来生家には、いつ警察が踏み込んでくるのか解らないのだから。
「泪姉、ひょっとするとこれって、ボク達を油断させるための警察の作戦じゃない? やっぱり逃げた方がいいんじゃ……」
「その可能性はあるけど、ここで逃げれば、それこそ私たちがキャッツと認めているようなものよ。今は落ち着いて行動しましょう」
焦りを懸命に抑え込み、泪は愛を落ち着かせる。
泪と愛を逮捕するための決定的な証拠は、まだ警察は掴んでいないはずだ。
疑われていたとしても、すぐに逮捕状を突き付けられる心配は無い。
ここで不自然に動けば、それこそ警察に隙を見せることになる。
「今日あたり、何かの動きはあるはずよ。次の判断は、それから考えましょう。ただし警察が家宅捜索に来たら、その時はわかっているわね」
「うん、すぐに下水道から脱出。そして隠してある車に乗って、永石さんが用意した別荘まで逃走だね」
ピンポーン
突然、インターフォンの音が鳴った。
稲妻のような緊張が、泪と愛を貫く。
愛は急いで特製のタブレットを立ち上げると、外に仕掛けた監視カメラの映像を見た。
映っているのは、瞳の恋人である内海刑事の姿だった。
「る、泪姉……俊だよ、俊が来た!」
タブレットに映る内海刑事の険しい顔に、愛が動揺する。
泪の頬にも汗が流れるが、かろうじて緊張を飲み込み、頭を回転させた。
「愛、落ち着きなさい、まず周りを確認よ。私たちを逮捕に来たのなら、きっと応援がいるはずだわ」
愛は急いで画面を切り替えると、熱感知センサーで店の周囲を確認する。
しかし何度見ても、店の周囲に人は見当たらない。
念のため2階に上がり目視でも確認するが、警官が隠れている気配は無かった。
「俊の奴、本当に一人で来たみたいだね」
「となると家宅捜索や、逮捕の為ではなさそうね。仕方ないわ、中に入れましょう」
「えっ!? 大丈夫、泪姉。ここは居留守を使った方がいいんじゃ……」
「必要の無い嘘は、こちらの首を絞めるだけよ。まずは相手の出方を見ましょう。ただし逃げる準備だけは、忘れないで」
ガチャ
臨時休業の札をかけた扉を開き、泪が内海刑事を中へ招き入れる。
内海刑事は険しい表情を崩さないまま、店内へと入ってきた。
「いらっしゃい、俊夫さん」
「お、おはよう、俊」
「ええ……泪さん、愛ちゃん、おはようございます」
内海刑事の声には、苛立ちが見えた。
カウンターに座る彼に、泪は緊張気味にアメリカンを煎れる。
「ところで瞳の姿が見えないんですが……今日はいないんですか?」
その言葉に愛の表情が固まる。
かろうじて動揺が表に出るのを防いだ泪も、コーヒーを注ぐ手に汗をかいた。
「え、ええ……瞳はちょっと用事があって、出かけているんですよ」
「そうですか……」
そこで内海刑事は一呼吸置き、コーヒーを喉へ流し込んだ。
泪はその隙に、床にある緊急用スイッチの場所を確認する。
喫茶店『キャッツアイ』から犬鳴署までは、徒歩でたったの5分だ。
逃げる準備を忘れることは、決して許されない。
「だったら瞳に伝えてもらえますか? 急な話なんですが、異動の内示があったんです。来週から福岡の花見署へ出向します」
「えっ?」
突然の言葉に、泪と愛は顔を見合わせた。
「向こうから帰ってきたら、試験なしで警部補に昇進とのことです。一応は、栄転ってやつになりますかね……」
「す、すごいじゃん、俊」
「おめでとう、俊夫さん、瞳もきっと喜ぶわ」
堅い笑顔を作る泪と愛。
そんな二人の言葉に、内海刑事がピクリと反応する。
「とんでもない!」
彼は右手に拳を作ると、カウンターをドンと叩いた。
「この人事は、警視庁から来た特命課の氷室って野郎が仕組んだことなんですよ!」
そう叫んだ内海刑事は、肩を震わせていた。
興奮する刑事の姿に、泪と愛は虚を突かれてたじろぐ。
「あの野郎は、キャッツアイを捕まえるために特命課に強盗団を装わせ、犬鳴署を騙していたんです! その挙句、特命課がキャッツの逮捕しに失敗したことを隠すために、上に手を回して俺たちを外へ飛ばしたんですよ!」
「えっ……ええっ!?」
「と、特命課がキャッツの逮捕に失敗した……ですって!」
瞳の逮捕を知る泪と愛にとって、それは衝撃の言葉だった。
だが怒りに打ち震える内海刑事は、二人の動揺に気付かず、さらに言葉を続ける。
「異動は俺だけじゃありません、浅谷君はインターポールへ研修。課長は署長として田舎の署へ行くことになりました。俺たちはもう二度と、キャッツの捜査に関わることはできないでしょう……畜生!」
内海刑事は拳を作ると、もう一度カウンターへ叩きつけた。
混乱する泪と愛は、その姿を茫然と見ることしかできなかった。
その頃の、警視庁本部庁舎。
特命課の奥にある部屋では、瞳が痛みと疼きに耐えていた。
相変わらず正座を崩したような姿勢で、全身を鎖と枷で拘束されている。
目隠しもされたままで、ローターにより屈辱と快楽を与えられていた。
「うぅ……あぁ……くぅっ!」
乳首とクリトリス、そしてアナルへの責めに、瞳は背筋をピンと伸ばす。
ローターを一晩中、動かされていたせいか刺激は薄らいでいる。
だが眠ることは、とてもできなかった。
頭はボウッとし、苛酷な責めを受けた身体は疲れ切っている。
「うぁ……ぅぅ……あうっ!」
眠気で身体がグラリと揺れるた所で、ローターの刺激が強まった。
青いレオタードに、勃起した乳首が浮かび上がる。
ローターを操作したのは、監視カメラで瞳を見張る特命課の刑事たちだ。
強制的に快楽を与えられ、見世物にされる屈辱に瞳は唇を噛む。
ギィ……
扉が開く音に、瞳はすぐに反応した。
目隠しで見えないが、足音で誰なのかはすぐにわかる。
瞳の留置担当官である、佐藤刑事と平松刑事だ。
「4番、ご飯を持ってきましたよ」
佐藤刑事が瞳の目隠しを外す。
ようやく視界が戻った瞳の眼には、プラスチックの容器の弁当箱があった。
「パンばかりで飽きたでしょう。今日の官弁はご飯ものにしてあげたわ、遠慮せず食べなさい」
平松刑事が瞳の首輪と足枷を繋ぐ鎖を外した。
これにより瞳は、上半身だけ前へ倒せるようになる。
だが両手両足は厳しく戒められたままで、弁当を手にすることさえできない。
「ちょっと、この格好でどうしろっていうのよ」
「わからないの? 手が使えなくても、口があるじゃない」
「4番、弁当は猫のように、口だけで食べてください。キャッツアイを名乗る貴女なら、それくらいはできるでしょう」
二人の女刑事は、瞳の身体を押さえつけた。
そして頭を掴み、弁当に口を近づけさせる。
瞳は首を振って、イヤイヤとそれを拒否した。
「い、嫌っ! そんなこと、できるわけ無いでしょう」
「そういう訳にはいかないの。今日は移送があるから、貴女にはきちんと食べさせるよう、氷室課長から命令されているの」
「官弁は自殺防止のため、魚の骨などは全て除かれています。だから口だけで食べても安全です。さあ食べなさい、これは命令です」
女刑事たちは、手に力を入れて瞳の頭を弁当箱へ押し付けた。
白米や白身魚のフライ、きんぴらごぼうが、女怪盗の美貌を汚していく。
「ほら4番、これは国民の血税で作られたありがたいお弁当ですよ。残すことは許しません」
「官弁はカロリーも考えられていて、普通の弁当より手間もかかっているの。貴女のような犯罪者には勿体ないくらいだわ。ありがたく食べなさい」
弁当から逃れようとする瞳を、女刑事たちは二人がかりで抑え込む。
潰れたおかずや白米が鼻の中に入った瞳は、苦しさから咽るような咳をする。
そんな時、部屋の扉が開いた。
中へ入ってきたのは、氷室であった。
「様子を見に来たのだが、どうした?」
二人の女刑事は、すぐに上司の方を振り向いた。
レオタード姿の被疑者が、女刑事たちに頭を弁当箱に押し付けている姿を見ても、氷室は無表情であった。
「はっ、ご指示の通り、4番に食事させている所です」
「ですが官弁を拒否していまして、やむなく強制摂食の処置をしています」
「そうか」
氷室は小さく言うと、ゆっくりと瞳に近づいた。
そして右足を上げると、瞳の後頭部を踏みつけた。
「あぐっ!」
グチャッと音がして、からあげが瞳の鼻で潰される。
氷室は脚に体重をかけて、グリグリと堅い床に瞳の顔を押し付ける。
「君たちの躾は温い、だから野良猫に舐められるのだ。自尊心など持てぬよう徹底的にやれ。そう命令したはずだぞ」
言葉が終わると、瞳の頭からスッと氷室の足が離れる。
後頭部の圧力が無くなり気を緩める瞳だが、すぐに次の衝撃がきた。
「ぐうっ!」
再び踏みつけられた瞳は、頭を思い切り床に打ち付けた。
額からは、つうっと血が流れている。
「こ、こんな事をしていいのかしら……今日は、私を検察へ送致する日でしょう?」
瞳は頭を上げると、笑みを作って振り向いた。
そして皮肉そうな口調で刑事たちへ言う。
「今日は私の顔がテレビカメラで全国に晒される日よ。そんな時に傷なんてついていたら、困るのは貴方たちではなくて? キャッツの正体といっしょに、暴力警察の実態が放送されるわよ」
弁当で汚れた顔で、瞳は精一杯の反撃をする。
だがそれに対する氷室の返答は、鳩尾への強烈な蹴りであった。
「がふっ!」
「この期に及んで君は、まだそんな事を言っているのかね」
氷室はもう一度足を振り上げると、瞳をサッカーボールのように蹴り飛ばした。
一切の加減の無い蹴りに瞳の身体がくの字に曲がり、ゴロゴロと床を転がる。
「がはっ! げほっ! うげっ……うぇぇ……おぅぇ……」
「君のような重罪人に、法の下の平等が適用されると思っているのかい? これから行くのは検察庁や刑務所ではない、野良猫にふさわしい場所さ」
氷室は脚を上げると、無防備な瞳の腹を踏みつけた。
そして口元を吊り上げ、サディストの本性を露にした顔でグイっと体重をかける。
大柄な氷室に踏みつけられた瞳は、呼吸ができず悶えた。
「がはっ……げほっ……がっ……あがっ!」
「君への罰はそこで与えられる。怪盗を気取って警察をコケにした罪を、せいぜい後悔することだ」
レオタード姿の美女が悶える姿を愉しみながら、氷室は鳩尾を踏む脚に力を入れた。
そんな時、バタンと音がしてドアが開く。
現れた特命課の刑事は、慌てた表情で氷室に報告した。
「氷室課長、大変です、犬鳴署の浅谷刑事が来ました!」
氷室に踏みつけられ悶えていた瞳が、ハッと頭を上げる。
だがすぐに、女刑事たちに口を押さえつけられた。
彼女たちは防声具で素早く瞳の口を塞いでしまう。
「むぅっ! むぅん! うぅん!」
革製のマスクに顎と口を拘束された瞳が、呻き語を上げる。
網になったわずかな穴から息はできるが、口を開けないため言葉にならない。
「静かにしていなさい、4番。でないとまた痛い目に合わせるわよ」
「浅谷刑事がここに来たら、貴女も困るでしょう? それが嫌なら静かにすることです」
女刑事たちは防声具のベルトを、瞳の後頭部できつく締めた。
そして鍵をかけて、外せないようにしてしまう。
抵抗を諦めた瞳は、女刑事たちに身体を掴まれたまま、ガクリと頭を下げた。
そんな瞳に背を向けた氷室は、フンと鼻を鳴らして部屋から出て行った。