体の重心を少しだけ前方に傾けると、空気の音が聞こえた。
青い空を飛ぶ。
これで自由になった。楽になった。
そして考える。
――――私が死んだら世界は傷ついてくれるかな?
これはずっと私を苦しめてきた問題だった。
お母さんはどれくらい泣いてくれるかな。
クラスのみんなは……1日くらいは泣いてくれるかも。
私が魔女退治で助けた人たちは泣いてくれない。
きっと、キュゥべえは泣かない。
帆奈ちゃんは……。
帆奈ちゃんは、どう思ってくれるんだろう。
「…………」
ごめんね、帆奈ちゃん。
私があなたに応えられるような私じゃなくて。
きっと帆奈ちゃんに見せられるような自分を持っていないから、嘘をつくことでしか一緒にいられなかった。
どんな優しさにも応えることができないから、どんなに嬉しいことでも悲しくなっちゃうんだ。
こうやって虚空に放り出されてから、知りたかったことをたくさん思い出した。
蝶々を追いかけている人のスタンプってどういう意味だったの?
もやしのサンドイッチはおいしかった?
もやしと言えば……結局好きな食べ物を教えてくれなかったね。
「んふふ……」
笑い声をこぼしてしまって、そして気づいた。
……私は確かにキラキラした世界にいたんだ。
いつも受け取ったたくさんの幸せを嘘だと決めつけて、本当のことにしようって必死だった。
でも、向かい風に打たれている今はそんな嘘たちが唯一温かい。
今さら、小さな未練が芽生える。
私はこの温かい感じを帆奈ちゃんに伝えなければいけないと思った。
そのためだけに帆奈ちゃんに会いたい。
テレパシーでもいい。もしテレパシーが水名まで届くのなら……。
ゆっくり、ゆっくりと、そして着実に地面に接近する。
帆奈ちゃんとの思い出から自然に帰るように。
私はぼうと眺めた。私がいなくなっても回り続けるこの世界のことを。
次の瞬間、どれくらい世界にヒビが入るんだろう?
そのヒビが私の存在に意味をもたらすのだと思っていた。私がいなくなることで、この世界が割れた鏡のように壊れることをずっと望んでいた。
だとすると私は、帆奈ちゃんに傷ついてほしいと思うはずなのに……。
なのに、飛んだ今は不思議とそんなふうには思えない。
帆奈ちゃんには泣かないでほしい。
私のことを忘れてほしくないけど、苦しまないでほしい。
ある日突然消えた誰かにはなりたくないけど、私のことを思い出すときは、温かいものだけを思い出してほしい。そしてさっきの私みたいに、思い出し笑いをしてほしい。
ようやく未練の正体に気づいた私は水名にテレパシーを送る。
魔法少女は奇跡を起こすものだから、私が死んだ頃には届いているはずだ。
END:ダイブ