※この作品はR-18です。

Shining Storage   作:誕生日おめで灯

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1-2 共闘(1)

 ジメジメした空気が肌に粘りつく。

 鼻につく酸っぱい匂い。色んなもので合成された、とにかく酸っぱいとしか分からないような匂いだ。

 むせ返るほど気持ちが悪いのに、自分は実によくこの匂いに溶け込んでいる。

 

 ここはどこだろう?

 

 色で言えば、灰色。形で言えば、四角。

 ここは灰色の四角い空間だ。あたしは汚れた灰色の壁に囲まれて、四角い空間に閉じ込められている。

 立っているだけで、なんだか気が滅入る場所。

 でも……なぜか見慣れているような気がする。

 

 どこだったっけ……?

 

「――――ぁがっ!」

 

「そんな面でこっち見てんじゃねーよ!」

 

 腹部に走った衝撃ではっと見上げる。

 そこにあるのは、酒に酔った男の真っ赤な顔。

 瞬時に全てを思い出す。

 

 そうだった……そういうやつもいた。世間では父親って呼ばれていたやつ。

 あいつは死んだはずだから、今度こそ、夢かな。

 

「あっは……」

 

 やめてくれよ、最初の最初から掘り返すなんて。

 

    ◇

 

 一人、歩んできた道を――――崖までの道をたどるような夢を見る。

 

 両親が死んだ後は孤児ってやつになって施設に入った。

 3年前までそこで過ごしていたけど、大した思い出はない。

 

 ……小学校でもいじめられていたからね。もうそれだけでいっぱいいっぱいだった。

 

 でも、あのときはまだ未来を信じていた。

 地元を離れていい感じの学校に行けば、何かが変わるんじゃないかって。

 だから勉強した。人と関わらずに済む大義名分でもあるし、その頃はとにかく没頭した。

 受験勉強をするには学校の教材じゃ足りないから、まともな問題集を入手しようと、施設のスタッフと掛け合ってみたり。

 自分から話しかけに行ったの、あれが最初で最後なんじゃないかな。

 

 その後、努力もとい逃避が功を奏して、あたしは学費免除を受けて水名女学園に入学した。

 

 

 

「うぐッ……」

「目障りだっつーの! もう学校来んなよ! 水名の恥がッ!」

「……っ」

 

 でも、うまくいかなかった。

 うまくいくはずがなかった。

 だってあたし自身何ひとつ変わっていなかったから。いつまで経っても陰気臭い自分じゃ、どこに行っても同じだ。

 

 環境が変われば全てが変わる、というのは甘い理想にすぎない。

 何かをするたびクスクス笑われていただけのいじめはエスカレートして、とうとう暴力の嵐となって身体に降り掛かった。

 教室にいると何をされるのか分からないから、弁当はトイレにこもって食べていた。

 喧騒に満ち溢れていた昼休みのトイレの個室は驚くほど静かで……そこにただ存在しているうちに、自分はもうそういう性質のものなんじゃないかって思えてくる。

 心の表面に張りついた怒りと憎悪のもっと奥、根っこの部分へと染み込んでいくように。

 

「あたしは持たざる者だから、持っていないだけ。虐げられる者だから、虐げられているだけ」

 

 結論をつぶやく。

 今までがそうだったように、これからもそうなる。

 あたしの深層に、その確信が染み渡った。

 

    ◇

 

 この夢はあたしの歴史――――被虐の歴史だ。

 大きな歴史が織りなす密な網の中で、勝手に紡がれてきた翻しようのない小さな歴史。

 社会、町、家庭、学校。

 気持ち悪いくらいに周到な仕組みに首を絞められながら、あたしは被虐を強要される。持たないことを強要される。

 悪意に追い詰められて、あのときあたしは崖を飛び降りたのだ。

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